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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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23話

せっかくセオドアからもらったチャンスを、反故にしようとするオフィーリアにオスカーはたじろいだ。


「オフィーリア、どうしてダメなんだ?」


「まだ身分を隠して、いろいろ調べたいことがあるのです。ですから、オスカー様の妻として動くのは時期尚早かと。でも、あの有名なリゾート地ノースフレアには一度行ってみたいと思っていました。」


あくまでも妻として行く気がないというオフィーリアに、少し寂しさを覚えるが、一緒にリゾート地には行きたいと言う、これは喜んでいいものか・・・?


オスカーは、どうしたものかと悩んでいたが、オフィーリアの次の言葉に驚く。


「オスカー様、よろしければ、私をルイス侯爵家のメイドとして連れて行ってくださいませんか?」


「はあ? メイド? 何を言う。愛するオフィーリアをメイドだなんて。」


反対するオスカーを説得しようと、オフィーリアは聞いた話を熱弁し始める。


狩猟大会に参加する貴族は、それぞれの家門から使用人を連れて行くことになっている。


使用人の仕事は、裏方と表方に分かれているが、裏方の仕事をすれば、貴族に見られることは少ないし、何か情報収集ができるかもしれない。


ウッド伯爵の使用人と話す機会があれば、それはとても好都合だ。


オフィーリアは、メイドとして連れて行くことが、どれほど良いことなのかを力説した後・・・、


「だから、オスカー様、お願いします。」


最後は祈るように指を組んで、ウルウルした目でオスカーを仰ぎ見た。


「ううっ・・」


あんな目で見つめられてお願いされてしまっては、オスカーの反対する気持ちはどこかへ飛んでしまう。


「はあ、まったく。オフィーリアにはかなわない・・・。」


結局、マリーとテオも一緒に連れて行くことで話がまとまった。


ただし、貴族が連れて行くメイドは、豪華な本館ではなく、質素な別館に宿泊することになっているので、せっかくセオドアが許可してくれた豪華スイートルームは、辞退することになった。




サラサラと流れるような金色に輝く長い髪、湖を写し出したような水色の瞳、整った白い顔が少し青ざめ、まるで、透き通っているようだ。


薄黄色のドレスをまとった貴婦人が、手を差し伸べ、悲しい微笑みを浮かべて懇願する。


「あなたの悲願を成し遂げるために、どうかお気になさらず、私を捨て置いてくださいませ。ですが、どうか、生まれたばかりの私たちの赤ちゃんの命だけは守ってください。それだけが、私の願いです・・・。」


女は影が薄くなり、目の前でふわりと消えた。


「アメリア、待ってくれ。」


男は手を伸ばしたが、女に触れることができず、空を掴む・・・。


アデルバードの国王、グレゴリーが目を覚ました瞬間、差し出した自分の手が、何かを掴もうとしていた。


結局何も掴めぬままで、その手をじっと見つめる・・・。


三年前に亡くなった妻アメリアの、若き日の悲しみに沈んだ顔を思い出す。


あのときは、ああするしかなかった・・・。


自分の不甲斐なさを嘆いても、あのときは、ああするしか・・・。




あっという間に日は過ぎて、明日は狩猟大会に出発する日だ。


北の国境近くにあるリゾート地ノースフレアは、片道五日もかかる場所にあり、持って行く荷物がとても多く、準備するのもたいへんである。


ほとんどの荷造りは終わったが、まだ他にも必要な物があれば買っておこうと、今日はオスカーとオフィーリアが、一緒に買い物に出かけることになった。


結婚して以来、初めて二人で行くお買い物、何だかデートみたい・・・


オフィーリアもオスカーも嬉しくて、朝からそわそわしながら服を着替えて準備する。


今日の服装は、目立たないように、二人とも質素な平民用の服装だ。


おまけに、オフィーリアはローブをまとい、フードも被るものだから、オスカーはちょっとだけ残念な気持ちになる。


時間になると、セバスチャンとマリーに笑顔で見送られて、二人は馬車に乗った。


オフィーリアは、結婚前にマリーとよく来た町の市場なので、店のことに詳しい。


足りないものを思い出しては、あちらこちらと店を回る。


オスカーが、気に入ったものを何でもかんでもオフィーリアのために買おうとするのを、止めることは一苦労であったが、二人一緒に選んだ品を買うと、とても幸せな気分になれた。


