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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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29話

オフィーリアの前に現れた大きな犬が、ガルルガルルと、さらに強く威嚇してきた。


俺の縄張りに近寄るなと、怒っているようだ。


しかし、オフィーリアは逃げ帰る気はないし、こんなところで足止めさる気もなかった。


オフィーリアは、犬を睨みつけ、渾身の力を振り絞って「ギャンギャンギャンギャン!」と大声で鳴いた。


犬が怯むまで一歩も引かないと心に決めて、大声で泣き続ける。


「ギャンギャンギャンギャンギャン」


その気迫が伝わったのか、犬は「クーン」と弱々しい鳴き声を残して、尻尾を下げて逃げ去った。


良かった、私、勝ったわ!


オフィーリアは、また全速力で走り出す。


走って走って、崩れた城にたどり着いた。


ここで、はっきりとオスカーの匂いを感じた。


ここで、下ろされたのね。


オスカーの匂いは、塔の中に続いている。


周りを見回し、聞き耳を立てると、崩れた城の中から男たちの声が聞こえる。


人数は 十人ぐらい?


聞こえてくるざわめきから、のんきに酒盛りでもしているようだ。


オフィーリアは、塔に入ると長い螺旋階段を駆け上がる。


ハアハアと息が切れる。


でも、この上にオスカー様がいる。


そう思うと、疲れを忘れて足がさらに加速する。


最上階に駆け上がった。


鉄格子の向こうに、オスカーを見つけた。


「クゥーン(オスカー様!)」


その声にオスカーが振り向く。


「オフィーリア!」


「オフィーリアだって?」


隣にいたセオドアが、驚いてオスカーが見つめる方向を見る。


「なんだ・・・、子犬じゃないか。」


少し落胆したようなセオドアであったが、オスカーは構わず困惑と喜びが入り混じった複雑な表情でオフィーリアだけを見ていた。


オフィーリアは、牢屋の鉄格子をくぐり抜け、オスカーの胸に飛び込んだ。


「クゥーンクゥーン(オスカー様、助けに来ました。)」


「オフィーリア、助けに来てくれたんだね。ありがとう。」


いつもきれいで真っ白な毛並みが、土埃にまみれ、所々泥で汚れている。


オスカーは、オフィーリアをぎゅっと抱き締めた。


「ここまで来るのは、たいへんだっただろう?」


「キャン、クーンクン(はい、でも、私頑張りました)」


「そうか。よく、頑張ったな。疲れただろう? ゆっくりお休み。」


オスカーは、自分の上着を脱ぎ、オフィーリアに被せると優しく抱いた。


オフィーリアは、今までの激しい疲れと緊張から解放されて、オスカーの暖かい胸に抱かれたまま、あっという間に深い眠りについた。


セオドアは、子犬を起こしてはいけないのだと、なんとなく肌で感じ、小声でオスカーに話しかける。


「さっきから、いったいこの子犬は何なのだ?」


「殿下には、まだ話していなかったのですが、この子犬はオフィーリアなのです。十分ほどしたら起こしますが、驚かないでください。それから今から見ることはくれぐれも内密にお願いいたします。」


オスカーは、きっかり十分後、オフィーリアを目覚めさせるために声をかける。


「オフィーリア、目を覚まして。」


すると、オフィーリアは、オスカーの腕の中で人間の姿に戻った。


裸のオフィーリアは、オスカーの上着を一枚羽織っているだけの姿だ。


はみ出た足は、滑らかで透けるように白く、その姿はあまりにも妖艶で美しい。


目の前で起こった信じられない光景に、セオドアの開いた口がふさがらない。


「オオオオフィーリア?」


やっと出た言葉は、これだけである。


オフィーリアは、驚きが冷めやらないセオドアに、手短に挨拶をする。


「殿下にご挨拶申し上げます。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。では、早速ここから出ましょう。」


