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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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41話

鉱山爆破の前、ジオルグはイザベラに絶対にバレない毒薬が欲しいと頼まれた。


理由を尋ねたら、世話になったウッド伯爵を助けてあげるのだと言う。


柄にもないことをするのだなと笑ったが、イザベラの気持ちもわからぬではないと思い、毒を作って渡した。


しかし、それがイザベラの運の尽きだったのだろう。


せっかく彼女がここまで苦労して築き上げたものが、一瞬にして壊れてしまった。


イザベラの協力で、ホワイト伯爵の鉱山を爆破し手に入れることができた。


鉱山を手に入れるという当初の目的を果たしたのだから、後はイザベラを隣国ランベルジオスの王太子に会わせてやるだけだったのだが、それはもうできなくなった。


イザベラもウッド伯爵も、捕まってしまった。


二人から自分の情報が漏れれば、捕まるのは時間の問題だ。


ジオルグは、これ以上王都にいることはできないと思った。


五年、いや、十年は、王都から離れた方が良い。


だが・・・


「最後に一度、見に行ってみるか・・・。」


ジオルグにとって、幸せと不幸が同居している場所、不幸が余りにも大きく、辛くて見に行くことができなかったあの場所を、ふと最後に見ておきたいと思った。




王都の外れに建てられたその小さな屋敷は、まだしっかりと建っていた。


「焼けたんじゃなかったのか?」


この場所に訪れたとしても、せいぜい何か小さな痕跡程度が残されていればいい方だと思っていたのに、その屋敷は当時の外観のまま、その場所に建っていた。


樹木が植えられているだけの華やかさのない庭であるが、樹木は適度に剪定され、刈り取られている雑草を見ると、手入れはされているようだ。


鍵がかかっていない門は、簡単に開けることができた。


屋敷の入り口のドアにも鍵がかけられておらず、簡単に入ることができた。


「今は別の人間が住んでいるのか? それにしても今の家主は、ずいぶん不用心だな。」


懐かしいその屋敷の中を見回っていると一枚の絵画に目を奪われた。


「なんてことだ! この絵がまだここにあるなんて!」


その絵は、幼い子どもとその両親を描いた肖像画だった。


緊張した面持ちの子どもを真ん中にして、夫婦二人はにっこりと微笑んでいる。


茶色い髪色と瞳の夫婦は、あの当時のまま若々しい。


二人に挟まれた同じ髪色と瞳の子どもを見て、長い年月が経ってしまったことをひしひしと感じる。


肖像画の端には焼け跡が残っているのに、額縁はきれいなままだ。


きっと誰かが、後から額縁だけを付け替えたのだろう。


ジオルグは、肖像画にかかれた夫婦の顔に触れながら呟いた。


「お、お父さん、お母さん・・・」




今から二十四年前、ジオルグが八歳の少年だったころ、錬金術師の父親ディアンと優しい母親エリーと、地方の町で三人仲良く暮らしていた。


ジオルグという名前は後から付けた名前であって、当時の名前はマティアスと言った。


マティアスはまだ幼い少年であったが、助手としてディアンの研究を手伝っていた。


「お前は父さんを越える錬金術師になるぞ。」


それがディアンの口癖だったし、マティアスもいつかは立派な錬金術師になると心に決めていた。


そんなある日、王都から一通の手紙が届いた。


「マティアス、これを見ろ。私の研究が王室に認められたぞ。褒美に金貨と爵位と屋敷をくれるそうだ。」


「ええっ、お父さんすごい、やったね!」


「あなたの研究は、世の中の役に立つものですものね。」


エリーも嬉しそうに夫に微笑みかけた。


その夜は父の親友メルビンも誘って、皆でお祝いをして喜びを分かち合った。


錬金術師たちは、自分たちが開発した物を商品として売ったり、製造のノウハウを売ることによって生計を立てている。


ディアンは腕の良い錬金術師だったので、彼が作った物はよく売れ、常連客が多く、平民にしては裕福な暮らしをしていた。


今回ディアンが認められた研究は、鉄を強くする方法だった。


その方法で製造された鉄は通常の三倍ほどの強さがあり、農器具にも武具にも重宝された。


この製造法を高く売ることもできたのだが、ディアンは国のためにも多くの人に知ってもらった方が良いと考え、一般の鍛冶屋でも出せる程度の金額で製造法を教えた。


その甲斐あって、国中で強い鉄が作られるようになり、ディアンはその功績が認められ、褒賞として金貨と男爵位と、王都に屋敷を賜ることになったのだ。


