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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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48話

「頼みたいこととは、どのようなことでございますか?」


オスカーは、これまで、国王直々に頼みごとをされたことがない。


しかも、この場には近衛騎士団長のアレックスがいるのに、彼を差し置いての頼まれごとに緊張が走る。


だが、その一方で、何故自分が?と訝しんだ。


少し困惑気味のオスカーに、グレゴリーは力強く言った。


「私の客人を、安全な場所まで送り届けて欲しいのだ。」


「!?・・・」


ここにいるグレゴリー以外の全員から、息を飲む音がした。


オスカーにしてみれば、今までジオルグを探し続けて、やっと捕まえることができるこの機会を失うことになるのだ。


相手が国王でなければ、何故?と問いただしていただろう。


「客人から聞くべきことは、もう聞いた。捕まえなければならないような罪はなかったのだ。」


それは、アイザック殺害容疑の罪も、含まれているのでしょうか・・・?


オスカーは、喉から出そうになる言葉を、必死の思いで飲み込んだ。


グレゴリーは、オスカーの微妙な表情の変化を感じ取っていたが、あえてそれを口にすることなく、淡々と言葉を続ける。


「オスカー。この者はジオルグではない。私にとって大恩あるディアン・ルード男爵の子息、マティアス・ルード男爵なのだ。安全な場所まで丁重に送り届けて欲しい。」


オスカーとのやり取りを、黙って聞いていたジオルグがグレゴリーに問う。


「あなたは、本当にそれで良いのですか?」


「もちろんだとも・・・。だが、そなたを部下にしたいという思いは変わらないがね。どうだ、もう一度考えてみないか?」


ジオルグは、この王のもとでなら、幸せな人生を送れるのではないかと、ふと思う。


しかし、外側から、この王が治める国を見守るのも悪くはない・・・とも思った。


「いえ、先ほども申し上げた通り、私はバルマン王に忠誠を誓っております。」


「そうか・・・、バルマンは良い部下を持ったものよの・・・。」




オスカーは、オフィーリアと一緒に乗って来た馬車にジオルグを乗せて、捜索隊の手が届かない場所まで送ることになった。


御者であるテオにも、そのことを告げる。


馬車は静かに北へと走り出した。


馬車の中は、オフィーリアとオスカーが並んで座り、オスカーの向かいにジオルグが座っている。


オフィーリアは、もじもじと、聞きたいことを聞くべきかどうか悩んでいた。


聞いたことにより、話の流れでうっかり自分の秘密を暴露しそうで何だか怖い・・・。


だが、今を逃したら、もう二度とジオルグには会えないかもしれないのだ。


ジオルグも、何か言いたげにオフィーリアを見ている。


その視線に、オスカーは不愉快な思いを抱いていたが、国王の客人だと思い、我慢していた。


オフィーリアは決心したように、ジオルグに向かって話しかけた。


「ジオルグさん・・・」


「お嬢さん・・・」


ジオルグも同時に言葉を発した。


「あっ、ジオルグさんからどうぞ。」


「いえ、お嬢さんから先にお話しください。」


この場合、身分から言えば、自分から先に話すべきだと判断したオフィーリアは、先に話すことにした。


「では、お先に・・・。ジオルグさん、いえ、マティアス男爵、墓地で会ったとき、私に言いかけたことがありましたよね。いったい何を話したかったのですか?」


あのとき、ジオルグは、生きていたのか?と驚いたような声を上げた。


そして、もしも会えたらと、意味深な言葉を途中で切って、逃げてしまった。


オフィーリアが生死の境を彷徨った出来事と言えば、人間兵器の薬を飲まされたこと以外には考えられない。


ジオルグはもしかしたら、消えてしまった五人目の男なのでは? 


