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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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20話

オフィーリアが、オスカーを守ると宣言したその言葉には、大いなる決意がみなぎっていた。


オスカーは、これはもう反対しても無駄だろうと確信する。


「オフィーリア、お前の言うことはよくわかった。お前が俺を守りたいと思う気持ちは嬉しい。だが、くれぐれも危険なことはしないでくれ。それだけが俺の願いだ。」


「わかってくれてありがとうございます。私、頑張りますね。」


いや、頑張らなくていいから・・・。


「はあ。」とオスカーはため息をついた。




王城に向かいながら、オスカーはオフィーリアの言葉を思い出す。


ソードマスターで、魔王の再臨と言われている俺を守るって?


ふふふっ、やっぱりオフィーリアだな。


優しすぎる。


それにしても、一生懸命に俺を守るって宣言した時の顔、とっても可愛らしかった。


オスカーは、忘れもしない八年前の、初めて二人が出会ったシーンを思い浮かべる。


見ず知らずの俺に、花束をくれたオフィーリア。


俺はオフィーリアにしがみついて、大泣きに泣いた。


あのときも、オフィーリアは俺の心を守ってくれたんだよな・・・。




この日、王城で働くオスカーはとても機嫌が良かった。


しかし、すれ違う人々はオスカーの顔を見てビクッとする。


今日の侯爵閣下は不気味な笑みを浮かべているが、いったい何があったのだろう?


そんな周りの思いも気にもせず、オスカーはいつものように若い騎士の訓練指導を始めるのだが、騎士たちの緊張は尋常ではない。


不気味な笑みの裏には、いったい何が隠されているのだろう?


オスカーをドキドキしながら見つめている若い騎士たちの額に、たらりと冷や汗が流れ出る。


「今から五人がかりでかかって来い。」


訓練の終盤、オスカーが出した対戦訓練に、騎士たちは声にならない悲鳴を上げる。


初盤、中盤と大変だった訓練の上に、最後の仕上げにオスカーとの対戦訓練とは・・・


結局、誰の木剣もオスカーにかすることなく、こてんぱんに打ちのめされてしまった。


オフィーリアの愛で満たされたオスカーに、敵うものなどいないのである。




夜、オスカーが屋敷に戻ると、テオがイザベラの報告に現れた。


オスカーの部屋で、オフィーリアも一緒に報告を聞くことにする。


「イザベラが幼少期を過ごした孤児院を調べてきましたが、腑に落ちないことが多々ありました。」


「ふむ、それはどのような?」


「まず、当時の院長は四年前に急性アルコール中毒で死亡していました。」


「四年前とは、イザベラがウッド伯爵に引き取られた年だな。」


「はい。現在の院長はイザベラのことは知りませんでしたし、おかしなことに、誰に引き取られたのか記録が残っていませんでした。それから、当時の職員も一人も残っていません。四年前にもっと稼ぎの良い職場を見つけたらしく、皆自主退職したそうです。」


「まあ、そういうこともあるだろうが、全員が同時期とは怪しいな。」


「それで当時を知る人間を探すのに手間取り、報告が遅くなってしまいました。」


テオは四年前に自主退職した職員を探し出し、話しを聞こうとしたが、皆が全員覚えてないの一点張りで、詳しいことを聞くことはできなかった。


しかも、テオには関わりたくない、という態度で、ピシャンとドアを閉められてしまった。


ただ一人だけ、院長のようにはなりたくないと、口を滑らせた者がいた。


どういう意味かと尋ねると、青い顔をしてこれ以上は何も言えないと追い返されて、それ以上の追及はできなかった。


職員がダメなら、当時一緒に孤児院にいた子どもに聞こうと探すと、市場で働く女を見つけた。


イザベラよりも二つ年下の十六歳で、四年前に八百屋の店主に市場の働き手として引き取られたと言う。


「イザベラはあの孤児院を出て、本当に良かったと思うわ。だって、院長のこと、すごく嫌ってたもの。」


「イザベラは何も話してくれなかったから、詳しいことはわからないけど・・・、院長の目がね、イザベラを見る目が、すっごくイヤらしかったことを覚えてる。」


「イザベラを引きとった人? どこかの商人って言ってた。貴族じゃないかって? それは聞いてないわ。」


「院長のこと? 大酒飲みで酒臭いし、すぐに怒るし・・・、はっきり言って嫌いだったわね。そうそう、院長って、酒の飲みすぎで死んだんだって? あれだけ酒が好きだったのにね。まあ、私には関係ないけど。」


「ところでイザベラ、今も元気にしてるのかしら。」


女の話から考えて、イザベラを引き取ったのはウッド伯爵ではなく商人だ。


商人が引き取った後に、ウッド伯爵家の娘として引き取られたことになる。


「ウッド伯爵について、調べてみなくてはいけないな。」


テオの話を聞いていたオスカーが呟いた。


それに合わせてオフィーリアもテオも頷く。


「それからもう一つ、気になることがある。普段から大酒飲みの男が、いきなり酒の飲み過ぎで死ぬのだろうか。口封じのために殺されたのではないかという気がしてならない。」