王都の外れに建てられた屋敷は実験室が大きく作られており、周りに他の住人の家がなかったので、思う存分研究に没頭することができる。


「ははは、これで周りの住人から変な匂いがするだの、音がうるさいなどと言われることがなくなったぞ!」


父親の親友メルビンも、一緒に王都に引っ越してきて近所に住むようになった。


メルビンは同じ錬金術師だったが、途中から医学に興味が移り、薬草研究を経て、今では薬屋として生計を立てている。


ディアンたちが引っ越してすぐに、爵位授与式が行われた。


マティアスは父親の栄誉あるその式に参列し、誇らしげにディアンを見ていた。


その日に賞を与えられるのはディアンだけではなく、他にも数人いて、皆、国王陛下から直接授与されるのだが、マティアスは国王陛下の表情に違和感を覚えた。


国王陛下がちっとも嬉しそうじゃない。


なんか怒ってるみたいで怖い。


国王陛下から少し離れた場所に王太子殿下がいたが、こちらの方がにこやかに拍手をしながら微笑み、受賞者を称えているように見えた。


授与式が終わって、またいつも通りの研究に明け暮れる日常に戻ったのだが、日に日にディアンの顔が曇ってきた。


エリーの笑顔も減っていく。


「おとうさん、何かあったの?」


心配してマティアスが尋ねても、「ああ、心配しなくてもいい。」としかディアンは答えない。


ある日、王室から手紙が届いた。


「ああ、とうとう私のところにも来てしまった。」


ディアンはその手紙を投げ出して、辛そうな顔を見せた。


「あなた・・・」


エリーも、今にも泣きそうな顔をしている。


手紙には、妻子を連れて王宮に来るようにと書かれていた。


三人で王宮に行き、謁見の間に通されると、そこには意地悪い笑みを浮かべた国王ランドルフ・アデルバードがいた。


豪華な椅子に座って、黒い表紙の本を持っている。


その横には、青白い顔の王太子グレゴリーが立っていた。


「そなたを呼んだのは、この本に書かれている実験をして欲しくて呼んだのだ。」


ランドルフは、黒い表紙の本を指でたたきながらニタリと笑う。


「恐れながら申し上げます。陛下がお手にされているその本は、私ども錬金術師にとって禁忌の書と呼ばれている書物でございます。過去の術師たちが後の世の術師たちに伝えるべくして書かれた書物で、そこに書かれている実験をしてはならないと、術師たちは皆それを厳格に守っております。」


「だから、何だと言うのだ。世の発展のためには、それを超える研究をするべきであろう。そなたは男爵位を授かるほどの腕前を持っているのだ。それくらい、できて当然だろう?」


ランドルフ王は、気味の悪い笑みを浮かべると、マティアスのそばにいた騎士に顎で合図を送った。


その瞬間、グイっと腕を後ろ手に掴まれて、マティアスは身動きができなくなった。


隣を見ると、母エリーも同じだった。


「そなたの家族がどうなってもいいのかな?」


この瞬間、マティアスは家族も一緒に王宮に呼ばれた意味を理解した。


初めから、家族を人質にして実験を迫るつもりだったのだ。


「わ・・・わかりました。どうか、家族を放してください。」


「ふふっ、それはできない。夜逃げでもされたら困るからな。そなたには、この実験をしてもらおう。そして、次はこれを超えるものを作りだすのだ。実験は明日の午後。それまでに材料を調達しておけ。」


ディアンは一人帰され、マティアスとエリーはこの夜、地下牢で監禁されて過ごした。


翌朝、マティアスとエリーは、ランドルフ王の従者に屋敷まで連れて行かれた。


従者は二人の首もとにナイフを突き付け、ディアンにさっさと実験を始めるように迫った。


物騒な雰囲気の中で、ディアンの実験が始まった。


ランドルフ王が禁忌の書から選んだ実験は、爆薬の製造実験だった。


二つの溶液を混ぜ合わせると爆発を起こすタイプの爆薬である。


この手の爆薬は、ニ液を分離させた状態で一つにまとめ、衝撃で液が混ざり爆発を起こすように作られる。


主に地面に置いて敵兵に踏ませて爆発させるか、投げて何かにぶつかった衝撃で爆発させる使い方をする。


しかし輸送中に爆発することが多く、遠方まで運ぶような戦争には不向きの爆薬であった。


多くの錬金術師が似たような爆薬を作ったが、どれも禁忌の書に書かれるほどではない。


だが今回、ディアンが命令された爆薬の製造実験は、禁忌の書に書かれている爆薬なのだ。


相当な危険を伴うものだと言うことがわかる。


ただ、完成した爆薬の威力が激しすぎて、倫理的に禁忌の書に記載されたのか、製造行程で非常な危険が伴うからなのか、そこまでは明記されておらず、ディアンは、細心の注意を払って製造実験をしなければならなかった。

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