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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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58話

苦しい、息ができないと言って倒れたオフィーリアを、オスカーは危うく抱き止めた。


オスカーの腕の中で、オフィーリアは苦しそうに喘いでいる。


「ううっ・・・」


「オフィーリア、しっかりしろ、俺の声が聞こえるか?」


オフィーリアは声を出すことができないのか、弱々しく頷くだけで、苦しそうに 胸を押さえている。


「恐れていたことが起こったようです。」


ジオルグの重々しい声がオスカーの耳に届く。


それは、オスカーも一番恐れていたことだった。


何度も何度も、これ以上オフィーリアの力を使ってほしくないと願い、声に出した。


だが、結局オフィーリアの力に頼り、命まで助けられた。


そんな自分の不甲斐なさに嫌気がさす。


「早くて半年と、お伝えしましたが、鳥人に変身することで、極端に大きな負荷を細胞に与えたのだと思います。」


「オフィーリアはどうなる?」


「おそらくこのままでは・・・」


「なんとかならないのか?」


「私の実験室に行けば、もしかしたら助かるかもしれませんが、はっきりしたことは私にもわかりません。」


「一刻も早く、あなたの実験室に行こう。」


オスカーは、オフィーリアを抱き上げて階段を下りた。


テオはジオルグを背負ってその後に続く。


一刻も早く降りたいと思うのに、塔の螺旋階段は異様に長く、いつまでたっても外に出られないのがもどかしい。


「ううっ・・・」


オフィーリアが時々、顔を歪め苦しそうな声を漏らす。


いつもなら、苦しくても我慢して無理やりにでも笑顔を見せようとするオフィーリアが、それができないほど苦しんでいるのだ。


「オフィーリア、すまない、俺のために・・・」


オスカーの目に涙が滲んだ。


「・・・オスカー・・さま・・・あやまら・・ないで・・・。」


うっすらと目を開けたオフィーリアから聞こえてきた声は、息も絶え絶えで聞き取るのがやっとなほど小さい。


「オフィーリア、もうしゃべるな。無理するんじゃない。」


だがオフィーリアは、ほとんど声にならない声で、オスカーに何か伝えようと口を動かす。


「・・オスカー・・さま・・、わた・し・・、おやくに・・たて・まし・・た・よね・・。」


「もちろんだ。もちろんだとも。十分にオフィーリアは役に立った。お前のお陰で、俺は命を救われた。」


オスカーの目から涙があふれて、零れ落ちた涙がオフィーリアの頬を濡らす。


「・・よか・った・・オスカー・・さま・を・・まもれ・・て・・ほん・とう・に・・・よかっ・た・・・」


話し終わると、オフィーリアは目を閉じ、ガクリと体の力が抜けた。


「オ、オ、オフィーリア!」


オスカーたちが、塔から出ると、アレックスが待っていた。


拷問されたジオルグのために、ペレス侯爵城にあった馬車を用意してくれたのだが、血の気が失せ、ぐったりとしているオフィーリアを見て驚いた。


「いつも元気な方が、どうしてこのような・・・。」


「騎士団長、私たちはジオルグの実験室に急いで行かなければなりません。後はよろしくお願いします。」


馬車にはジオルグと、オフィーリアを抱き上げたオスカーが乗り、テオが御者を務めて実験室に急いだ。


オスカーは、オフィーリアを抱いている手から、彼女の体温が徐々に下がっていくのを感じていた。


オフィーリアの命が脅かされていることを肌で感じているのに、どうすることもできない自分自身がいかに無力であるかを実感し、情けない思いでいっぱいになる。


「オフィーリア、どうか、どうか、死なないでくれ・・・」


オフィーリアは謝るなと言ったが、全ては俺のせいだ。


オフィーリア、本当にすまない。


何がソードマスターだ、何が魔王の再臨だ・・・


たった一人の愛する女性を守れないなんて・・・


