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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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53話

「うわー!」


屋上から投げ落とされたジオルグは、思わず声を上げてしまったが、落下はすぐに止まった。


ピンと張られた縄が、かろうじてジオルグの体を支えている。


だがその反動で、縄はジオルグの体に食い込み、体中に激痛が走った。


「拷問部屋が最上階なのは、そのすぐ上が、最後の拷問場所だからだ。今から、お前の世話は誰もしない。吊るされたまま、干からびて死ぬか、縄が切れて落下して死ぬかのどちらかだ。」


吊るされたまま、苦しそうに顔を上げ、ジオルグはイーサンを睨んだ。


「勝手にここまで連れてきて、言うことを聞かなければ殺すのか。今の領主は・・・、まるであいつと同じだ。」


「何を訳のわからぬことを・・・。お前が領主様の言うことを聞くなら助けてやる。気が変わったら、こいつらに言うんだな。」


イーサンはそれだけ言うと、男二人を残して去っていった。


縄で吊るされている状態で、ジオルグは死を覚悟していた。


領主であるペレス侯爵に初めて会ったとき、彼の姿が愚王ランドルフに重なった。


この男の言いなりになると言うことは、憎くてたまらないランドルフに協力するようなもの。


それだけは、絶対にしたくない。


そんなことをするくらいなら、死んだ方がましだ・・・。


そう思うと、とてもイーサンの言葉に頷くことはできなかった。


だが、中和剤を作って渡すと約束したオフィーリアの顔が、ジオルグの頭から離れない。


きっと中和剤の完成を、今か今かと待っているだろうに・・・


協力するふりをして、中和剤を作るべきか・・・とも考えたが、おそらく、実験室ではイーサンの監視下のもとに置かれ、作ることはもちろん、できたとて、渡すことは不可能だろう。


