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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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24話

いきなり第二王子ヴァレリアンに声をかけられ、オフィーリアは、固まってしまった。


昨日の腕を掴まれた無礼な行為を思い出すと、無意識に体が震える。


だが、高貴な身分のヴァレリアンに、平民のメイドが断るなんて許されない。


ああ、どうしたらいいの・・・?


「ヴァレリアン、我が儘を言うんじゃない。」


ヴァレリアンと青ざめたオフィーリアの、ただならぬ雰囲気に気がついたセオドアが止めに入った。


オフィーリアはほっとしたが、ヴァレリアンは引き下がらない。


「昨日は仕事中だったから、引き止めた俺が悪かったかも知れないが、今は関係ないだろう? 」


セオドアに、自分勝手なの正論をぶつけてくる。


「だいたい、兄上と二人きりの馬車なんて息がつまる。一人女性が入るだけで和むじゃないか。それに、王族の馬車に乗れるなんて、メイド風情には一生ないことだ。この女も嬉しいに決まっている。」


ええ? どうして勝手に決めつけるの???


私は王族の馬車になんて、乗りたくないのに!


オフィーリアは、叫びたくなったがだが、ぐっと我慢し、できるだけ顔を見られないようにうつむいたまま、早くこの場から離れたいと願った。


セオドアはヴァレリアンの言い分に、ほとほと呆れたようで、わざと聞こえるように、はあと大きなため息をついた。


「つまり、俺と二人きりが嫌で、勝手に一人増やすと言うのだな。では、俺も勝手に増やそう。アレックス、オスカー、お前たちも一緒に乗れ。」


「なっ・・・」


セオドアの意外な攻撃に、ヴァレリアンは次の言葉が出てこない。


「はい。殿下がお許しくださるのなら、喜んで乗りましょう。王族の馬車に乗れるなんてめったにないことですから。」


アレックスが、丁寧に答えた。


「私もです。殿下に誘っていただけるなんて、なんと言う喜び。」


オスカーもそれに続く。


ヴァレリアンにとって、アレックスは苦手だったが、オスカーは、それに輪をかけて苦手であり嫌いな男だ。


自分と同い年でありながら、騎士の最高峰であるソードマスターの称号を与えられ、まるで何もかも見透かしたような目で、いつも見られているようで気に食わない。


そして何よりも気に入らないのは、セオドアの専属護衛騎士になったことだった。


こんなヤツと一緒の馬車に乗るなんて、息がつまるどころか死んでしまう。


「わかったよ。この話は無しだ。おいお前、もう用はないからあっちへ行け。」


オフィーリアは、一礼すると、ほっとしてこの場を離れた。


オフィーリアの後ろ姿を見送りながら、オスカーは、気が気でなかった。


よりにもよって女癖が悪いヴァレリアンに目をつけられるなんて・・・。


これからは、ヴァレリアンの動行にも目を光らせないといけない。


しかし幸いなことに、この後はさすがにヴァレリアンも懲りたのか、オフィーリアにちょっかいを出すことはく、一行は無事に目的地のホテルに着いた。




ホテルは王族の離宮を改造しただけあって、重厚な作りの中には華やかさと気品が感じられる大きくて豪華な建物だ。


大きな庭園に目を移すと、噴水が水しぶきを上げ、その周りには配色を考えて植栽された花が咲き乱れていて、庭師のセンスと手入れの良さがうかがえる。


オフィーリアは、初めて見るノースフレアのリゾートホテルに、しばし感動していた。


しかし、到着したのは夕方で、ゆっくりと感動する間もなく、使用人たちは荷物の移動や整理整頓で大忙しになる。


特にオフィーリアは、平民使用人と同じ裏方の仕事に従事することになったので、仕事量が多く、貴族が宿泊する本館には特別に用がない限り行くことはない。


オスカー自身もホテルに到着してからは、セオドアの護衛として絶えずそばにいる。


オスカーもオフィーリアも、お互いに会いたいと思っていても、それは無理な話なのである。


明日は、セオドアから、自由時間をもらえる約束になっているので、オフィーリアとの時間を持てるはず。


それまで我慢しようと、オスカーは自分に言い聞かせていた。


夜遅くにオスカーの勤務時間が終わり、オスカーは別の近衛騎士に護衛を任せて持ち場を離れた。


そこへ、アレックス近衛騎士団長がやって来た。


「ルイス侯爵、今、話をする時間はあるだろうか。」


オスカーにとってアレックスは尊敬する団長であり、父のように慕っている存在だ。


断るなんて考えられない。


「もちろんです。」


アレックスは、オスカーを誰もいないバルコニーに連れ出した。


見上げると、満月が明るく輝いている。


「ルイス侯爵・・・」


「団長、二人でいるときは今まで通り、オスカーとお呼びください。」


畏まった名前で呼ぼうとしたアレックスを、オスカーは途中で遮った。


