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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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57話

オフィーリアが鳥人になる数分前、


「バフロ、今から塔の上に爆弾を投げて、上にいる四人を塔ごと吹っ飛ばせ。」


「早く奴らを殺すのだ!」


タイロンの命令が、塔の下にいる皆に聞こえた。


イーサンに爆弾を渡されたバフロは、タイロンに言われた通り、塔の屋上に狙いを定めた。


爆弾を強く握ればその場で爆発し、自分が吹っ飛んでしまう。


何度も投げて握り加減はわかっているが、それでも、いざ投げるときは緊張する。


爆弾を手にしたバフロから、離れた皆の距離がその緊張の大きさに比例する。


「じゃあ、投げますよ。」


バフロが爆弾を投げようとしたその瞬間、屋上の鋸壁の間からひょっこり覗く男の顔が見えた。


ただ、それだけのことだったのだが、微妙な握り加減の爆弾は、ほんの些細な意識の変化でも軌道がそれる。


投げた爆弾は、狙いを定めた屋上ではなく、男の立ち位置の少し下の壁にぶつかった。


ドッカ―ン!


激しい爆発音と共に塔の一部が砕け落ち、男も一緒に落ちた。


それを見たタイロンは驚喜の声を上げる。


「やったぞ! オスカーを仕留めた!」


ところが、すぐに別の人間が、まるで飛び込むように落ちてきて、男を抱きしめた。


そして、くるりと体勢を整えると、翼を広げて羽ばたき、宙に浮いた。


バサッ、バサッと翼を羽ばたかせて宙で止まったまま、翼の主は抱きしめた男の肩越しにこちらをじっと見下ろしている。


バフロは、落ちてきたときは、それが誰だかわからなかったのだが、宙に浮いて止まった瞬間、はっきりとわかった。


翼の主は美しい女性だと・・・。


女性は、キラキラ光るプラチナブロンドの髪を風になびかせ、見るも荘厳な白い翼を広げて、こちらをじっと見ている。


それは昔、母に読んでもらった絵本に出てくる女神と同じ姿・・・。


貧しい家には不似合いのその絵本は、母が息子のために拾ってきてくれたものだった。


泥で汚れたボロボロの絵本を、一生懸命に拭いてきれいにしてくれた。


文字が読めない母は、喜ぶバフロのために、絵を見ながら一生懸命に話して聞かせてくれたのだ。


「めっ、女神様だ・・・、女神様が現れた・・・。」


バフロの知る女神は、困った人を見つけると、天から翼を広げて降りてきて、助けてくれる母のように優しい女神。


今、女神は、塔から落ちた哀れな男を助けるために、この世に現れたのだと、バフロは思った。


バフロが感動に震え、憧れの眼差しで、我を忘れてぽうっと女神を眺めている中、宙に止まっていた女神は、そのまま翼を羽ばたかせて上へと上がり、屋上へと消えて行った。


この光景をタイロンも、その部下たちも口を開けて見ていたが、ふと我に返ったタイロンが、バフロに大声で怒鳴った。


「何をしている、早く次の爆弾を投げんか!」


その言葉に、慌ててイーサンがバフロの手に次の爆弾を乗せる。


だが、手にした爆弾を見て、バフロは首を横に振った。


「投げれません。女神様に向かって、そんな恐ろしいこと、できません。」


「何を言う、それがお前の仕事ではないか。それに、あいつは女神なんかじゃない。」


「女神様じゃなかったら、何だって言うんですか・・・。たとえ俺の仕事だとしても、こればかりはお断りします。」


「お前、そんなことを言うのなら、今すぐクビにしてやるぞ。また路頭で倒れて死んでもいいのか? 死にたくなかったら、早く投げろ!」


怒鳴り散らすタイロンに、バフロはとうとう、堪忍袋の緒が切れた。


「そんなに言うなら、領主様が投げればいいじゃないですか。」


バフロは手にした爆弾を、タイロンの目の前に突きつける。


「こら、爆弾を私に向けるんじゃない。誰か、爆弾を投げる奴はおらんのか?」


その問いかけに応えるものは、誰もいなかった。


皆、これまでに何度も見ていた。


慣れない人間が爆弾を投げようとして、バラバラに飛び散った悲惨な最後を・・・。