オフィーリアがもう一つ楽しみにしていたこと。


それは町の神殿に行く事だ。


「オスカー様、絵本を買ってもいいですか?」


オスカーは笑顔で頷く。


結婚前にマリーと訪れた際は、オフィーリアのお小遣いで絵本を買っていた。


だが、今日は、オスカーが「いくらでも好きなだけ買うと良い。」と言ってニコニコとお金を出してくれる。


オフィーリアは、本屋の棚に並ぶ絵本を手にとり、どれにしようかと幸せな気持ちで悩む。


ふと、懐かしい絵本を見つけた。


悪者に城を追い出されたお姫様が、優しい王子様に助けられ、一緒に悪者を退治するというお話。


よくある童話だが、絵がとてもきれいだったので、オフィーリアのお気に入りの一冊だった。


まだ、義妹のスカーレットと仲が良かった頃は、よく読んであげたのだが、溝ができてからは、絵本を読んであげることもできなくなってしまった。


今頃、スカーレットはどうしているのだろう・・・と、ふと頭をよぎったが、今は絵本が優先だと、オフィーリアは絵本選びに専念する。


ひとしきり悩んだ後で、オスカーとオフィーリアは、両手に持てるだけの絵本を買って、神殿に入った。


「あっ、オフィーリア様だ!」


中にいた子どもたちが、オフィーリアの周りに集まり歓迎してくれる。


「お久しぶりです。オフィーリア様。」


初老の神官がオフィーリアを見ると、懐かしそうに挨拶をしてくれる。


「お久しぶりです。神官様。」


オフィーリアも、ローブを脱ぎ、丁寧にあいさつを返す。


誰も、オフィーリアがベイル家から絶縁されたことを話さないところを見ると、町の人々には伝わっていないようだ。


もしかしたら、知らないフリをしてくれているのかもしれないが・・・。


「オフィーリア様、僕ね、絵本を一人で読めるようになったよ。」


「私は家族全員の名前を書けるようになりました。」


子どもたちに囲まれているオフィーリアは、にっこり微笑み、とても幸せそうだ。


オフィーリアは、一番小さな女の子を膝に乗せて絵本を読み始めた。


他の子どもたちも絵本を覗き込み、オフィーリアの語りに耳を澄ませている。


この幸せな空間を、オスカーはほのぼのとした思いで見ていた。


いつか、俺たちに子どもができたら・・・


オスカーの妄想は止まらない。


ちょんちょんと、誰かにつつかれて現実に戻ったオスカーが、その相手を見ると、目がクリっとした七歳くらいの可愛らしい女の子だ。


「お兄さん、オフィーリア様のお付きの人でしょ。オフィーリア様のこと好きなの?」


「え? んー・・・」


従者だと装って来ているので本心を明かすのもどうかと思い、オスカーが返事に困っていると、女の子は同情するような目を向ける。


「ミブンチガイのコイで辛いのね。でも、お兄さん、とってもカッコいいし優しそうだから、オフィーリア様にお似合いよ。私、オウエンしてあげる。」


小さな女の子が、らしくない大人びた口調で話すのを聞き、オスカーは目を丸くする。


「ははっ、ありがとう。これはお礼。」


オスカーは、さっき寄った店でもらった飴玉を、女の子にこっそりあげた。


「皆には内緒だぞ。」


オスカーも幸せな時間を過ごしていた。




翌日、初夏の爽やかな風が吹く中、王太子セオドアと第二王子ヴァレリアンの一行は近衛騎士団長のアレックスとその部下たち、側近護衛騎士のオスカー、そして数台の馬車を連ねて出発した。


