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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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45話

翌日の実験の日、ディアンのことが心配で、グレゴリーは屋敷に向かった。


だが、グレゴリーが屋敷に着いたときは、既に実験に失敗した直後で、護衛の騎士と一緒に中に入ると、すさまじい熱気の中、見るも無惨な夫婦の姿を見つけた。


ランドルフの従者も、見るに堪えない状態で死んでいた。


熱が充満し、チリチリと炎が上がり始めた実験室から、必死の思いで、全員を運び出した。


もう少し遅かったら、炎に焼かれて運び出すこともできなかっただろう。


グレゴリーと護衛騎士たちが運び出した死体の中に、息子のマティアスはいなかった。


上手く逃げおおせることができたのなら、いつか、この屋敷に戻ってくるかもしれない。


グレゴリーは火の手が上がった屋敷の中に入り、リビングに飾られていた肖像画を運び出した。


そして、屋敷が焼け落ちた後に、新しく建てた屋敷のリビングに肖像画を掛けた。


何もかも燃えてしまったあの家族に、残された唯一の品である。


行方不明のマティアスに、これだけでも残してやりたかった。




そのマティアスが、屋敷に戻って来たと聞いて、グレゴリーはじっとしていられなかった。


急いでアレックスと共に屋敷に向かったが、着いたときには、誰もいなかった。


マティアス、否ジオルグが、ここに戻ってくる確証はない。


しかし、グレゴリーは、今日一日は、待ち続けると決めた。




「な、何故・・・あ、あなたがここに?」と驚き動揺するジオルグであったが、グレゴリーは、落ち着き払った青い瞳をジオルグに向けて、やんわりと答える。


「なに、そなたが屋敷に戻ったと聞いてな。会いに来たのだよ。ディアン・ロード男爵の息子、マティアス・ロードにな。」


ジオルグは、久しぶりに自分の本当の名前を聞いたのだが、懐かしさよりも警戒心の方が勝った。


「何故、王が私に会いに来る必要があるのです?」


「そなたに会いたかったからだと答えても、信じてもらえないのかな? マティアス・・・いや、今の名前はジオルグだったか・・・。」


「どっ、どうして、その名を知っている?」


王の口からその名前が出たことに、ジオルグは驚きと同時に焦りが生じた。


「ははは、バルマン王ほどでもないが、私にも優秀な間者がいるのだよ。そなたが、この国で諜報活動をしていたことも知っている。」


そんなことまで知っているとは・・・、国王を殺して逃げるべきか・・・?


「私を殺しても無駄だ。私を殺せば、もっと罪が大きくなるだけだ。」


この王は、俺の心が読めるのか・・・?


冷ややかな目で無言を貫くジオルグであったが、それとは対照的に、グレゴリーは温かい目を向ける


「私は、ずっとそなたに会って、話がしたかっただけなのだ。」


「話とは?」


「ああ、話をする気になってくれたか。立ち話もなんだから、座って話そう。私も年でな。」


グレゴリーは、この部屋にある椅子に座るように促し、ジオルグとグレゴリーは、テーブルを挟んで向かい合った。


ジオルグは、王の真意がわからず、警戒心を緩めることはなかったが、次のグレゴリーの言葉に耳を疑った。


「すまなかった。私に力がなく、先王の横暴を止めることができなかった。」


グレゴリーは深く頭を下げた。


ジオルグは頭を下げるグレゴリーに目を見開いて驚き、同時に困惑する。


「いや、あなたに謝ってもらう必要はない。私が憎かったのは先王ランドルフであって、あなたではない。」


国王が身分の低い俺に頭を下げる? 有り得ない!


「私は、あの実験で両親を失い、そのときに受けた火傷のせいで、死ぬほどの苦しみを味わった。だから、愚王ランドルフに復讐することだけを望みに生きてきた。いつか殺してやると何年もそればかり考えていたんだ。」


ジオルグの脳裏に、捨ててしまった復讐心が蘇る。


だが、肝心の復讐したい相手は、もうこの世に存在しない。


「だが、アイツは、あっけなく死んでしまった。しかも、病死だ。誰かに恨まれて殺されたのなら少しでも溜飲が下がるものを・・・。あの時の絶望感が・・・、あなたにはわかるのか?」


ジオルグの悲痛な叫びに、グレゴリーは、静かに頷いた。


「はあっ? 何故頷く?」


「そなたの気持ちが、全てとは言わないがわかるからだよ。愚王を殺したいと思う気持ちは特にな・・・。私には誰にも言えない秘密があるのだ。墓場まで一人で背負って行くつもりだったが、そなたにだけは話しておきたいと思う。」