「出るって?」


オフィーリアは鉄格子に手をかけると、ぐっと力を入れて、まるでゴムのように曲げて左右に開いた。


「どうぞ、ここから出てください。」


オフィーリアに促され、オスカーもセオドアも牢屋から出たが、素手であることに気付く。


「オフィーリア、俺たちは武器がないのだが。」


「オスカー様、それでしたら、今はこれぐらいしか用意できませんが・・・。」


バキッ、ガシャッ、バキッ


オフィーリアは、牢屋の出入り口の鉄格子を外し、ちょうど剣の長さくらいの鉄棒を引きちぎってオスカーとセオドアに渡した。


「これで武器の代わりになりますか?」


「もちろんだ。ありがとう。」


オスカーは、顔色一つ変えずにオフィーリアと話をしているが、セオドアは驚きの連続で突っ込む言葉も失っていた。


もう、何が起きても驚かないぞ!とセオドアは心に決める。


三人が階段を降りようとすると、下から盗賊たちの声が聞こえてきた。


ガヤガヤと聞こえる声から考えて、一人や二人ではない。


もっと多い人数が上がって来ている。


オスカーは、一人でセオドアとオフィーリアを守らねばならない。


武器は剣ではなく鉄棒で、殺傷能力は低い。


オスカーは、鉄棒を強く握りしめた。


「オスカー様、私に良い考えがありますわ。」


オフィーリアは、窓を指差す。


明り取りに使われている大きな丸い窓には、同じく大きな丸い木製の雨戸が付いている。


オフィーリアは、今は開けられている雨戸をグイッと引っ張って取り外した。


「では、いきますわよ!」


大きな丸い雨戸を「えい!」と、螺旋階段の上から勢いよく滑り落とす。


下からギャー、ウワーと男たちの悲鳴が聞こえてきた。


上から滑り落ちてきた雨戸に吹っ飛ばされたのだ。


だが、数は減ったが、まだ上がってくる男の声がする。


「まだありますわ。」


次にオフィーリアは、窓の下の石壁を壊し、大きな石の一塊を取り出すと、同じように勢いよく階段を転げ落とした。


石はゴロゴロと転がり落ち、また、男たちの悲鳴が上がる。


螺旋階段が静かになったのを確認し、三人は階段を降り始めた。


階段には、吹っ飛ばされて戦闘不能になった盗賊たちが、ゴロゴロと倒れている。


しかし、その中の一人が意識を取り戻し、オフィーリア目掛けて切りかかって来た。


「キャー」


バキッ!