この一行には、国王グレゴリーと側妃カーラは同行していない。


五年前まで、狩猟大会には、国王グレゴリーも出席していた。


狩猟は苦手だからと大会に参加はしなかったが、開会宣言、表彰式などの公務のために行く必要があったからだった。


だが、今回は、長旅は身体に辛いからと同行するのは止め、王の仕事を全てセオドアに丸投げして王宮に残ることにした。


国王が出席しないのだから妃も行く必要がないだろうと説得され、側妃カーラも行くのを取り止め城に残っている。




オフィーリアとマリーは、初めての遠出にワクワクしながら、窓に映る景色を楽しんでいた。


「うふふ、お嬢様、屋敷を出る前のご主人様、失礼とは思いますが、とても微笑ましかったですね。」


「もう、マリーったら。」


そういうオフィーリアも、思い出すと頬がほんのり赤くなる。


出発の前に、オフィーリアはマリーに髪形を変えてもらった。


いつもは長いプラチナブロンドの髪をそのまま流しているのだが、今日からメイドとして働かねばならないので、三つ編みのお下げにしてもらった。


服装も、もちろんマリーと同じメイド服で、頭にはホワイトブリムをつけている。


オスカーは、初めて見るオフィーリアの姿に、声を失い顔を赤くし、しばらく呆然と眺めていたが、我に返ると「か、可愛い!可愛い!」と連呼した。


そしてぎゅっと抱きしめると、「オフィーリア、こんなに可愛い姿を誰にも見せないでくれ。」と無理な注文をしたのである。


それは無理だと言って抵抗するオフィーリアであったが、結局、テオが差し出した変装用の黒縁眼鏡かけることで折り合いがついた。


そのテオは、オフィーリアの前に座っているのだが、今回はオフィーリアのそばを離れない任務なので、メイド服を着て女性に変装している。


細面で灰色の髪を一つ括りにしている姿はテオのままだが、うっすらと化粧をし、スリムな身体に女装をすると、女にしか見えない。


聞けば、これまでにも潜入捜査の際は、女装をすることがよくあり、化粧も慣れたものだと言う。


初めはテオの女装姿に驚いたオフィーリアとマリーであったが、一緒に馬車で揺られいるうちにすっかり慣れてしまった。


さて、出かける前は子どものように駄々をこねたオスカーであったが、いったん仕事モードに入るときりりと顔が引き締まり、まるで別人のように変わる。


周りの者を射抜く視線は冷徹で鋭く、魔王の再臨と言われても不思議ではない。


オフィーリアが、真面目に仕事をするオスカーを、まじまじと直視するのは今回が初めてである。


オスカーの凛々しい姿が、オフィーリアにはこの世で一番素敵な男性に見える。


窓の外を見ていると、偶然、馬上のオスカーが視界に入って来た。


オフィーリアはポッと顔を赤らめ、「オスカー様、カッコイイです・・・」と自然に言葉が漏れる。


そんなオフィーリアを、マリーは目を細めて微笑みながら、テオは、はあ、とため息をついて見ているのだった。


片道五日もかかる行程なので、一行は宿場町で宿泊を繰り返しながら進む。


宿の人手が足りない場合は、同行している平民の使用人やメイドは、騎士たちへの給仕を手伝うことになる。


三日目の宿は特に人手が足りなかったようで、夕食時にオフィーリアたちはとても忙しく給仕で動き回ることになった。


と言っても、王族には、専属の侍従とベテランの侍女が絶えずついているので、メイドたちが直接世話をすることはなく、王宮から来た若いメイドたちは、オフィーリアと一緒に騎士たちのために忙しく動き回っていた。