オフィーリアは、ほぼ確信に近いものを感じていた。


ジオルグは、少し間を開けてから、ゆっくりと嚙みしめるように答え始めた。


「実は、あなたに謝らなければならないことがあるのです。あなたは、理不尽にも攫われて人間兵器の実験台にされてしまった。あれは私の錬金術師仲間がしでかしたことだが、あなたが実験台に選ばれたのは、私の所為でもあるのです。」


ジオルグは簡単に経緯を話し終えた後、「申し訳なかった。」と頭を下げた。


「ところで、実験は成功したのだろうか?」


その答えに、オフィーリアは戸惑う。


「成功したと言えばそうかもしれないし、失敗したとも言えるようだし・・・」


「そうですか・・・。何らかの変化はあったのですね。」


オフィーリアは頷く。


「どちらにせよ、あの薬は、体中の細胞に激しい負荷を与えるように作られている。」


「激しい負荷?・・・ですか?」


「そうです。そして、その負荷に耐えられなくなったとき・・・」


「耐えられなくなったとき・・・?」


オフィーリアの顔に不安が過ぎる。


「あなたは・・・死ぬ。」


「えええっ? 死ぬんですか?」


「オフィーリアが死ぬだって?」


死ぬという言葉に、オフィーリアもオスカーも、突然雷が落ちたような衝撃を受けた。


「し、し、死ぬって、い、い、いつごろなのですか?」


オフィーリアの声は震えだし、今にも泣きそうだ。


「力の使い方にもよるが、早くて半年、遅くとも三年以内には、命を失うでしょう。」


「は、は、半年?」


オフィーリアは、短期間に力を何度も使い、子犬にも何度も変身した。


と言うことは、残された命は・・・、早くて三ヶ月!!


恐ろしくなり、体の震えが止まらない。


私は、どうすればいいの?


