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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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17話

女は、今ならジオルグの命令を何でも聞きそうだ。


裸になれと言えばきっと裸になるだろう。


そう思ったが、ジオルグはその命令はしなかった。


いつ効果が切れて正気に戻るのかわからない。


へたな命令をして、訴えられでもしたら大変だ。


しばらくじっと待っていると、五分ほどで女は正気に戻った。


「あれ? 私、もう拾い終わったよね。」


四つん這いのままそう言うと、自分の体勢を不思議そうに考えている。


「お前、覚えてないのか?」


「何を?」


「いや、その・・・、犬とか猫とか。」


「何それ? 何変なこと言ってるのよ。」


石の効果が続いている間のことは、何も覚えていないようだった。




それからジオルグは、他の人を使って実験を繰り返した。


石の効果は絶大だ。


石の粉を飲んだ後に、最初に命令した人間の言葉なら、どんなことであろうと命令に従う。


しかし、時間は五分ほど。


もっと長い時間従わせようと思ったら、それに見合う量の石の粉を飲ませなければならないことも分かった。


だが、実験を繰り返すうちに、石の欠片は減っていき、とうとう全て使いきってしまった。


あの青い石が、本当にホワイト伯爵の鉱山に埋もれているのか、はたまた空から落ちてきたものなのか、ジオルグにはわからない。


だから、何としてでも、ホワイト伯爵の鉱山を手に入れて調べる必要があった。




青い石の効果はわかったが、既に手元から消え、手に入れることができない石のことなど、誰にでも話せるものではない。


だが、同じ境遇の錬金術師四人には、ちらりと話したことはある。


人の心を操れる薬を、作ることができそうだと。


だが境遇は同じだと言っても、四人とは、目指すものも研究分野も違っていた。


四人は共同で人間兵器を作る薬の研究をしていた。


ジオルグはどちらかと言うと、その研究には懐疑的だ。


たとえ成功したとしても、裏切られたら、元も子もない。


裏切った相手に、塩を送るようなものだ。


だが、彼らは、だからこそジオルグの研究が必要だと言う。


ジオルグの研究は不確定で、できるのかどうかもわからない。


そんな研究を当てにするのもどうかと思うが、ジオルグが彼らの研究に反対することはなく、必要とされれば知識と技術で協力した。


しかし、彼らと会ったのは、婚約破棄された貴族の娘を実験台にした日が最後となった。


あの日、彼らは、自分たちが開発した薬の実験に夢中で、周りの気配に注意を向けることを怠っていた。


攫ってきた娘に、無理やり人間兵器の薬を飲ませる瞬間も、意識は娘に集中し、誰が入って来ても気が付かないほど夢中になっていた。


だがジオルグは、急に嫌な気配を感じ、裏口から逃げた。


しばらく経って実験室に戻ると、四人は足を切られ服毒死した後だった。


実験台にされた娘は消えていて、何故かドレスだけが抜け殻のように残されている。


実験が成功したのか失敗したのか、死体となって運ばれたのか、生きたまま運ばれたのか、ジオルグにはわからない。


だが、はっきりしていることは一つ。


実験の証拠を残さないために、この家を死体もろとも焼くことだ。


ジオルグは全てを灰にするべく、実験室に火をつけた。




馬車に揺られながら、ジオルグはあの日のことを思い出し、そして考える。


あの不憫な娘は、もし生きていたら、今頃どうしているのだろう。


彼らがあの娘を実験台にすると言い出したとき、何も言わずに成り行きを見ていた。


あの娘が実験台に選ばれた理由は、婚約破棄されたことだった。


それに一役買っていたことを思うと、どうも責任を感じ、後味が悪い。


ジオルグは、実験室に火をつけた後も、時々あの哀れな娘を思い出していた。


「ちょっと、ジオルグ、何を考えているの?」


黙ったままじっと考え事をしているジオルグに、イザベラはイラ立ったように声を掛ける。


「別に、何も・・・。」


ジオルグは、隣で丸くなっている子犬の頭を撫でる。


そう言えば、あの娘の瞳の色も、こいつと同じ青だった。


もしも、もう一度、娘に会えたなら・・・。


また黙り込んだジオルグに、イザベラは、またもやイラつく。


「ふん、全く心の読めない男ね。いつも誤魔化してばかりだわ。でもさ、あの約束はホントだよね。上手くできたら私が側室になれるっていう・・・。」


イザベラの言葉で場の空気が変わり、ジオルグはオフィーリアから手を離してイザベラに視線を移した。


「ああ、本当だ。だが数多い側室の一人だぞ。」


「それくらいわかってるわよ。でも、いいの。私みたいなのが側室になって王城に住めるようになるなんて 夢みたいだもん。」


イザベラは、夢見心地で未来を語る。


ちょ、ちよっと待って、イザベラはブランの婚約者じゃないの? 


側室って、・・・どういうこと?


黙って二人の会話を聞いていたオフィーリアは、耳を疑った。


そしてますます聞き逃さないように聞き耳を立てる。


「ジオルグには感謝してるわ。誰が父親かもわからない娼婦の子を、あの孤児院から救い出してくれて・・・。」


ええっ、ウッド伯爵の子どもじゃないの?