「はあ、なんで俺の周りは男とおばさんだけなんだ? 若い娘は騎士の世話ばっかりだ。」


第二王子ヴァレリアンが、ため息をつきながら愚痴をこぼす。


「おい、聞こえているぞ。」


セオドアがヴァレリアンをたしなめるが、むっとするだけで、自分の発言が周りの者に不快感を与えていることに、まったく反省がない。


護衛でそばにいるオスカーも、ヴァレリアンの態度に呆れてしまう。


「まっ、若い娘と言っても、美しい娘がいるわけでなし・・・。」


ヴァレリアンは、動き回る娘をなめまわすように見て品定めをしていた。


オフィーリアは騎士たちの注文を聞き、飲み物やつまみを運んでいたのだが、黒縁眼鏡をかけている姿は、他のメイドたちよりもかえって目立ってしまうようだ。


「なんだ、あの娘は。似合わない眼鏡なんかかけて。」


ヴァレリアンの目が自然とオフィーリアを追う。


そのとき、オフィーリアは他のメイドとぶつかってしまい、眼鏡がポロリと床に落ちてしまった。


「ごめんなさい。」と謝って眼鏡を拾い上げ埃をはらっている姿を見て、ヴァレリアンの顔つきが変わった。


「ほう、あんな娘もいたのか。」


ヴァレリアンは断りもなく席を離れ、騎士たちのテーブルへと急いで足を運ぶ。


「キャッ!」


いきなり後ろから腕を掴まれて、オフィーリアは驚きの声を上げた。


「そんなに驚くではない。そなたの眼鏡、まったく似合ってないぞ。せっかくの美しい顔が台無しだ。」


いきなり失礼な言葉を浴びせられたが、相手は第二王子だ。


反抗したくても何も言えない。


ともかく腕を離して欲しい。


だが、それさえも、こちらから言うことは不敬に当たる。


オフィーリアは何もできずに腕を掴まれたまま、ただ下を向いて時が過ぎるのを待っていた。


少し離れた場所で、この光景を目撃したテオもマリーも、第二王子相手ではどうすることもできず、ハラハラしながら見守るしかない。


オフィーリアが困っていると、褐色の短髪で大柄の逞しい男性が間に入った。


アレックス近衛騎士団長である。


「殿下、メイドが困っております。手を離していただけませんか。」


ヴァレリアンはアレックスを睨みつけたが、アレックスは表情一つ変えず、微動だにしない。


急に現れやがって。


やっぱりこの男は苦手だ。


「わかったよ。離せばいいんだろ。」


ヴァレリアンはしぶしぶ手を離し、「あーあ、まったく面白くない。」と言いながら席に戻った。


この一部始終をオスカーは煮えたぎる思いで見ていた。


仕事中の今は、セオドアから離れるわけにはいかない。


だが、この一行の総責任者であるアレックスなら、きっと助けてくれるに違いないと、すがる思いで見ていたら、案の上アレックスが救いの手を差し伸べてくれた。


本当に頼りになる団長だ。


それにしても困った。


オフィーリアの美しさがばれて、あの女好きのヴァレリアンに目を付けられたかもしれない・・・。


冷徹な表情の下で、オスカーの心は困惑していた。


「あなたは、ルイス侯爵家のメイドですね。」


褐色の瞳をこちらに向けて、穏やかな声で話しかけるアレックスに、ほっとした顔でオフィーリアは礼を言う。


「はい。そうです。助けていただいてありがとうございました。」


「私はこの一行の総指揮を任されているアレックス・サンダースです。もし、何か困った事がありましたら遠慮なくお話ください。」


「は、はい。本当にありがとうございます。」


オスカーは、アレックス近衛騎士団長のことを尊敬していると聞いていたが、その気持ちがよく分かった一件だった。


一介のメイドに対しても、心配し声を掛けてくれる。


何て優しく頼もしい団長なのだろう。


アレックスは今でこそ侯爵位の身分を持ち、近衛騎士団長の役職を得ているが、もとは第一騎士団に所属する子爵家の三男だった。


入団当初から剣の腕は誰にも負けず、年を追うごとに人望も上がり、かなり早い段階で第一騎士団の副団長になった。


その後、前国王ランドルフが崩御すると、彼は貴族たちの汚職や横領を暴き出し、特に政務に従事する貴族たちの不正を白日の下にさらして、国政にはびこる膿を絞り出したのだ。


おかげで新国王となったグレゴリーの周りには、真面目で優秀な貴族が残り、刷新して正しい政をすることができるようになった。


グレゴリーはアレックスの働きを高く評価し、彼に侯爵位と領地、そして近衛騎士団長の役職を授与したのだった。




翌朝、使用人たちと一緒に、オフィーリアが荷物を馬車に運んでいる最中に、声を掛けられた。


「おい、お前、俺の馬車に一緒に乗れ。」


声の主は、ニタリと笑うヴァレリアンだった。

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