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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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44話

「もう、行こうか。」


墓に眠る両親に報告を終え、オスカーが屋敷に帰ることを促した。


「はい。」


二人は、テオが待つ馬車置き場に向かって歩き出す。


墓地は、はっきりと平民用と貴族用に分かれているが、馬車置き場は共通であり、そこから続く墓地までの道は平民も貴族も同じである。


もし、ばったりと貴族に出会ったら、有名なオスカーと一緒に歩いているのは誰だろう?と噂になるかもしれない。


オフィーリアは、まだオスカーとの関係を他人に知られたくないので、帽子を深く被り、顔が見えないように気をつけて歩いている。


そんなオフィーリアを見て、いつか堂々と俺の妻だと豪語しながら歩きたいものだと、オスカーは思っていたのだが、ふと、帽子の印象がいつもと違うことに気付いた。


「オフィーリア、この帽子、何かいつもと違ってないか?」


言われたオフィーリアが、帽子を手に取り見てみると、リボンと一緒に縫い付けられているマーガレットの造花が、一本だけになっている。


「墓地に着いたときは、マーガレットの花がもっとたくさん付いていたと思うのですが・・・。きっと墓地のどこかで落としたのだと思います。」


この帽子は、オフィーリアのお気に入りの帽子だ。


「オフィーリア、ちょっと待ってて。俺が探してくるから。来た道を戻ればすぐに見つかるだろう。」


「オスカー様、ごめんなさい。私がもっと早くに気が付けば良かったのに・・・」


オフィーリアは、探しに戻るオスカーの背中を見ながら、申し訳ない気持ちでその場に一人佇んだ。


ジオルグは墓地を出ようとしたときに、見覚えのある女性に出会った。


何故かその女性は、一人寂しそうな顔をして、じっとその場を動かない。


・・・この娘は・・・?


ジオルグはすぐに思い出した。


自分のせいで、不幸にしてしまったあの娘だ・・・。


「お、お前、生きていたのか?」


聞き覚えのある男の声がして、オフィーリアは声の主に振り向く。


男は慌てたように、間を開けずに言葉を続ける。


「もしも、お前に会うことがあるのなら・・・」


オフィーリアは、声の主を見てはっとする。


「あ、あなたは・・・ジオルグ!」


「えっ? どうして俺の名を・・・」


驚いて問いかけるジオルグであったが、そのとき、造花を手にして、近づいて来るオスカーが、彼の視界に入った。


まずい、あいつはオスカー・ルイス、ソードマスターになった騎士だ。


ジオルグは、踵を返して一目散にこの場から逃げた。


「ま、待ってください。」


ジオルグは、オフィーリアの声に振り向きもせずに、ひたすら走る。


あっという間に、遠くへ行ってしまった。


「オフィーリアどうしたんだ? 誰と話してたんだ?」


オスカーはただならぬ気配を感じ、オフィーリアに問う。


「オスカー様、あの人、ジオルグです。私に声をかけてきたのですが、走って逃げてしまいました。」


「ジオルグだって?」


言われた方向を見ると、男の背中がどんどん小さくなっていく。


今追いかけたとしても、捕まえることはできないだろう。


オスカーは、墓地に常駐している警備兵に声をかけた。


「今すぐ騎士団の活動拠点に行って連絡をして欲しい。アイザック殺害の容疑者ジオルグが王都にいる。今すぐ街道を封鎖して検問を実施するように伝えて欲しい。」


次にオスカーは駐車場に急ぎ、テオに伝える。


「ジオルグが王都にいる。騎士の常駐場所まで急いでくれ。」


オスカーは騎士団の活動拠点と常駐場所に、警備兵と手分して連絡をすることにした。


連絡はすぐに行き渡り、騎士たちのジオルグ探しが始まった。


「オフィーリア、俺はジオルグを探すから、お前は屋敷に戻ってくれないか。あいつを探すのはこれで二回目だ。今度こそ、ジオルグを捕まえたい。」


馬車の中でそう話すオスカーであったが、オフィーリアは眉間にしわを寄せ、何か考え込んでいる。


「オフィーリア?」


心配してオスカーが覗き込んだとたん、オフィーリアは急に喉のつかえがとれたような明るい顔になった。


「オスカー様、私、思い出しました!」




何故、あの娘は俺の名前を知っているんだ? 


あの娘を実験台にしたときに、俺の顔を覚えられたとしても、名前までは知らないはずだ。


くそっ、王都に長居をし過ぎたか? 