もともと不安定な爆弾であることは誰もが知っていたが、イーサンの作る爆弾は、もっと不安定な気がする。


結局、お前が投げろと、指名された者も、なんだかんだと理由をつけては断り、次の爆弾が、オフィーリアたちに投げられることはなかった。


タイロンが歯ぎしりをして悔しがっている最中、怒声や馬のいななき、キンキンと剣のぶつかる音が聞こえてきた。


「な、何だ? 何が起こったのだ?」




屋上から見下ろしていたオスカーが、嬉しそうに声を上げた。


「ああ、助かったぞ。みんなあれを見ろ!」


皆が言われた方向を見ると、そこにはアレックスが率いる近衛騎士団が、ペレス侯爵城の正門を通り抜けているところだった。


全員馬に乗り、堂々とした勇ましい姿で、途切れることなく次々に城内に進入してくる。


統制のとれた動き、青い軍服の勇ましく壮麗なその姿を見て、タイロンの部下たちは戦意が喪失してしまったようで、城内をあちらこちらと逃げ回っている。


運悪く騎士に遭遇してしまった部下は、初めに数度、剣を打ち合うだけですぐに諦め、それ以上抵抗することもなく、次から次へと捕縛されていった。


その中で、一早くアレックスと精鋭の騎士たちが、塔の下までやって来た。


アレックスが入城した際に、塔の屋上にいるオスカーたちを見つけた。


だが、どう見ても、その場所は安全とは言えない場所だった。


屋上の一部が、たった今、破壊されたかのような崩れ方をしている。


屋上が爆薬で破壊されたのだと瞬時に理解したアレックスは、非常事態だと判断し、精鋭の騎士たちを引き連れて全速力で駆けてきたのだ。


「ここにいる者どもを、全員捕縛しろ。」


アレックスの一言で、騎士たちが一斉に動く。


「何をする? 私はタイロン・ペレスだ。ここの領主だぞ。無礼な真似はやめろ。」


怒鳴りちらし、抵抗するタイロンに、アレックスは、罪状を告げる。


「タイロン・ペレス、あなたは罪もない人を拉致監禁の上、拷問を繰り返した。さらに、救出に来た騎士たちを殺害しようとした。その罪は重い。」


アレックスの指揮のもと、騎士たちは抵抗するタイロンを始め、この場にいた全員を捕縛した。


イーサンとバフロが持っていた爆弾は、捕縛する前に速やかに取り上げられ、爆発することはなかった。


「もう、これで安心ですね。」


上から見ていたオフィーリアが、安堵のこもった声で言う。


「ああ、そうだな。間に合って良かった。」




オフィーリアたちが王都を立つ前、オスカーはアレックスにジオルグを救出に行くことを話していた。


初めから大勢で攻め込むと、危機を感じたタイロンが証拠隠滅を図り、ジオルグを殺して、死体を隠す恐れがある。


だから、先にオスカーたちが行くので、騎士団は少し遅れて攻め込んで欲しいと頼んでいたのだ。


本来なら、近衛騎士団が王都を離れることは、よほどのことがない限り許されないことである。


だが、国王グレゴリーは、ジオルグを助けるためなら近衛騎士団を連れて行っても良いと快諾してくれた。


表向きは、大恩ある男爵の一人息子の救出と言うことになっているが、アレックスを遣わすことで、タイロンが率いる闇ギルドを一掃したいという思惑もあった。


それは、グレゴリーが目指している平和な国作りの一環でもあったのだ。




塔の下が静かになり、安心して降りられるようになったことを確認してから、オスカーは皆に言った。


「さあ、もう、降りようか。」


「はい、隊長。」


テオの返事は聞こえたが、オフィーリアから返事がない。


いつもなら、元気な声が聞こえるはずなのに・・・。


見ると、オフィーリアの様子がおかしい。


顔色が、血の気が引いたように青ざめている。


「オフィーリア?」


「あ・・・あの・・・私・・・」


オフィーリアは、苦しそうに両手で自分の胸を、ぎゅっと押さえた。


「く、くる・・しい・・・、息が・・できな・・・」


最後まで話すことができないまま、オフィーリアはふらりと倒れた。


「オ、オフィーリア!」


オスカーの叫び声が、屋上に響いた。

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