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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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27話

狩猟大会の二週間前のこと。


ジオルグは、隣国ランベルジオスの国王であるバルマン・ランベルジオスの執務室にいた。


国王は、歴代希に見る賢王と言われ、その手腕は、全国民に支持され褒め称えられている。


唯一の汚点と言えば、五年前に、王太子エイダンが提案した戦争を許可したことであろう。


提案したのは息子であるエイダンであったが、結局はこれ以上の被害を出さないためにと、高額の賠償金を支払うことで終止符を打ったのは父のバルマンであり、人々は賢王バルマンのこの決断を支持した。


「ジオルグ、今回もご苦労であった。」


国王バルマンは、背中まで垂らした白髪と同じく白い口髭が、まるで神官を思わせる雰囲気であるが、緑の瞳の眼光が鋭く、王としての威厳は誰もが認めるものであった。


「身に余るお言葉をいただき、恐悦至極に存じます。」


「堅苦しい挨拶は要らぬから、もっと気楽に過ごしなさい。お前がもたらす情報の数々は実に我が国に役立っておる。これからも頼むぞ。」


「隣国アデルバードから亡命してきた私を、暖かく保護してくださった御恩に少しでも報いることができれば幸いでございます。」


「私は人として、するべきことをしたまでのこと。お前の命が助かって本当に良かった。」


一通りの挨拶が終わった後、二人はジオルグが薦めている鉱山の話に移る。


バルマンは、ずいぶん前からアデルバード国が所有する良質の鉱山を手に入れたいと思っていた。


しかし、鉱山が良質であればあるほど、所有者は手放そうとはしない。


ジオルグは、数年前に、時間と金がかかるが、とても良質な鉱石が潤沢に埋まっている鉱山を手に入れられそうだと、バルマンに報告していた。


「まだ時間はかかると思いますが、必ず手に入れて見せます。すぐに採掘はできないでしょうが、長い目で見ればきっと損にはならないと思います。」


「そうか。金はいくらかかっても良いから、計画をそのまま進めてくれ。長旅で疲れただろう。さあ、これで、ゆっくりと休むが良い。」


バルマンが、たんまりと金の入った袋をジオルグに渡すと、ジオルグは感謝して受け取った。


「ところで養父の墓参りはすませたのか?」


「いえ、これから行くつもりです。」


「そうか。話したいこともたくさんあるだろう。では、行くが良い。」


ジオルグが執務室を出た後、バルマンは、ジオルグに渡された報告書を読んで呟いた。


「全く・・・、グレゴリーは、堅実な政をしている。愚王ランドルフの治世がもっと長く続いたならば、今頃はあの国は私のものになっていただろうに・・・。私が狐なら、グレゴリーはタヌキだな・・・。」




ジオルグは執務室を出て、養父メルビンの墓に向かった。


アデルバード国出身のジオルグとメルビンであったが、亡命してきた二人をバルマンは広い心で受け入れ、衣食住に困らないように手配してくれた。


ジオルグが今も生きているのは、バルマンのお陰だと言っても過言ではない。


養父の墓も、バルマンが建ててくれた。


ジオルグが隣国の国王バルマンのために働くのは、彼にとって至極当然のことなのである。




途中の廊下で、王太子エイダン・ランベルジオスに出会った。


父バルマンは、若い頃から白髪であったが、エイダンの髪色はバルマンよりも若干色が入っており、薄いグレーである。


髪は短く、雰囲気はバルマンと違っているが、瞳の色は同じ緑で、目鼻立ちも父親とよく似ており、二人並ぶと親子であることがよくわかる。


「ジオルグ、良いところで会った。お前に頼みたいことがあるんだ。ちょっと来てくれ。」


はぁ、またか・・・と不敬にならない程度の小さなため息をつき、エイダンにしたがう。


養父の墓参りに行きたいからと、断ることはできない。


王太子の権力は絶大だ。


平民のスパイごときが、反抗できるはずがない。


それにしても、人の都合も聞かずに自分の欲を優先させるとは、賢王バルマンと並みの王太子エイダンの大きな違いであると思う。


エイダンは誰もいない部屋に入ると、ジオルグに座るように言った。


話は長くなりそうだ。


ジオルグは、ため息をつきたいのを我慢する。


「今から二週間後に、アデルバード国のノースフレアで狩猟大会が行われる。そこでだな。王太子セオドアとその専属護衛騎士のオスカーを攫いたいのだ。」


いきなり、思ってもいなかった物騒な話を持ち出され、ジオルグは耳を疑う。


「殿下、そんなことをしたら、また戦争になりますよ。陛下がお許しにならないと思いますが・・・。」


「それくらいはわかっている。我が国には、戦争をする余力がないこともな。」


戦争で多くの騎士、兵士を失い、戦争を終わらせるために、高額の賠償金を支払ったばかりで、ランベルジオスには戦争をする余力など残っていない。


「でしたら、なぜ?」


「攫うのは俺ではない。ただの盗賊だ。俺は何も知らぬ。知らぬところで、勝手に起こることなのだ。」


はぁと、今度はわかるようにため息をついた。


このお坊っちゃんは、またそのような夢を描いているのか・・・。


ジオルグが眉間にしわを寄せていようがお構いなしに、エイダンは話を続ける。


「盗賊が二人を攫い、身の代金を要求する。この事実が大事なのだ。あの戦争でソードマスターの称号を得た護衛騎士がついているにも関わらず、盗賊に攫われ身の代金を要求されるのだ。大恥をかくだろう? これぐらいしてやらないと、俺の気持ちがおさまらない。」


「盗賊に任せるのなら、私の出番はないのでは?」


「たかが盗賊ごときが、オスカーを相手にできると思うか? 下手に手を出せば殺されるだけだ。だから、ほんのわずかでもいい。眠らせて欲しいのだ。それならお前にもできるだろう? やってくれたら金は弾むぞ。」


ジオルグは、やっとエイダンが何を望んでいるのか理解した。


眠らせるだけでいい・・・、だが、本当にそれだけか?


