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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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71話

オフィーリアは、練習して会得した氷のような冷たい表情で、蔑むような視線をケイモスに向けた。


オフィーリアの周りだけ、全てが凍えてしまいそうな空気感である。


「そう、それがあなたの謝罪ですか。誠意の欠片も感じられませんわ。ベイル伯爵、私は、絶縁され、夜にもかかわらず、着の身着のままで屋敷を追い出されました。そのことは、どうお考えかしら?」


この言葉には、ケイモスよりも早く、周りの人々が反応した。


あちこちから、そんなひどいことが・・・と声が漏れ聞こえる。


「いや、その・・なんだな。お前なら、一人でもやっていけると思ってだな・・・」


ケイモスの言葉がごにょごにょと濁り出す。


「そうですか。聞くだけ無駄でしたわね。私は実の親から酷い扱いを受けましたが、そのことは、根にもっておりませんし、恨んでもおりません。」


「そうか、それなら許してくれるのだな。」


ケイモスはしめしめと言わんばかりに、嬉しそうな笑顔を見せた。


「許す? 何か思い違いをしているようですが、私を絶縁したのはあなたなのです。あなたは私を屋敷から追い出した後、私を探そうともしませんでした。そのような冷たい仕打ちをする人を、よもや親とは思えません。」


「オフィーリアや、そんな悲しいことは言わないでおくれ。私はお前の親なのだぞ。」


ケイモスは、唐突にハンカチを取り出し、目頭を押さえた。


「ううっ、オフィーリアや、後生だから、どうか私とゆっくりと話し合う機会を与えておくれ。ううっ・・・うううっ・・・」


今度は泣き落としですか・・・。


皆にわかるような泣き声を発するケイモスに、オフィーリアはその思惑に負けじと、さらに冷たい視線をケイモスに送る。


「ベイル伯爵、何度も言いますが、絶縁したのはあなたなのです。屋敷を追い出したのもあなた。私はあなたと話すことはございませんので、今後一切、私とは関わらないでくださいませ。」


オフィーリアは、はっきりと強い口調で自分の思いを告げた。


やったわ。言えたわ。殿下、オスカー様、私言えましたよ。


泣き落としでなんとかなると思っていたケイモスは、目論見が外れたことに、意外そうな顔をする。


「そ、そんな・・・」


ここまで冷たく突っぱねられたケイモスであるが、彼は往生際が悪かった。


泣きまねをしていたことも忘れて、隣にいるスカーレットに向き直る。


「そ、そうだ! 元はと言えば、スカーレットが嘘をついて、オフィーリアの立場を悪くしたことが原因なんだ。スカーレット、お前も姉さんに謝りなさい。」


「そ、そうよ。スカーレット、嘘をついていたあなたが悪いんだから、謝りなさい。」


ケイモスに続いて、最初の挨拶以降、黙って成り行きを見ていたミラまで、スカーレットに謝罪を強要する。


二人とも、オフィーリアの機嫌をとるのに必死である。


ケイモスとミラの手の平返しに呆れ、まったくばかげているわと、オフィーリアはスカーレットに視線を移したのだが、スカーレットの様子がおかしいことに気が付いた。


スカーレットは青ざめ、ブルブルと小刻みに震えいている。


唇を噛み、顔を歪めているその顔は、幼いときに見た泣く前兆そのものである。


「・・・スカーレット・・?」


オフィーリアが首をかしげて声をかけると・・・


スカーレットは「・・・ううっ・・」と喉が詰まったような声を出した後、幼児のようにウエーンと大きな声で泣きだした。


「えっ? スカーレット、ど、どうしたの?」


驚くオフィーリアであったが、スカーレットは泣きながら訴え始めた。


「ウエーン、私は悪くない、悪くないもん。ウエーン・・・怖い、怖い、怖い・・・。ウエーン」


スカーレットのいきなりの変化に、オフィーリアも周りの皆も驚いて目を瞠る。


だが、スカーレットは、まったく周りの目を気にする様子もなく、そのまま幼児のように泣きながら、パクパクと口を動かし何か伝えようとしている。


「ウエーン、ヒック・・・おねえちゃま、ヒック・・ど・・ヒック・・どうして王子様と一緒にいるの? ヒックヒック・・・ウエーン」


「・・・スカーレット?・・・」


何故、そんなことを聞くの・・・?


オフィーリアは意味がわからず言葉を失ったが、スカーレットは幼児のように泣きじゃくりながら、さらに言葉を続けた。


「ウエーン、絵本みたいに・・・ヒックヒック・・おねえちゃまは、王子様と一緒に・・ヒックヒック・・・私を殺しに来たんでしょ? ウエーン」


「ス、スカーレット、いったいどうしたの? 殺すだなんて・・・」


オフィーリアは、スカーレットが発した殺すと言う言葉に衝撃を受けたが、おそらくそれは、幼児の頃に読んだ絵本から来るものなのだろうと想像がついた。


だけど、いったい何故、今になって昔読んだ絵本の話が出てくるの?


スカーレットは十六歳の乙女なのだが、泣き方もしゃべり方も、その姿はどう見ても幼児の姿そのものである。


オフィーリアは、その姿に既視感があった。


幼児返り・・・


オフィーリアは、町の神殿で子どもたちと接していると、時々それを見ることがあった。


ある程度大きくなった子どもが、弟や妹が生まれると、急に幼児に逆戻りしたような行動をするのだ。


そんなときは、叱らないで安心できるように優しく接することが良いことも学んだ。


スカーレットに、弟や妹が生まれたわけではないのに・・・。


いったい、何が彼女をここまでさせているの? 


驚いたのは、周りにいる人々も同じで、皆、どうして良いのかわからず、ただ呆然とスカーレットを見ているだけ・・・。


だが、ベイル伯爵は、恥ずかしさのあまり、幼児のように泣く娘を叱り始めた。


「こら、スカーレット、何を言っている。悪いのはお前だろう。さっさと謝りなさい。貴族らしくしないか!早く泣き止みなさい。恥ずかしくないのか!」


矢継ぎ早に繰り出されるその言葉に、スカーレットの泣き声はますます大きくなり、立っていることができなって、その場にしゃがみこんでしまった。


涙を両手で拭いながら泣き続けるその姿は、泣き出したら止まらなくなる幼児とまったく同じ姿である。


興奮したケイモスの右手が、高く上がった。


「スカーレット、いい加減に泣・・・」


「スカーレット!」


オフィーリアは、はっとして壇上を駆け下り、スカーレットを庇ってケイモスを睨んだが、振り下ろしたケイモスの手はオフィーリアの頬を打った。


バチンと、皮膚がぶつかり合う鈍い音が響いたが、オフィーリアは臆せず、キッとケイモスを睨み続ける。


「スカーレットを叱らないで!」

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