その静かだが重い口調に、ジオルグの熱が一気に冷めた。


俺はこの秘密を聞かねばならない、何故かその思いが心をよぎる。


「実はな。先王は、病死ではない。・・・私が、殺したのだ。」


「な、なんだって?」


ジオルグはグレゴリーが発した衝撃の言葉に、思わず立ち上がる。


「あ、あなたが・・・、殺した?」


「まあ、座りなさい。」


ジオルグは言われるままに座り直したが、何故この愚鈍な王が・・・という思いは拭えない。


動揺しているジオルグとは対称的に、グレゴリーは冷静に言葉を続ける。


「私もそなたと同じように、何年も父王を殺すことだけを考えていたのだよ。」


「私と同じ?」


「そうだ。だが、私が殺したと言ったが、正確に言えば私ではない。先王を殺したのは・・・、ルード男爵、おまえの父親なのだよ。」


「なっ・・・!?」


ジオルグは、予想もしていなかったグレゴリーの告白に、一瞬言葉を失った。


「そなたの復讐は、そなたの父によって成し遂げられていたのだ。」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ。あなたは、私の父が愚王ランドルフを殺したと言うが、あいつが死んだのは、父が亡くなってから四年後だ。あなたの話は信じられない。」


「四年、・・・そう、四年もかかってしまった。四年間、私は身も心も潜めて屈辱に耐え続け、その機会が来るのをじっと待っていたのだ。」


グレゴリーは、遠い目をして、まるで自分に言い聞かせるように語った。



今から二十四年前、グレゴリーはディアンに褒賞として男爵意を与えたのだが、そのことで父王ランドルフの嫉妬を買い、愚かな実験を強要されたのではないかと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。


一言謝りたい、その思いで実験の前夜、ディアンを訪ねた。


「すまなかった。あなたのためと思ったことが、かえって仇になってしまった。」


王太子が、自ら赴き謝罪をするなど考えられないことであったが、それだけ胸を痛めていることがディアンには伝わった。


「殿下、あなたが謝ることはありません。どちらにせよ、きっといつかはこうなっていたのだろうと思います。」


ディアンは諦めたような眼差しをグレゴリーに向ける。


「ですが、殿下。このままでは、やがてこの国は滅びてしまうでしょう。あの王は、国の未来など、何も考えていない。」


「実は、私もそれを恐れているのだ。この国は愚かな王が船長の腐った船と同じだ。だが、例え腐った船でも、富と権力が得られるとわかると、我も我もと乗り込んでくる。いつか必ず全てを載せたまま崩壊し、海の藻屑と消えてしまうだろう。私は、手遅れになる前に、船底に穴を開けて、腐った船を沈めてしまいたい。そして、新しい船を作りたいと思っている。だがその方法も隙も見つからない・・・」


悔しそうに語るグレゴリーに、ディアンは優しい目を向けて微笑んだ。


「殿下のお気持ちを知り、安心いたしました。私と同じ思いなのですね。それなら・・・」


ディアンは、何かを決心したようにぐっと手に力を入れて握ると、薬品棚の扉を開け、黒い小瓶を取り出した。


「この薬は、私が作り出したこの世に一つしかない毒薬です。無色で無味無臭、飲んでも何も変化は起こりません。しかし、一週間ぐらいすると体が弱り出し、二週間後には心臓が止まって死ぬのです。どうか、私に替わって、殿下がこれを王に飲ませてください。」


この翌日、ディアンは実験に失敗し、帰らぬ人となった。




グレゴリーに託された毒薬、それをどうやって飲ませるか?


それは簡単なことではなかった。


もしも、ほんの少しでも、グレゴリーの殺意を見破られたら、たとえ息子であっても、その場で切り捨てられることは明らかである。


後継者など、遠縁の者から迎えれば良いと、口癖のように言うランドルフは、その言葉でグレゴリーの命を脅かしていた。


ランドルフはグレゴリーの父親であったが、息子にとっては、狂った王だった。


国の未来よりも、自分の満足を優先するような男だった。


猜疑心の強いランドルフは、正妃もグレゴリーの母である側妃も殺した。


王子たちが幼い頃は、母親は病死と聞かされていたが、後になって調べてみると、反意ありと疑われて地下牢に閉じ込められ、まともな世話をされることなく、病を患っての獄中死だった。


嫉妬深いランドルフは、自分より優れている者を許さなかった。


王より優れている素質が認められると、それが実子であっても嫉妬の対象となった。


聡明な頭脳の持ち主だと、皆に認められていた長兄であり王太子でもある兄を、事故に見せかけて殺した。


武に優れていると褒め称えられていた次兄も殺した。


だが跡継ぎの必要性は認識していたようで、上二人に比べると何の取り柄もないと噂されている三男グレゴリーの命だけは奪わなかった。


しかし、安心などしていられない。


もし、ランドルフの機嫌を損ねたら、たとえ後継者であっても気分次第で命を奪う・・・、それがランドルフなのだ。


グレゴリーは父王に目をつけられないように、能力のない愚鈍な王子を演じ続けた。


だからこそ、ランドルフの嫉妬の対象にならずに生きてこれたのだ。


だが、これからは、殺意を殺して隙を伺わなければならない。


それはグレゴリーにとって、途方もなく困難な課題であった。

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