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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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38話

ウッド伯爵邸の捜査が始まるよりも、何日も前のこと。


ウッド伯爵が両親を殺した犯人だとわかっていても、証拠がなくてどうすることもできないと、オスカーが辛い気持ちを話してくれた夜、オフィーリアは一つの提案をした。


「ウッド伯爵が書き写す書類に、私にしかわからない程度の、ほんの少しの香りを付けましょう。」


オフィーリアは、ウッド伯爵の庭に忍び込んで、ジオルグとの会話を盗み聞きした時に、ウッド伯爵が、前回と違って今回はたくさんの情報を用意すると言ったことを覚えていた。


それは一日で書き写すことは不可能な量で、きっと、何回にも分けて書き写すに違いない。


そして、ウッド伯爵は、その度に書類を家に持ち帰り、家のどこかに隠しているはずだ。


それならば、書類の場所がわかるようにインクに微かに別の香りを付ければ良いと考えた。


人間には嗅ぎ分けられなくても、私なら嗅ぎ分けることができる。


「香りをつけるなら、妖精の香りにしましょう。他の香水のようにきつい香りではないし、ほんの少しなら普通の人にはわからないと思います。それに、東の国から来た一点ものだって言ってたから、私が他の香りと間違えることはないと思います。」


オフィーリアの提案に、オスカーは同意した。


そしてまだ暗いうちから屋敷を出て、明け方に執務室に忍び込み、ウッド伯爵が使っているインク壺に、妖精の香りを混入した。


普通の人間にはわからないほどの、極少量を・・・。




クンクンと匂いを嗅ぎながら、オフィーリアは部屋から部屋へと移動する。


ウッド伯爵は書斎のソファーに座って捜索中の騎士を眺めていた。


ウッド伯爵の監視役はアレックス騎士団長が担っているので、騎士がひっきりなしに書斎に入って来ては報告をしている。


ウッド伯爵は無言で捜索活動が終わるのを待っていた。


見た目には余裕がありそうに見えていたが、実は内心ではビクビクしていた。


絶対に見つからないだろう。


大丈夫だ。


絶対に見つからない。


心を落ち着かせるために、自分にそう言い聞かせていた。


「キャン!(この部屋だわ)」


書斎に白い子犬が入って来た。


後ろにはオスカーがいる。


ウッド伯爵はドキッとしたが、必死で平静を装う。


子犬はクンクンと匂いを嗅ぎながらウッド伯爵に近づいてきた。


ソファの前に置かれているテーブルの下には、カーペットが敷かれている。


子犬はカーペットの端をくわえてまくり上げると、キャンと一回鳴いた。


「ここか?」


「キャン」


オスカーはソファーに座っているウッド伯爵に言った。


「このカーペットを動かしたいのでテーブルとソファーを移動します。」


「ああ、わかった。」


ウッド伯爵は必死になって平静を保ち、ソファーから離れた。


絶対に見つからない、あいつらに見つけられるはずがない。


他の騎士もやって来てテーブルとソファーを移動し、カーペットを動かした。


「おや、床下収納庫がありますね。」


アレックスが即座に見つけ、騎士の一人に言った。


「開けて見てくれ。」


騎士が開けると、その中には酒ビンが数本入っていたが、書類らしきものは入っていなかった。


「中をもっと確認しろ。」


騎士は細部に渡って調べたが、酒以外の物は見つからなかった。


ウッド伯爵に一瞬安堵の表情が現れたことを、アレックスは見逃さなかった。


きっとここに、何かがある・・・。


アレックスは確信していた。


だが、ウッド伯爵はニヤリと笑いながらアレックスに言う。


「きっとその子犬は酒の匂いを感じて鳴いたのでしょう。」


お酒の匂いなんかと間違うはずがないわ。


きっとここにあるはずよ。


オフィーリアも、きっとここにあるという確信は揺るがない。


だって、妖精の香水の香りを間違えるはずがないもの。


オスカー様に初めて買ってもらった香水なのよ。


嬉しくて何度も何度も嗅いだ香りなのよ。


オフィーリアは、カーペットの下になっていた場所を丹念に嗅ぎ始めた。


クンクンと鼻を床に擦り付けるように嗅いでいると、床の石板の継ぎ目から微かに香りを感じた。


この部屋の床は、手のひらほどの大きさの正方形の薄い石板が敷き詰められて作られている。


ここよ、ここだわ。


収納庫は、ダミーだったんだわ。


オフィーリアが、クンクンと嗅いだまま一つの場所から動かなくなると、ウッド伯爵の顔色が変わり、オフィーリアに怒鳴った。


「いい加減にしろ! 何もなかったんだから、もう終わりだ!」


そしてオフィーリアにつかみかかろうと・・・。


「貴様、何をする。」


オスカーがウッド伯爵を突き飛ばした。


「ウッ!」


突き飛ばされたウッド伯爵は尻餅をついた。


「ウッド伯爵、捜索の邪魔は困りますな。」


アレックスが、冷たく言い放つ。


「この石板の下が怪しいのか?」


オスカーが問う。


「キャン」


石板はキッチリと嵌め込まれているので、外すには専用の道具が必要だ。


「伯爵、この石板を外したいのですが、道具はどこですか?」


「そんなもの、あるはずがなかろう。」


「それなら仕方がありませんね。」


オスカーは、剣を鞘ごと掴むと持ち手を下に向け、思いっきり力任せに打ち付けた。


ガシャン!


