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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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30話

終了時間が近づくにつれ、他の参加者も獲物を手に、会場に戻って来た。


ウサギ一匹の者もいれば、小物大物含めて五匹の者もいる。


中には、一匹も獲れずに恥ずかしそうに戻ってきた者もいる。


会場では獲物を前に、恋人や家族に褒められたり呆れられたりと、様々な人間模様が繰り広げられていた。


獲物は明日の料理の食材となり、皆の舌を楽しませてくれるだろう。




そろそろ閉会式だ。


だが、セオドアはまだ戻って来ない。


「アレックス騎士団長、兄上がまだ戻っていないようなので、私が閉会宣言をしてやろう。」


ヴァレリアンが嬉しそうにアレックスに提案したが、アレックスは眉間にしわを寄せ、即座にヴァレリアンに頼むことはしなかった。


「まだ時間が残っていますので、もうしばらくお待ちください。」


だが、ここまでかとアレックスが諦めかけたとき、荷馬車が会場に侵入してきた。


御者台に乗っているのは、オスカーとセオドアだ。


二人に気付いたアレックスは、驚きと同時に、嬉々として馬車に向かって走る。


「殿下、よくぞご無事で。オスカー、よくやった。」


アレックスの目に涙が滲む。


「アレックス、心配かけたな。だが、もう大丈夫だ。戦利品まで手に入れたぞ。」


セオドアは、にこやかな笑顔で自慢げに言う。


「団長、荷馬車の中には、盗賊が十人入っております。」


オスカーは事務的にアレックスに報告する。


「何と、殿下は獣ではなく、盗賊を生け捕りにしたのですね。あっぱれです。」


「いや・・・まあ・・・」


アレックスに手放しで褒められて、セオドアは言葉を濁す。


本当はオフィーリアの力で助けられ、生け捕りにできたのもオフィーリアのお陰なのだと言いたいのだが、ここは我慢する。


オフィーリアの力は、公にするべきではない。


たとえアレックスであっても、この場で正直に話すわけにはいかない。


オフィーリアが誘拐事件に関わっていることを隠すために、皆に見られない場所で彼女を降ろした。


今頃、テオと一緒にこの場所に向かっているだろう。


セオドアは、馬車を降りると、所定の位置まで歩き、時間通りに閉会宣言をした。


「・・・・皆の者、ご苦労であった。これにて閉会とする。」


長かった狩猟大会は終わった。


表彰式は、明日の舞踏会の前に行われる。


閉会後、獲物の種類と大きさ、数をチェックし、三位までを決めるのだが、審査員はセオドアと、ヴァレリアン、そして騎士団長のアレックスだ。


優勝はセオドアで即決した。


オスカーも一緒にと言いたいところであるが、護衛騎士は賞レースに参加できない規則なので致し方ない。


二位と三位も、揉めることなく決まった。


ヴァレリアンは、イノシシ二匹で賞には入らなかったが、アレックスもセオドアも「よくやった。」と褒めてくれたので、むず痒い痛みを感じた。


だが、まあ、バレなければいいか・・・。


と思うヴァレリアンであった。




狩猟大会が終わった夜は、貴族の皆は温泉に浸かって疲れを癒したり、ホテルのサロンで交流を深めたりと、各自が思い思いの時間を過ごしている。


賑わうサロンの中で、婚約者同士の両家で交流を深めているテーブルがあった。


オフィーリアの元婚約者ブラン・ホワイトとその父親、婚約者のイザベラ・ウッドとその父親である。


「娘から聞きましたよ。ホワイト伯爵は鉱山の鉄鉱石から加工、販売まで一手に手掛ける事業を進めているそうですな。」


「はい。そうなのですよ。息子もこの事業に真剣に取り組みたいと意気込んでおります。」


「それは良いご子息をお持ちだ。今から楽しみですな。」


父親同士が事業について話している中、イザベラも会話に加わる。


「お父様、私、こんなに素敵なブラン様の婚約者だなんて、鼻が高いですわ。」


美しく着飾ったイザベラに嬉しいことを言われ、ブランは鼻の下を伸ばして喜んでいる。


「ところでホワイト伯爵、私もあなたの事業に一役買いたいと思っております。」


ウッド伯爵が、ホワイト伯爵が販売する加工品を、一手に買い受けたいと申し出た。


ウッド伯爵は、キャスレル商会だけでなく、大小様々な商会ともつながりがある。


ホワイト伯爵の鉱山からとれる鉱石は非常に品質が良く、一手に引き受けても十分に採算がとれるのだと言う。


この話は、ホワイト伯爵にとっても願ってもない話で、作る前から売れる先が決まっているということは、確実な儲けにつながる。


「ウッド伯爵にそう言ってもらえると、非常に心強いですな。」


「ええ、そうですよ。ですから、もっと設備投資をして、生産量を増やし、大々的に商売をすればよろしいかと思いますよ。」


言われたホワイト伯爵は、頭の中で瞬時に収益を計算する。


赤字の心配がない事業なら、いくらでも設備投資ができるし、銀行も今以上の金を貸してくれるはずだ。


「なんと。ウッド伯爵にそう言っていただければ怖いものなしですな。今考えている規模よりも、もっと大きな工場にした方が良いようだ。」


「是非、そうしなされ。設備投資が多いほど、利益は倍に、いやそれ以上に膨らみますぞ。」


「その通りですな。」


四人はグラスワインを高らかに持ち上げると、笑顔で飲み干した。




オスカーは勤務が終ると、待ち合わせ場所の裏庭に向かって急いだ。