「ソードマスターの称号を得た騎士を、名前で呼び捨てにはできないのだが・・・。」


「いえ、団長は、私が幼い頃から師と仰いでいる方なのです。どうか堅苦しいことは抜きでお願いいたします。」


「ありがとう。それでは遠慮なく今まで通りでいかせてもらおう。」


アレックスは夜空を見上げた。


それに釣られてオスカーも顔を上げる。


「なあ、オスカー、あの輝く月の回りにも、瞬いている星はあるはずなんだ。だが、月の光があまりにも強すぎて、我々の目にはその光は届かない。」


「団長、いったい何が言いたいのです?」


「お前に国王陛下の話をしたくてな。」


「国王陛下?」


「そうだ。陛下は、あの見えない星のようなお方なのだ。あの方は、ご自分の周りは明るく照らすのに、ご自身は、その光の陰に隠れようとなさる。」


「よく話が見えませんが・・・。」


「お前は、王太子殿下の側近護衛騎士になったのだから、陛下の見えない光を知っておくべきだと思ってな。今から話すことをよく聞いてほしい。」


団長は、国王グレゴリーと自分の関係から話し始めた。




前国王ランドルフ・アデルバードの時代、ランドルフ王の回りには、私利私欲にまみれ、不正を日常的に行う側近や貴族で溢れていた。


不正を正すべき騎士団も例外ではなく、近衛騎士団長、第一、第二騎士団長まで賄賂を受けとるほど、腐敗は進んでいた。


賄賂の要求、公金横領もランドルフ王が率先して行うので、誰も止めることができない。


下手に進言などしたら、愚王ランドルフに殺される。


口には出さなくても、誰もがそう思っていた。


当時王太子であったグレゴリーも、たとえ息子であっても、命の危険は拭えず、父の政に対して何も言えなかった。


だから、グレゴリーはおとなしく気弱で従順なフリをして、決してばれないように密かに証拠集めを始める。


証拠を集めるだけでなく、次を担う人材探しも、水面下で静かに進めていた。


証拠集めが終わった頃、偶然にもランドルフ王が病死する。


そこでグレゴリーは、当時第一騎士団副団長であったアレックスに全ての証拠を渡し、一斉に逮捕することを頼んだのだ。


アレックスは第一騎士団副団長であったものの、人望は厚く、騎士団長の不正や、汚職にまみれた貴族たちに、憤りを感じていた騎士たちが、アレックスの呼びかけに皆喜んで呼応した。


今の政治を変えるべきだと考えていた騎士たちは思いのほか多く、結果、数多くの騎士の協力のもと、一斉逮捕は成功したのである。


政務に関わる多くの貴族が逮捕されたが、グレゴリーがその代わりとなる人材を予め決めていたので、速やかに政務に関わる役人を交代させることができた。


グレゴリーの長年にわたる忍耐と努力の結果、腐りきっていた国政が、短期間で修正できたのだ。


だが、新国王となったグレゴリーが表舞台に立つことはなく、全ての証拠はアレックスの手柄であると国王自身が認めた。


これにより、アレックスの爵位は子爵位から侯爵位へと陞爵し、領地も授けられたのだ。


今もグレゴリーは気弱で優柔不断な演技を続けているが、それは回りの者を油断させ真実を見抜くには都合が良いからなのである。




ここまでの話を聞いてオスカーは驚いたと同時に、自分を恥じた。


オスカーは、国王と直に話す機会がほとんどなく、噂だけで判断していたのだが、自分が思っていた王と、真実の王との差は、ずいぶんかけ離れている。


前王死後の粛清は、今まで全てがアレックスの力によるものだと思っていたのだ。


「殿下は、陛下の真実を知っておられるのですか?」


「殿下は口には出さないが、知っておられるだろう。その証拠に、殿下ご自身が知り得た情報は全て陛下にご報告しておられる。」


オスカーも、自身が知り得た情報を、全てセオドアに報告している。


つまり、その情報も全て陛下に伝わっていると言うことか・・・。




アレックスの話は、これだけでは終わらなかった。


オスカーが、今までに例を見ない十二歳で近衛騎士団に入団できたのは、それもすべて国王グレゴリーの采配によるものだと言う。


表向きは、セオドアの提案だとされているが、わずか十二歳で騎士団に入団させるなど、いくら王太子だからと言ってできるものではない。


予め、グレゴリーから、アレックスに話があってのことだった。


「陛下は、私に相談された後に、殿下にお前に騎士団入団を提案されたのだ。もちろん私に頼んでいることは内緒にしてね。」


「なぜ、そのような・・・。」


「お前はいずれ、殿下の側近護衛騎士になる。その事を見越して、お前が殿下に忠誠を誓えるようにしたかったのだろう。」


「そのような深いご配慮があったのですか。」


オスカーは今まで、近衛騎士団に入団できたことは、セオドアと、アレックスのお陰だと思っていたのだが、王の配慮にまったく気づかなかった自分を恥じた。


「それからお前の父親のことも、陛下は配慮してくださったのだ。」


「私の父?」

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