すまんな、お嬢さん・・・、中和剤は諦めてくれ・・・。


ジオルグは、もう二度と会えないオフィーリアのことを思い、天に向かって謝罪した。




ジオルグが屋上から落とされるより少し前、オフィーリアたちは、ペレス侯爵城のそばまで来ていた。


乗馬に慣れないオフィーリアのために、休憩を多めにとりながら進むつもりであったが、人間兵器の驚異の回復力により、休憩時間は最小で済んだ。


馬はさすがにオフィーリアのようにはいかないので、早めの交換を繰り返すことで、三人は思ったよりも早く到着することができたのである。


馬をペレス城から離れた場所に繋ぎ、三人は身を隠して城壁に近づいた。


ちょっとやそっとでは壊されそうにない、がっしりと作られた城壁は、敵の侵入を阻んでいるかのようだ。


そんな城壁を見ながら、三人はどこから侵入するべきか考えている。


大きな正門は、開け放たれているが、門番が数人常駐しており、厳しいチェックをしている。


ここから侵入するのは、不可能と考えていいだろう。


夜になるのを待って、縄を使って城壁をよじ登るのが常套手段であるのだが、ジオルグのことを考えると、一刻も早く助けに行きたい。


正門以外でどこか入れる場所はないかと、三人は身を伏せながら城壁をぐるりと回る。


正門から離れた場所に、人が一人通ることができる大きさの緊急脱出用の出口を見つけた。


それは侵入者が入らぬように、重い鉄の扉で固く閉ざされている。


ここから侵入するのは不可能だと誰もが思っているのか、警備の者は見当たらない。


「ここが良さそうですね。」


オフィーリアが、おもむろに言い放つ。


「待て、オフィーリア、お前が考えていることはわかるが、それでは力を使い過ぎだろう。」


しかし、オスカーの心配は、オフィーリアの提案を覆すには至らない。


「遅くなって、ジオルグさんにもしものことがあったら、元も子もないですから・・・」


「確かにお前の言う通りなのだが・・・、オフィーリア、俺はできるだけ力は使わないようにしてほしいのだ。」


「わかりました。できるだけ力は抑えます。では、さくっとやってしまいましょう。」


オフィーリアは、重い鉄の扉に手をかけた。


ほんの少しの隙間から指を差し込み扉を掴み、ぐいっと引っ張ると、いとも簡単に扉は外れた。


中を覗くと、城壁の内側にももう一枚鉄の扉があった。


オフィーリアは、その扉も同じように外した。


普段使われていない出口のようで、ここにも見張りらしき者はいない。


三人はそっと中に忍び込み、扉を元に戻した。


「この広い城内で、ジオルグを探すのは苦労しそう・・・・でもないな。」


オスカーが、視線を上げて呟いた。


「え?」


オフィーリアとテオが、オスカーの視線に合わせて顔を上げると、視界の中に高い塔が見えた。


「あ、あれは?!」


遠くてはっきりと顔は見えないが、ジオルグらしき男が、ロープでぐるぐる巻きにされ、屋上から吊るされている。


「ひどいことをする・・・。」


オスカーの思わず出た呟きに、オフィーリアもテオも同意する。


「ジオルグさんを早く助けないと・・・。このままでは死んでしまいます。」


「ああ、そうだな。では、行こう。」


三人が身を隠しながら塔に向かって進んでいると、警備の男が立っているのが見えた。


まったく三人に気付いいていない様子で、視線は明後日の方向を向いている。


「邪魔だな。」


「ここは私が・・・。」


テオが後ろから男に襲いかかり、男が声を出す間も無い早業で意識を失わせ、物陰に男を隠した。


「さすが、テオ。すごいです。」


オフィーリアの称賛に「いえ、相手が油断していたので上手く行っただけです」と少し照れ顔で返答する。


「いつも、相手が油断してくれるとは限らない。こちらも油断せずに、気を引き締めて行かねば。」


オスカーの言葉に、オフィーリアとテオが頷く。


この後も、二人並んで警備中の男を、オスカーとテオが同時に不意を突き、ぐうの音も言わせぬうちに意識を奪った。


だが、塔に近づくと、そうも行かない。


塔の入り口には、一目見ただけで剣の使い手だとわかる男が2人、剣を携えて立っていた。


その立ち姿には、今までの警備の男のような隙が見られない。


それだけ、ジオルグのことを重要人物と見なしている証拠である。


隙のない男たちの不意を突くことは不可能で、ここは、正面突破しかないと判断した。


「テオ、オフィーリアを頼む。」


オスカーが、前に出て、男たちに告げる。


「命が惜しければ、立ち去るが良い。」


一瞬キョトンとした表情を見せた男たちだったが、すぐに怒りを露わに剣を抜いた。


「誰だお前は? 死ぬのはお前だ!」


片方の男が、大声を上げて、オスカーに向かって剣を振り上げた。


シュッ、ザシュッ、ドサッ


男の剣はオスカーに届かず、オスカーの流れるような華麗な剣さばきの後、男は音を立てて地面に伏した。


「いったい・・・お前は何なんだ?」


圧倒的な力の差を目の前にし、もう一人の男は、全神経をオスカーに集中して、握る剣に力を込める。


オスカーとその男が睨み合っている最中に、男の大声を聞き付けて、わらわらと六人の男たちが集まってきた。


「なんだ、女じゃないか。」


男が一人、オフィーリアを捕まえようと、両手を広げて迫ってきた。


「オフィーリア!」


「オフィーリア様!」


「キャー、来ないでー!」


オフィーリアが、持っていた木刀を力任せに振り回した。


バシッ グエッ


テオが攻撃するよりも先に木刀が当たった男は、蛙のようなうめき声を上げて、遠くに吹っ飛んだ。


「オフィーリア、よくやった!」


「私、やりましたわ!」


「な、なんだ、この女は?」


回りの男たちが警戒して、オフィーリアとの間に距離を置く。


シュッ、ザシュッ


その間に、オスカーが目にも止まらぬ早業で、対峙していた男を片づけて、テオと一緒にオフィーリアの前に進み出た。


「貴様ら、よくも・・・」


目の前の男五人は、憎しみのこもった目でオスカーたちを睨み、剣を構えている。


オスカーとテオはその視線を受けて、じりじりと対峙している。


「相手は三人だ、殺ってしまえ!」


五人の男たちが一斉に襲いかかってきた。


その瞬間、オスカーとテオの剣が舞う。


テオが一人を切る間に、オスカーの華麗な剣さばきは、誰の目にも止らぬ速さで、瞬時に四人を仕留めた。


ドサッ


男たちは、膝から崩れ落ち、動かなくなった。


塔の入り口は、守る者がいなくなり、オスカーたちは、誰にも邪魔されることなく塔の中に入った。


オスカーもテオも、次の敵に備えて、用心しながら駆け上がる。


「ジオルグさん、どうか無事でいて!」


オフィーリアも、焦る心で階段を駆け上がる。


階段を一気に駆け上がった三人であったが、最上階で、立ち止まった。


床に零れ落ちているどす黒い血痕と血の匂い、壁に掛けられたのこぎりや鞭などの拷問道具の数々、ジオルグがここで、どんな凄惨な目にあっていたのか、想像がつく。


「ひどい・・・」


オフィーリアは、涙が出そうになるのを必死で堪えた。


「ジオルグは、この上だな。」


オスカーの視線の先には、天井に設置された天板がある。


階段を上がり、それを開けたら屋上に出られる。


だが、敵に上から見られていたのなら、オスカーたちが屋上に出るところを狙って来るはずだ。


天板を開けた瞬間に、上から攻撃してくるだろう。


どう考えてもオスカーたちは圧倒的に不利である。


だが、時は一刻を争う。どうすれば良い?

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