「実は私も同じことを考えていました。」


オスカーの言葉に、テオも同意する。


「たぶんだが、その商人が怪しいと思う。そしてその商人がジオルグである可能性が高い。商人がどこの誰だかわかると良いのだが・・・。」




その夜、オフィーリアはオスカーの胸に抱かれたまま、自分の思いを口にする。


「オスカー様、ウッド伯爵の調査、私も協力したいです。」


「はあ、オフィーリアならそう言うと思った。」


オスカーはため息を漏らしながら返事をする。


「だが、危険なことはしないで欲しい。それに、ウッド伯爵邸にはイザベラもいるだろう。お前が傷つくのは見たくない。」


「危険なことはしませんわ。それから、イザベラのことで、私が傷つくことはもうありません。今では感謝しているくらいです。イザベラがいたから婚約破棄ができて、優しいオスカー様の妻になれたのですから。」


「ああ、オフィーリア、嬉しいことを言ってくれるね。愛しているよ。」


オスカーはオフィーリアをギュッと抱きしめてキスをした。




翌朝、オスカーが王城に出かけた後、オフィーリアは庭に出てテオを呼んだ。


「テオ、いるなら出てきてください。」


テオがシュッと木から降りて、オフィーリアの前に跪く。


「オフィーリア様、ご用は何でしょうか?」


見上げると、オフィーリアは地味な平民服に、フードが付いた深緑色のローブをまとっている。


「あのね、私をウッド伯爵のお屋敷まで連れて行ってほしいの。」


テオはやっぱりこうなるかと、ため息混じりで「わかりました。」と返事をする。


今朝、オスカーが屋敷を出る前に、テオに念押ししてから王城に出かけたのだ。


「オフィーリアが、一人で行動しないように、必ずそばにいてほしい。たぶん、ウッド伯爵の屋敷に行きたがると思う。彼女は何をするかわからないところがあるからな。よろしく頼む。」


実はテオも、オスカーに言われる前から嫌な予感はしていた。


昨夜、テオの報告をオフィーリアは黙って聞いていたが、テオを見る目は真剣で、瞳は爛々と輝いていた。


役に立ちたいという思いが、言葉にしなくても十分に伝わる輝きだった。


「では行きましょうか。」


二人はマリーに出かけることを告げると、馬車ではなく歩いて出かけた。


地味な平民服にローブをまとうオフィーリアは、誰が見ても侯爵夫人だとは思わないし、フードを深く被っているので、すれ違っても誰もオフィーリアだとはわからない。


「ここです。」


小一時間ほど歩くと、大きな門構えの立派な屋敷が現れた。


二人は向かいの家の物陰に隠れて屋敷を眺める。


鉄格子でできた門は閉まっており、門番が目を光らせているので簡単に入れそうにない。


「ふーん、誰でもウエルカムってわけではないみたいですね。テオなら、こんな場合、どうやって入るのですか。」


「そうですね。私でしたら夜になるのを待って、壁を乗り越えて入ります。」


「テオならそれも可能でしょうけど・・・」


「ところで、さっきから大事そうに持っているカバンの中には、何が入っているのですか?」


オフィーリアは大きな布カバンを下げていて、中には掌ほどの大きさの箱が入っている。


「ふふ、これは私の秘密兵器よ。」


「秘密兵器とは?」


「でも、使うところを想像するだけでドキドキするし、すごく怖いの。それから私がこれを使うときは、カバンはテオが持っていてね。必要になるから。」


二人がこそこそと話をしていると、一台の馬車が門の前に止まり、御者が門番に話しかけている。


馬車の窓からちらりと中にいる人が見えたが、ロマンスグレーの髪をきちんとまとめた年配の男性だ。


「キャスレル商会の者です。ウッド伯爵には連絡済みです。」


「はい。聞いております。どうぞ中にお入り下さい。」


門番が重い門を開け馬車を中に入れると、また門を閉めた。


「キャスレル商会? もしかしてイザベラを引き取った商人と関係があるかも。でも、あの商人、ジオルグではなかったわ。ジオルグの髪は茶色なの。」


オフィーリアは、テオにそう言うと「ここは私の出番だわ。」とカバンから箱を取り出し、テオに空になったカバンを預けた。


「オフィーリア様、秘密兵器を取り出して、いったい何を?」


「テオ、後はよろしくね。」


オフィーリアは、回りに誰もいないことを確認すると、箱を開け、自分の頭の天辺から水を被せるかのように中身をぶちまけた。


それは、大きな蜘蛛だった。


しかも1匹ではない。


数匹の蜘蛛が、バラバラと頭からオフィーリアの顔をはって下に落ちた。


オフィーリアは、声にならない悲鳴を上げ、一瞬で子犬に変身する。


そして、今まで着ていた服を飛び越えて、テオが止める間もなく、走り去った。

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