石板が割れてその下の穴が見えた。


穴の中には封筒が入っていた。


「ありました。」


オスカーが封筒を取り出し、中身を確認すると、それはアデルバード国に関する様々な情報が書き写された書類であった。


「ウッド伯爵、あなたをスパイ容疑で逮捕します。」


アレックスが言うと、ウッド伯爵は、ガックリとうなだれた。


「ウウッ、見つかるとは・・・」


悔しそうに呟くウッド伯爵に、アレックスは追い打ちをかける。


「だが、貴方の罪はこれだけではない。四年前、第二騎士団所属のレイモンドを殺害しましたね。」


「はあ? 何を言う。レイモンドは盗賊に襲われて殺されたのだ。私は関係ない。」


ウッド伯爵は慌てて否定するが、アレックスは落ち着いたどっしりとした声で、説明を加える。


「実は、あなたもご存知の通り、狩猟大会でセオドア殿下とルイス侯爵が盗賊を生け捕りにして帰ってきました。他にも悪事を働いているだろうと余罪を追及していたのですが、つい先日、レイモンドの殺害を自供したのです。」


「だから、その件には私は関係ないと言っているだろう。」


アレックスは、ウッド伯爵の怒りの叫びを無視して続ける。


「盗賊たちはとても用心深い性格でしてね。殺人を依頼してきた男の後をこっそりつけたのですよ。すると、ウッド伯爵家の執事だとわかったそうです。」


「な、何だって?」


「執事をここへ。」


騎士が後ろ手に縛った執事を連れてきた。


「旦那様、申し訳ございません。まさか奴らにつけられていたとは、気が付きませんでした。」


「既に盗賊との顔合わせも終わり、確認済みです。」


「ううう、そんな・・・」


ウッド伯爵の顔色は青ざめ、額に冷や汗が流れ出る。


「あなたの罪はまだあります。ここからは直接調査したルイス侯爵に任せましょう。」


オスカーがアレックスに代わって前に出る。


「ウッド伯爵、あなたがレイモンドの殺害を盗賊に依頼したのは、八年前にレイモンドにルイス侯爵夫妻を殺させたからですね。だが、四年前にレイモンドの妹が死に、あなたは彼が自首することを恐れて殺害することを計画した。」


「知らん、若造が勝手なことぬかすんじゃない。」


「勝手なことを言っているのではありません。レイモンドは遺書を残していたのです。」


「何だって? 遺書? そんな話は聞いてない。」


ウッド伯爵の顔が、増々青くなる。


「聞いてないのも当然でしょう。それがつい最近、彼の実家で見つかりましてね。遺書を見つけた本人が、私のところまで持ってきてくれたのですよ。その遺書には、ルイス侯爵にスパイ容疑の濡れ衣を着せるために、あなたが書類を捏造して彼に持たせたこと、そして毒殺するように命令されたことが書かれていました。ああ、この遺書は捏造ではありませんよ。鑑定の結果、レイモンドの直筆だと証明されました。さあ、これでもまだ、しらを切るつもりですか?」


「ううっ、どうしてこんなことに・・・。」


言葉を亡くしたウッド伯爵に、オスカーが宣言する。


「ウッド伯爵、あなたをスパイ容疑、並びにレイモンドとルイス侯爵夫妻の殺害容疑で逮捕します。」


ウッド伯爵はがっくりと項垂れた。


オスカーの、大きな仕事が、今終った。


やっと、両親の罪の無実が証明され、真犯人を捕まえることができたのだ。


感慨深い気持ちになり、目頭が熱くなるオスカーであったが、疑問に感じていたことをウッド伯爵に問いかけた。


「ウッド伯爵、私にはどうしてもわからないことがあるのです。八年前、王宮にスパイがいるという噂が流れていました。だから、あなたは自分が疑われぬように私の父に濡れ衣を着せたのでしょう。だが、何故、私の父だったのでしょうか。何故、あなたは私の父を選んだのですか?」


「・・・ったからだ。」


「今、何と?」


「お前の父と私が、ぶつかってしまったからだと言ったんだ。」


「ぶつかった?」

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