オスカーも目の前が真っ暗になり、頭を抱えている。


「マティアス・ルード男爵、オフィーリアを救う方法はないのか?」


すがる思いで、ジオルグに問う。


そんな二人を見て、ジオルグは安心させるかのように優しい話し方に変える。


「私は、いつか、あなたに会えたら、もとに戻せる薬は作れるから大丈夫だと、伝えたかったのです。墓地で会ったときも、実は、それを伝えたかった・・・」


ジオルグは、やっと伝えられたことに、ほっとしたような顔をしている。


「あのときは、ルイス侯爵が近づいてきたので、慌てて逃げてしまいましたが、あなたが生きていることがわかり、薬は必ず届けようと考えていました。」


ジオルグは、仲間たちが作った人間兵器の製造法を、全て把握していた。


それをもとにすれば、薬の中和剤を作ることができる。


いつか、娘と再会することがあれば、中和剤を作って渡そうと考えていた。


「落ち着いた先で、中和剤の製造を始めます。一ヶ月ほどで完成するでしょう。中和剤はルイス侯爵邸に届けたらよろしいですか?」


最後にちらりと、オスカーを見る。


「ああ、私の屋敷に届けてくれて結構だ。だが、本当に彼女の体がもとに戻るのか? その薬で、もっと苦しむことにはならないのか?」


ジオルグの言葉を聞いてもまだ、オスカーの不安が拭い去られたわけではない。


「私は最善を尽くしますが、信じるか信じないかは、あなたたちが決めれば良いのです。」


「私は、あなたを信じます。」


オフィーリアは、目をキラキラと輝かせて、はっきりと迷うことなく言った。


「オ、オフィーリア・・・」


心配するオスカーに、オフィーリアはにっこり微笑む。


「オスカー様、私はマティアス男爵様が、本当はとても優しい方だと知っています。だから、私のために作ってくれる薬は、きっと必ず私の体をもとに戻してくれるでしょう。」


ジオルグのオフィーリアを見る目が、とても不思議な者を見る目に変わる。


「あなたは、何故、私のことをそのように言うことができるのです?」


「えっ?・・・」


オフィーリアは、子犬のときに可愛がってもらったことを思い出して、つい言ってしまったのだが、本当の事は言いたくない。


適当に何かごまかす言葉はないか、頭を巡らせる。


「あ、あの・・・今も謝っていただきましたし、私のために中和剤を作るつもりだったとお聞きして、それだけでも十分に優しい心遣いを感じることができますわ。」


「そうですか・・・。」


なんとか無難な言い訳ができたようで、オフィーリアは胸をなでおろす。


「お嬢さん、実は、もう一つ、お聞きしたいことがあるのです。」


オフィーリアは再度ドキリとする。


これ以上、墓穴を掘りたくないのに・・・。


「そ、それは・・・何ですか?」


「何故、私の名前を知っていたのですか?」


やはり聞かれた・・・。


一緒に馬車に乗った時点で、きっと聞かれるだろうと思っていたので、ずっとどう答えようかと考えていた。


上手くごまかせたら良いのだけれど・・・。


「えっと、その・・・、実験台にされたときに、あなたの手の甲にある火傷の痕と顔を、覚えていたのです。皆が探しているジオルグには、火傷の痕があると聞いていたので・・・、墓地であなたの顔を見たときに、そのことを思い出したのです。」


ずいぶんと苦しい言い訳なのだが、ジオルグは納得したようだ。


「あなたは、あの危機的な状況でも、火傷の痕と顔を覚えているなんて・・・、なんて聡明な女性なんだ。」


オフィーリアは褒められたことに恥ずかしくなって、指で顔を掻いた。


「ところで、ルード男爵、あなたを安全な場所まで送り届けるつもりだが、中和剤を王都で作ることはできないのか? その方が、完成したものをいち早くオフィーリアに渡すことができる。あなたは陛下から許された身なのだから、もう我々に追われることはない。今からでも引き返しても良いと思うが・・・。」


「いえ、中和剤には特殊な材料が必要なのです。王都だけでは、全てを揃えることができません。私は材料を手に入れることから始めなければならないのです。」


「そうですか・・・。」


オスカーはできることなら、ジオルグを自分の監視下に置きたいと思っていた。


しかし、オフィーリアをもとに戻すためには、ジオルグを自由にさせるしかないのだと理解した。


仕方がない・・・、ならば・・・。


オスカーは、次の打つ手を頭の中で考えていた。


馬車が止まった。


「中を改めさせてください。」


騎士の声が聞こえる。


今、王都のいたるところで検問が行われている。


オスカーの指示で始まった検問である。


オスカーはドアを開け、騎士に中を見せた。


「あ、あなたはルイス侯爵閣下ではありませんか。」


騎士は慌てて敬礼をする。


「失礼ですが、そちらのお方は?」


「ああ、この方は、マティアス・ルード男爵、陛下の客人だ。陛下に頼まれて、男爵を安全な場所まで送り届ける任務中だ。」


「あの・・・、そちらのご婦人は・・・?」


「・・・あ、ああ、このご婦人は・・・、一緒にお見送りするようにと、陛下に頼まれたのだ。」


オスカーは、オフィーリアのことを、本当は自分の妻だと言いたいけれど、苦しい言い訳をしてごまかした。


「検問ご苦労。引き続き、任務に励んでくれ。」


「畏まりました。」


騎士は、疑うことなく再度敬礼して、馬車を送り出した。


現在、王都中で、何も知らない騎士たちが、総動員でジオルグの捜索と検問を行っている。


ジオルグを安全な場所まで送り届けたら、それらを解除させなくては・・・とオスカーは真面目に働いている騎士たちに申し訳ない気持ちになった。


この後、いくつかの検問を抜け、安全な場所までたどり着くと、ジオルグを馬車から降ろした。


「ここからは、もう検問はないでしょう。」


「ありがとう。薬ができたら、届けに行きます。」


「その頃には、ジオルグ捜索網は解除されているから、安心して王都に来るといい。」


「ははっ、それは有難い。それまでは、くれぐれも細胞に負荷を与えないようにしてください。それでは、あなたも、お嬢さんもお元気で。」


「お薬、届くのを待っていますね。あなたもお元気で・・・。さようなら。」


オフィーリアは、ジオルグとこの場所で別れても、薬ができたら王都でまた会えると思っていた。


それまでは、細胞に負荷を与えないように、おとなしくしていよう・・・。


オスカーもジオルグも、薬ができるまでは、オフィーリアが力を使うことなく過ごして欲しいと思っていた。


だが、またもや大きな危機に襲われることになるとは、この時点では、誰も思ってもいなかったのである。

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