54話
敵の攻撃を受けずに、外に出る方法・・・きっと何かあるはずだ。
三人は、しばし考えを巡らしていたが、オフィーリアがふと、思いついた。
「たぶん、敵は、私たちが出てくるのを待っていて、天板を開けたら上から攻撃してくるんですよね。」
「ああ、たぶんそうだろう。今も、剣を持って天板が開くのを待っていると思う。」
「だったら、天板を開けた瞬間、中から武器が飛び出してくると、びっくりして怯みませんか?」
「まあ、そういうこともあるだろうが・・・」
オフィーリアの提案はこうだ。
天板に続いている階段は、可動式の木製階段である。
階段を外し、天板に向かって、金槌やのこぎり、ナイフにキリなど、ここにある拷問道具を次から次へと真下から投げる。
驚いて敵が怯んだところを、すかさずオスカーとテオが飛び出し、空中から鞭で攻撃する。
その後は、剣で相手を仕留めればいい。
二人が飛び出す方法は、オフィーリアの力で何とかなるはずだ。
「まあ、それは可能だろうが・・・いったいどうしてそんなことを思いついたんだ?」
「これは・・・町の子どもたちにもらったびっくり箱からヒントを得まして・・・」
ずいぶん前のことだが、オフィーリアが、町の神殿で子どもたちに絵本を読んであげようと出向いた際、子どもたちから手のひらサイズの箱をプレゼントされた。
「オフィーリア様、早く開けてみて!」
ワクワクしながら話す子どもたちの顔を見て、どんなに素敵なプレゼントなのかしらと、オフィーリアもワクワクしながら箱を開けた。
すると、中から勢いよく何かが飛び出した。
驚いてキャッと悲鳴を上げて顔をそらしたが、出てきたのは可愛らしい手作りのウサギのぬいぐるみだった。
ばねの仕掛けで飛び出すように作られたびっくり箱だったのだ。
もし顔に当たったとしても、やわらかい布で作られていたので、けがをすることもなかっただろう。
子どもたちは、オフィーリアの反応に満足し、オフィーリアも楽しく笑った出来事だった。
だが、今回は違う。
勢いよく飛び出してくるのは、当たると命の危険があるような恐ろしい物ばかりだ。
敵も穴に近づくことは、できないだろう。
「なるほど、良いアイディアだと思う。だが、オフィーリア、俺を飛ばすとき、どうするつもりだ?」
「ええと・・・、手を肩にかけてもらって・・・、足を手の上に乗せてもらったら、一気に真上に飛ばします。」
「やはりそうか・・・。騎士たちも塀を越える際は、その方法を使う。だが、肩に手をかけるのは良いとして、お前の美しい手に、俺の汚れた靴を乗せるのか? いくら何でもそんなことは・・・」
「何を仰います。時は一刻を争うのですよ。躊躇っている暇はありません。」
「ううっ・・・」
ぴしゃりと言い切るオフィーリアに、オスカーの方がたじたじになる。
二人のやり取りを見ていたテオは、隊長がオフィーリア様の尻に敷かれるようになるのも時間の問題だな・・・と一人憐みの目でオスカーを見てしまったが、それは内緒である。
三人は、階段を動かし、投げる物を足元に山積みにした。
物を投げることは簡単だが、人を飛ばすことは難しい。
飛ばし過ぎると危険だし、弱すぎると屋上に届かない。
オフィーリアは、オスカーとテオを上に飛ばすリハーサルを数回繰り返した後、本番に挑んだ。
初めに、オフィーリアが金槌を勢いよく天板に向かって投げた・・・。
屋上にいる二人の男は、上から塔の下の出来事を全て見ていた。
凄腕の男が入り口を守っていたはずなのに、あっさりと倒されてしまった。
騒ぎを聞きつけて集まった男たちの内、一人は女が振り回した木刀に当たって遠くに飛ばされ、残りの五人は、あっという間に倒された。
見張りがいなくなった塔に入った三人は、もうすぐこの場に現れるはずだ。
だが、どんなに強くても、屋上には上がれまい。
屋上に出る前に、剣で一突きにしてやる。
二人の男は、天板が開けばすぐに剣を突き刺すつもりで、天板の前で今か今かと待っていた。
バキッと天板が割れて、勢いよく何か飛び出した。
「ウワッ!」
男たちは驚き、慌ててのけぞったおかげで、飛び出した物に当たらずに済んだが、ゴトッと落ちた音がした方向を見ると、それは金槌だった。
「な、何だ?」
何が起きたのか、ゆっくりと考える暇もなく、バキッ、バキッと、天板を突き破って下から何かが飛んで来る。
レンガ、ノコギリ、ナイフ、フォーク、キリ・・・
自分たちが拷問に使った道具が、次から次へと下から飛んで来るのだ。
「いったい、どうなってるんだ?」
いつの間にか、天板は大量のレンガで壊され、跡形もなくなっている。
ぽっかり空いてしまった穴を覗きたくても、何が飛んでくるのかわからない恐怖で、近づくこともできない。
訳がわからず、少し離れたところで穴を見ていると、今度は大きな人間が飛び出した。
「ええっ?」
男たちは驚きのあまり、ギョッと目を見開いた。
初めに金槌を投げて天板に穴を開けた後、オフィーリアたちは、次から次へと天板に物を投げつけた。
特にレンガの破壊力がすさまじく、とうとう天板が跡形もなく破壊され、天井に大きな穴が空いた。
「次はオスカー様です。行きますよ。」
「頼む!」
間を空けずに、オフィーリアはオスカーを穴から見える空に向かって飛ばした。
オスカーが上空から下を見ると、驚きのあまり、口を開けたまま固まっている男二人を見つけた。
なるほど、これがオフィーリアの言うびっくり箱効果だな・・・
と、余裕のあるオスカーは、その身体能力に任せて男めがけて鞭を振るった。
ピシッ!
「ウワァ!」
鞭は男に当たり、その反動でオスカーは位置をずらし、屋上に着地する。
鞭で叩かれた男はその場に倒れたが、もう一人の男が、大声で怒鳴りながらオスカーに切りかかって来た。
「ししし、死ねー!」
だが、オスカーは、瞬時に剣を抜くと、美しい軌道を描き、一振りで男を切った。
瞬殺された男は、ばたりとその場に崩れ落ち、動かなくなった。
そのとき、別方向から声がした。
「動くな! 一歩でも動いたら、こいつの縄を切るぞ!」
オスカーに鞭で倒された男が、剣を持ち、ジオルグを吊るしている縄に手をかけていた。