もっと早く出ればよかったものを・・・。


ジオルグの目に、馬に乗り慌ただしく動いている騎士たちが見えた。


きっと今頃は、全ての街道を封鎖していることだろう。


今動くのは得策ではない。


暗くなるまで、どこかに身を隠した方が良さそうだ・・・。


ジオルグが身を隠す場所に選んだのは、あの屋敷だった。


あの屋敷はディアン・ルード男爵のものであって、ジオルグとは結び付かないはずだ。


見つかりにくい場所に隠れて、夜になってから王都を出よう。


そう考えたジオルグは、再度自分の屋敷に向かう。


運よく騎士に見つからずに屋敷に着いたジオルグは、鍵のかかっていないドアを開け、中に入った。


さて、どこに隠れようかと部屋の中を見回していると、背後に人の気配を感じた。


「久しぶりだな。」


後ろから、突然声をかけられた。


しまった!と振り向くと、そこにいたのは、金色の髪を肩まで伸ばした思いもしない男だった。


「な、何故・・・あ、あなたがここに?」


ジオルグの目の前にいる男は、この国の王、グレゴリー・アデルバード国王だった。




数時間前、グレゴリーが王宮の執務室で仕事をしている最中、アレックスが珍しく慌てて入って来た。


「陛下、お仕事中、失礼いたします。ルード男爵の息子が帰って来たと連絡が入りました。」


「おお、そうか。やっと戻ってきたのだな。」


グレゴリーは目立たぬように質素な馬車を用意させて、アレックスと共に屋敷に急いだ。


馬車に揺られながら、グレゴリーは幼い子どもの顔を思い出す。


茶色い髪と髪よりも濃い茶色の瞳の、笑顔が可愛らしい男の子。


あの日、錬金術師ディアンの息子は、わずか八歳だった。


小さな子どもが、どれだけ辛い思いを抱えて生きてきたことだろう。


グレゴリーは、今でも、あの選択が幼子の運命を変えてしまったのではないかと、責任を感じて心を痛めている。




当時、王太子であったグレゴリーに、父王ランドルフから、一つの公務を任ぜられた。


国民の中から、実績ある功労者を探し出し、その実績に応じて褒章を与えよ、と言うのが、公務の内容である。


グレゴリーは、ずっと目立たないように、父王ランドルフに目をつけられないように、細心の注意を払って生きてきたが、公務である以上は自分で選び、意思を伝えなければならない。


グレゴリーは一抹の不安を感じながらも、資料を集め、功労者の選定を始めた。


グレゴリーは、錬金術師の中で、強い鉄を作る方法を開発した錬金術師ディアンを選んだ。


特に心を惹かれたことは、彼が、その開発を自分の利益のためでなく、国中の皆にも作れるようにと、安価でその方法を提供したことである。


功労者を決定する前に、事前に面談をした結果、ディアンは人としても優れていることがわかった。


彼に多くの褒賞を与えることは、他の錬金術師にとっても励みになると考え、褒賞金だけでなく、男爵位と王都の外れに建てた屋敷も授与することにした。


現在住んでいる地方の家よりも、王城の近くに住めば、彼のこれからの研究にとっても、都合が良いと判断してのことだった。


グレゴリーは、国のためになると考えて、この決定を下したのだが、この時点では、ランドルフの刃が、錬金術師に向けられることになるとは思っていなかった。


しかし、いったいどこで手に入れたのか、ランドルフは、錬金術師だけに継承される禁忌の書をいつの間にか手に入れていた。


そこから、ランドルフの錬金術師迫害が始まる。


興味本位で、名のある錬金術師たちを呼びだし、禁忌の書に書かれている実験をしろと命令した。


断れば、その家族を人質に取り、醜悪で、たちの悪い方法で迫った。


断りきれない錬金術師たちは、無理な実験を重ね、その結果、命を落とす者もいた。


実験の内容によっては、家族を失った者もいれば、二度と歩けなくなるほどの大怪我をした者もいる。


グレゴリーは、自分が選んだ錬金術師ディアンが、いつか呼ばれるのではないかと不安を感じていたが、その不安は的中してしまう。


ディアンは、ランドルフに呼び出され、禁忌の書に書かれている爆薬製造実験をすることを強要された。


謁見の間にグレゴリーもいたが、ランドルフに意見することもできず、家族を人質にとられた哀れなディアンを、ただ見ていることしかできなかった。

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