そこには既に、メイド姿のオフィーリアとテオが、オスカーが来るのを待っていた。


「オフィーリア、待たせてごめん。」


「いえ、私が待ちきれなくて、早く来てしまったんです。」


オフィーリアは、嬉しそうににっこり微笑む。


「今日は本当にありがとう。オフィーリアのお陰で、殿下に傷ひとつ負わせることなく救うことができた。あの距離を子犬の足で走るのは大変だっただろう?」


「オスカー様のお役に立ちたい、そう思ったら自然と力が湧いてくるんです。」


「オフィーリア・・・」


オフィーリアの言葉に感動し、オスカーはオフィーリアを抱きしめ、キスをしようと・・・


「コホン!」


二人の後ろにいたテオが、一つ咳をして自分の存在をアピールする。


オスカーは、残念そうにテオを見る。


「何ですか、その、お前は邪魔だって言う目は・・・。隊長、私のことは、まったく見えてませんね。私の仕事はここまでですので退散します! お二人で、どうぞごゆっくり。」


テオの去り際に「テオ、いつもありがとう。」とオフィーリアが声をかける。


「今日も世話になった。感謝している。」とオスカー。


なんとなくオスカーからの礼の言葉はついで感が拭えないが、まあ、ないよりましだと思うことにした。


「どういたしまして・・・」


テオは、二人に軽く会釈をして、この場から去って行った。




二人になると、オスカーはさっきの続きを始める。


改めて、オフィーリアを抱きしめてキスをした。


「今日は湖の畔を散策しよう。」


ホテルのすぐそばに、風光明媚で有名な湖がある。


もしかしたら、夜の散策を楽しんでいるカップルがいるかもしれないが、月明かり程度の明るさなら、見られたとしても、きっと二人が誰だかわからないだろう。


二人は手を繋いで、湖まで続く林の小道を歩く。


「あっ!」


オフィーリアが小石に躓いて転びかけたところを、オスカーが抱きとめた。


「大丈夫?」


「ごめんなさい。」


「謝ることなんてないのに。じゃあ、転ばないように、こうしよう。」


オスカーはオフィーリアをひょいと抱き上げ、お姫様抱っこした。


「オ、オスカー様!」


「ははは、この方がいいだろう? さあ、俺に手を回して。」


オフィーリアは、お姫様抱っこされることに、少し恥ずかしさを感じたが、それよりも、オスカーの気持ちが嬉しい。


いつも、オフィーリアを一番に考えて、優しい態度と言葉で接してくれる。


オフィーリアは、言われた通りにオスカーの首に手を回し、お姫様抱っこされたまま湖の畔まで進んだ。


「わあーきれい!」


林を抜け畔に着くと、オフィーリアが歓声を上げた。


広がる視界の中、月明かりに照らされたたくさんの花が、風にそよそよと揺れている。


湖面には、ゆらゆらと揺れる月が映り、幻想的な美しさを見せている。


初めて見る風景に、身も心も洗われる心地だ。


見渡せば、他に誰もいなくて、二人だけの美しい世界になっていた。


「オフィーリアの方が、もっともっときれいだ。」


「オスカー様・・・」


頬を染めるオフィーリアの唇に、オスカーはそっとキスをした。


観光地であるこの場所には、白塗りのベンチが点々と置かれ、美しい風景をゆっくりと楽しめるように配慮されている。


オスカーはオフィーリアをベンチに座らせると、自分も横に座った。


腰をぐいと引き寄せ身体を密着させると、オフィーリアの温もりが伝わってくる。


「温かいな。オフィーリアの香りもかぐわしい・・・。」


「オスカー様・・・、私もオスカー様の香り・・・好きです・・・。」


「オ、オフィーリア・・・」


二人の顔は、月明かりでもはっきりわかるほど、真っ赤になっていた。


「抱いてもいいか?」


その言葉に、オフィーリアはこくんと頷く。


その後、しばらく二人は幸せな時間を過ごした・・・。




ホテルに帰る道すがら、オフィーリアは今日の収穫の話をすることを忘れなかった。


「ウッド伯爵邸で働いていたメイドが、四年前に辞めたそうです。」


辞めた理由が恋人の死であり、メイドはその死をウッド伯爵のせいだと言っている。


四年前は、イザベラがウッド伯爵に引き取られた年だから、もしかしたら、ジオルグとも何か関係があるかもしれない。


そこまで話した後、辞めたメイドに話を聞いてみる価値はあるかもしれないと、オフィーリアは提案する。


「そのメイドの名前は?」


「ジャスミンです。」


「うむ、調べたら何か出てきそうだな。オフィーリア、またしてもありがとう。俺はいつもオフィーリアに助けられているな。」


オスカーは、いつもまっすぐに褒めてくれる。


オフィーリアには、それがとても嬉しかった。




翌日は、貴族たちはいつものように温泉や散策で自由に過ごすのだが、午後からは舞踏会の準備で忙しい。


女性たちは自分をいかに美しく見せようかと、ドレス、アクセサリー、化粧、髪のセットと自分磨きに余念がない。


だが、使用人たちは狩猟大会の後片付けで大忙しだ。


張ったテントを畳んで回収し、貴族たちが落としたゴミも、ひとつ残らず拾い上げなければならない。


オフィーリアとマリー、テオも忙しく働いていた。


特にオフィーリアは、昨日途中で湯沸かし係の仕事を抜け出したので、その埋め合わせも込めて人の何倍も仕事をこなしていた。


だから、人のざわめきに気が付かなかった。


「おや、お前はこんなところにいたのか。」


いきなり後ろから声を掛けられて、固まってしまった。


この声の主は、第二王子ヴァレリアンだった。

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