オスカーの目からぼろぼろと涙があふれ、乾く間もなく頬を濡らした。


「着きました。」


テオの言葉で、オスカーはオフィーリアを抱いて馬車を降りた。


「一階の東側に客室があるので、お嬢さんをそちらのベッドで安静にしてあげてください。」


ジオルグに言われたとおりに行くと、必要最低限の家具とベッドが置かれている部屋があった。


オスカーはベッドにオフィーリアを横たわらせると、彼女の手を両手で包み込んだ。


「お願いだから、どうか、生きてくれ・・・。神様、オフィーリアの命をどうか救ってください・・・」


オスカーは、ただただ祈ることしかできなかった。


一方、テオに背負われて実験室に入ったジオルグは、実験台に手をついて身体を支え、なんとか自力で立ち上がり、薬品庫に入れていた薬を取り出し、並べ始める。


密閉された小瓶に入っている液体は全部で十五個あった。


「良かった。イーサンは、製造途中の薬には手を出していなかったようだ。」


「中和剤はいつ完成するのですか?」


テオの問いに、答えるジオルグの表情は暗い。


「薬をさらに五個作り、反応を見ながら順番に調合する必要があるので、まだ、二日はかかるかと・・・。それまで、お嬢さんの命がもてばいいのだが・・・」


「そ、そうですか・・・まだ、二日もかかるのですね。」


もし、拉致監禁されていなかったら、とうに中和剤は完成し、テオが王都まで運んでいるはずだった。


イーサンとタイロンの欲望のために、オフィーリアは犠牲になってしまったのだ・・・。


そう思うと、テオは悔しくて仕方がない。


「あの・・・、私にできることなら、手伝いますので、何でも言ってください。」


「ありがとうございます。では、すみませんが、そのランプに火を点けてくれませんか。」


身体をうまく動かせないジオルグのために、テオも一緒に中和剤作りを手伝うことにした。




中和剤ができるまでの二日間、オスカーはオフィーリアのそばから離れず、看病を続けた。


と言っても、できることは、額の濡れタオルの交換と、オフィーリアの手を握り、声をかけることぐらいしかなかったのだが・・・。


オフィーリアは、血の気の失せた顔で、ピクリともせず、息すらしていないのではと思うことがしばしばあった。


その姿を見る度に、オスカーはどきりとする。


もしも、あちらの世界に引き込まれそうになっているのなら、どうにかして引き止めたい、こちらの世界に戻って欲しい・・・


「オフィーリア、俺はここにいる。頼むから行かないでくれ。」


偶然なのか、それとも思い込みからそう見えるのか、オスカーの声に、オフィーリアが微かに反応しているように見えた。


だから、何度も何度も、オスカーはオフィーリアに声をかけた。


「オフィーリア、生きてくれ。俺を一人にしないでくれ・・・」




二日目の朝、朝日で明るくなった客室であるのに、オフィーリアの顔色は、昨夜よりももっと暗くなっていた。


ピクリと動くこともなく、死んだように眠っている。


死んだように・・・?


オスカーがはっとして、オフィーリアの心臓に耳を当てたが、鼓動が聞こえない。


昨夜は、消え入るような弱々しい鼓動であったが、確かに聞こえたはずなのに・・・。


「オ、オ、オフィーリア?」


何度も何度もオフィーリアに呼びかけたが、いつも感じていた反応が見られない。


「オフィーリア、俺の声が聞こえるか? オフィーリア、お願いだ、何でもいいから反応してくれ!」


だが、オフィーリアは微動だにせず、部屋にはオスカーの声だけが虚しく響いた。




「隊長、できました。中和剤が完成しましたよ。」


ガチャリとドアが開き、テオが嬉しそうに部屋に入って来たが、部屋に充満するただならぬ雰囲気にビクっとして立ち止まる。


「た、隊長?」


振り向いたオスカーの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。


「オフィーリアが・・・」


「オフィーリア様が?」


「オフィーリアが・・・死んで・・・しまった・・・」

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