間一髪、オスカーの鉄棒が男の脇腹を打ちのめす。


オスカーが持っていたのが剣だったなら、胴体が真っ二つになっていたであろう。


鉄棒だったので切れることはなかったが、肋骨が折れるか砕けるかはしたはずだ。


倒れた男が持っていた剣は、なんとオスカーの剣だった。


オスカーから奪った剣を、自分の物にしたのだろう。


オスカーは自分の剣を取り返した。


セオドアの剣は見当たらなかったが、彼も倒れている盗賊から剣を取り上げた。


塔から出ると、異変に気付いた盗賊たちが三人出てきたが、剣を手にしたオスカーとセオドアの敵ではない。


あっという間に制圧し、盗賊たちのアジトにあったロープで、全員を縛り上げた。


全員で十人だった。


アジトの中を探すと、セオドアの剣、奪われた弓矢、盗んできた財宝や服、それに両国の入国許可証も出てきた。


オスカーは、隣で盗品を見ているオフィーリアを改めてじっと見る。


オスカーの青い団服の上着から伸びている白くて滑らかな足。


上着の中は下着一枚すらつけていない裸だ。


オフィーリアの今の姿も捨てがたいが、他の男たちに見せたくはない。


「オフィーリア、これを着て。髪の毛も隠して女だとわからないようにして欲しい。」


オスカーは服の中から男物の服と帽子を選び、オフィーリアを着替えさせた。


そして、盗賊たちを荷馬車に詰め込み、帰路についた。




関門では、テオがオフィーリアの帰りを待っていた。


一緒に来た護衛騎士は、アレックスに報告するために戻らせたが、テオは、オフィーリアが、何らかの情報を持って戻ってくるだろうと、この場所で待っていたのだ。


御者台に座る三人を見て、テオは喜びのあまり、泣きそうになる。


「隊長、無事に戻って来れたのですね。」


「ああ、全てはオフィーリアのお陰だ。」


「オフィーリア様、ありがとうございます。」


テオの目に涙が滲む。


「テオが私を信じてくれたお陰です。私こそありがとうございます。」


オフィーリアは褒められたことが嬉しくて、頬を染めにっこり微笑んだ。




会場では、アレックスがテオの報告を待っていた。


先に戻って来た護衛騎士から誘拐犯はランベルジオスに逃げたけれど、入国許可証がない自分たちは、それ以上進むことができなくなったと聞かされた。


テオは、まだ関門で様子をうかがっていると言う。


犯人たちが国境を越えたのなら、今の自分たちにはどうすることもできない。


やはり初めの計画通り、犯人からの連絡を待ってから動くしかない。


犯人の手紙には狩猟大会が終わってから、会場に一人残っているようにと書かれていた。


どんな方法で連絡をしてくるのかもわからない。


アレックスは、テオが、何か有益な情報を持って来ることを祈っていた。




狩猟大会の参加者たちは、セオドアとオスカーが攫われたことを知らされておらず、各自狩猟に夢中になっていた。


日没三十分前までに獲物を持って帰らなければならない。


第二王子ヴァレリアンも頑張ってはいるのだが、、弓矢の腕はそれほどでもなく、矢を放っては獲物に逃げられる・・・を繰り返していた。


「殿下、もうそろそろお時間が来るようです。仕方がありませんのでアレでいきましょう。」


ヴァレリアンの護衛騎士が提案する。


「ん・・・だが・・・そうだな。仕方がない。アレでいくとするか。」


ヴァレリアンは少し迷ったが、結局は頷く。


護衛騎士は、狩猟大会に行く前に、側妃カーラに予め獲物を用意しておくように命令されていた。


だから昨日、イノシシ二匹を生け捕りにして、檻に入れて草木で隠しておいたのだ。


「では、どうぞ、お仕留めください。」


今まで獲物に逃げられっぱなしであったヴァレリアンであったが、檻に入って動けないイノシシを、至近距離から弓で射るのは簡単だ。


イノシシ二匹だと、優勝は無理でも恥をかかずには済むだろう。


ヴァレリアンは、狩りを終えて会場に戻った。


会場に着くと、アレックスの表情がいつもより固く、周りの騎士たちも、どこかいつもと違うことに気付いた。


何かあったな。


ヴァレリアンは護衛騎士を使って探りに行かせる。


「王太子殿下とルイス侯爵様が、まだお戻りになっていないそうです。」


「ふーん、もうそろそろ終了時刻だ。閉会の挨拶に間に合わないようなら、俺が閉会の挨拶をしてやろう。この第二王子様がな。ハハハ。」


いつも重要で目立つ挨拶は、セオドアの役割だった。


ヴァレリアン自身は、セオドアは王太子なのだから仕方がないとは思うのだが、そのたびにヴァレリアンの母カーラの機嫌が悪くなり、ヴァレリアンにイライラをぶつけてくる。


カーラはヴァレリアンに王位を継承して欲しいと思っているが、本当のことを言えば、ヴァレリアンは王位にさほど興味がない。


王になれば、制約も多く、面倒な仕事が増えるばかりだ。


それよりも、第二王子の身分の方が、時々公務を担うだけでよく、よっぽど楽で自由に生きられる。


だが、カーラにそんなことを言おうものなら、ますます機嫌が悪くなることが目に見えている。


結局、ヴァレリアンはカーラの機嫌を損ねることの方が面倒で、カーラに逆らうことはせず、彼女の思うままになっているのである。


今回の件で、セオドアが時間を守らず、閉会の挨拶をヴァレリアンがしたと知れば、きっとカーラの機嫌が良くなるだろう。


セオドアよ、もっと遅れろ、もっと遅くなれ!と、ヴァレリアンは祈った。

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