「殺さないのですか?」


「殺したいほど憎いヤツだが、殺さない。殺しを依頼すれば、必ず依頼人が誰かと追求される。下手すれば、それこそ戦争になってしまうからな。」


このお坊ちゃんは、賢いのか愚かなのか・・・。


この頭をもっと他のことに使えば良いのに・・・とジオルグは思う。


「それにだ、あの二人を殺ったところで、今の俺には何のメリットもないからな。それよりも生き恥をさらすアイツを見る方が面白い。まあ、殺すも殺さないも盗賊らが決めることだ。俺には関係ない。俺は、奴らに金になる情報を流すだけだ。」


「・・・」


ジオルグは無言のまま、呆れ顔でエイダンを見ていた。


「ああ、情報源は、俺だとわからないようにするから心配ない。」


エイダンがオスカーを憎むのには理由がある。


オスカーのせいで戦争に負け、父である国王陛下から不信を買ってしまったのだから。


賢王バルマンが持つ情報網は大陸中に広がっており、それは、隣国アデルバードまでも隅々まで把握できるほどだ。


商業ではキャスレル商会を始めとして、情報源となる小さな商店も至る所に設置しており、他にも賭博場、娼館など数えあげたら切りがなく、王宮内には調理師や庭師にまでスパイを送り込み、国の細部にわたって、その情報網は張り巡らされている。


ジオルグもその情報網の一部を担っており、キャスレル商会の職員と王宮庭師の弟子の偽造身分証を渡されている。


エイダンはそれらの情報を基に、アデルバードが戦争にかけることのできる予算、兵士、騎士、使用可能な兵器の数まで計算し、勝てると踏んで戦争を提案した。


別にアデルバードを征服しようなどと、大それたことを考えたのではない。


アデルバードが和平交渉を求めてきたら、その条件に国境付近にある鉱山の所有権を譲渡してもらう、それが目的だった。


いつも賢王バルマンと比較され、並みとしか見られない自分の地位をもっと上げたかった。


王太子エイダンにも、賢王の素質があることを皆に示したかったのだ。


エイダンが提案した戦争の話に、初めバルマンは乗り気ではなかった。


だが、エイダンが勝つ確率までも計算して説得してきたので、バルマンは許可してしまった。


息子の一人立ちを、後押ししてやりたかった気持ちもあったのだろう。


だが、その読みは甘かった。


エイダンの計算の中に、近衛騎士団長のアレックスと、まだ若干十五歳だったオスカーの存在が入っていなかったのだ。


アデルバードがランベルジオスとの外交問題で、おかしてしまった些細なミスを拡大解釈し、アデルバードが戦争を仕掛けていると言いがかりをつけて始めた戦争だった。


二年以内に片が付くと思っていたのだが、アレックスの采配が功を奏し、二年では終わらなかった。


その間オスカーが目覚ましく成長し、ランベルジオス軍にとって脅威の存在となっていく。


さらにエイダンが読めなかったのは、爆薬の開発だった。


それまでの爆薬は、不安定で輸送中に爆発することが多く、戦争に使うことは不向きであった。


しかし、安定して輸送できる爆薬を、アデルバードの方が先に開発してしまったのだ。


オスカーはその貴重な爆薬を攪乱に使用し、捕虜を救うと同時に、ランベルジオス軍を血の海にした。


その後もオスカーの作戦に翻弄され、被害が拡大。


これ以上の被害を出さないために、結局はエイダンではなく、国王バルマンが終戦を決意したのだ。


高額の賠償金を支払うことによって・・・。


エイダンは、オスカー一人に負けたような気がしていた。


オスカーのせいで、バルマンからの信頼を失い、権威も地に落ちてしまった・・・。




ジオルグは、エイダンのオスカーを憎む気持ちがわからぬでもないが、どうしたものかと迷っていた。


数分程度なら、意識を奪うことができるかもしれない。


ただし、一度でもあの匂いを嗅いだことがあるのなら、警戒され失敗するのは目に見えている。


オスカーに通用するのかどうかは、やってみなければわからない。


エイダンは、迷っているジオルグにもう一つ誘いをかけた。


「ほら、お前が側室にしてくれと言ったあの娘。イザベラと言ったか。その娘の側室の地位を上げてやろう。それでどうだ?」


正直、ジオルグにとって、イザベラの側室の地位などどうでもよかった。


だが・・・と、ジオルグはイザベラと出会った日のことを思い出す。




四年前、ジオルグはウッド伯爵家の養女にする娘を探していた。


純真無垢な娘など必要なかった。


平気で人に毒を飲ませることができる娘が必要だった。


ある日、孤児院でイザベラを見つけた。


彼女の目に惹き付けられた。


権力者を憎む目、それは昔の自分と同じ目だと思った。


ジオルグはイザベラに、一つの質問をした。


「お前が一番に望むものは何だ?」

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