「子どもの頃は娼婦の子だってバカにして、大きくなったら娼婦の子だからって・・・くそっ、嫌なことを思い出しちまった。全く、四年も前のことなのに・・・。ともかく、アイツから逃げ出せたことは、一番の救いだった。だから、あんたには感謝してる。」


オフィーリアの頭の中は、混乱の渦が回っていた。


新しい情報についていけない。


イザベラはウッド伯爵の子どもではなくて、娼婦の子だけどウッド伯爵の養女になった?いったい何のために? しかも、狙いは側室?


二人は隣で丸くなっている子犬が、驚きでドキドキしながら聞き耳を立てているなんて、夢にも思わなかっただろう。


その後は、二人の会話はなく、馬車は宿場町の宿屋の前で止まった。


「今日はここに泊まるぞ。」


「鉱山って結構遠いんだね。」


「お前が見たいって言うから連れて行ってやるんだ。文句を言うな。」


「はいはい。わかりましたよ。」


「まあ、今後のことを誰にも見られない場所で話し合う必要もあったからな。」


ジオルグは懐にオフィーリアを入れて馬車を降り、イザベラと一緒に宿屋に入った。




宿屋の主人は、初めて見る男女の客をじろりと見て、宿帳を差し出した。


二人とも、ローブで身を隠しフードを深く被っているのを見て、どうやら怪しく思っているようだ。


「ここに名前を書いてください。」


宿屋の主人は、笑顔も見せずに事務的に言う。


するとイザベラがローブを脱ぎ、甘えた声でジオルグに話しかけた。


「ああ、疲れたぁ。お父さん、お腹が空いたわ。夕飯まだあ?」


ローブを脱いで現れた二つ括りのお下げ髪と、鼻筋に書かれたそばかすに、質素なドレス。


どう見ても、ごく普通の町娘だ。


同じくジオルグもローブを脱ぐと、ごく普通の父親にしか見えない。


「ああ、ケイト、宿の主人に食事の注文をするから待っておくれ。」


「うん。わかった。」


オフィーリアは、二人の演技に驚いた。


なんとも自然な親子を演じている。


宿屋の主人も、初めは怪しい愛人関係と思っていたようであったが、二人の演技にすっかり騙されたようだ。


「お嬢さん、ここの料理は美味しいからね。後でゆっくり食べてくださいね。」


話す口調も、心なしか柔らかくなっている。


ところが、ジオルグの懐に入れていたオフィーリアが、もぞもぞと動いて顔を出すと、宿屋の主人の態度が変わった。


「お客さん、この宿はペットと同室はお断りしています。ペットは外に繋いでくださいよ。それから、外で一晩過ごしている間に、何かあっても責任は持てませんから。そこのところもご了承ください。」


その言葉にオフィーリアはドキッとする。


外に繋がれて、もしも眠ってしまったら・・・。


目が覚めたときのことを想像するだけで、ブルブルと震えてしまう。


裸の女が、ひもで首を絞められて死んでいる・・・。


つながれる前に急いで逃げなくちゃ。


幸い、宿屋の玄関は開いている。


「ああ、わかったよ。子犬は外でつなぐとしよう。」


ジオルグが懐からオフィーリアを出したその瞬間に、手から飛び出し一目散に出口目指して駆けだした。


ジオルグは追いかけたが、すぐに追うのを止めた。


「あいつも繋がれるのが嫌だったんだろう。」


「何言ってるのよ。犬に人間の言葉がわかるわけないでしょ。お父さん。」




オフィーリアは、来た道をひたすら走った。


きっとオスカー様が、自分の乗った馬車を追いかけてくれている。


この道をまっすぐに戻ればきっと出会える。


子犬の足では、どんなに早く走っても、その距離はたかが知れているが、オフィーリアはオスカーに会いたい一心で、ひたすら走った。


ああ、オスカー様に早く会いたい。


少しでも近づきたい。


ところが、オフィーリアが走っているその後ろを、何かが追いかけてくる足音が聞こえた。


足音はどんどん近づいて来る。


後ろを振り返る余裕なんてない。


徐々に距離を縮めてくる足音が、すごく危険な足音に聞こえる。


怖い、逃げなくちゃ。追いつかれたらダメ!


本能がオフィーリアに警鐘を鳴らす。


だが、後ろから迫りくる何かは、オフィーリアに追いつき、飛び掛かかって背中をグイッと押さえつけた。


オフィーリアは背中を押さえつけられ、それ以上動けない。


ガルルガルルと獣の声が頭上で聞こえる。


野犬? それとも狼? 


逃げる私を狩猟本能でゲームのように追いかけたの?


それとも食べるつもり?


オフィーリアは逃げようともがいたが、押さえつけられた獣の力はとても強くて身動きができず、逃げることは無理だった。


ああ、もう逃げられない、オスカー様、助けて!


ガブリ!


背中に衝撃が走った。


獣に背中をくわえられて、体が宙に浮く。


痛い、痛い、痛い!


オスカー様、ごめんなさい。もうお会いできないかもしれません・・・。


オフィーリアが意識を失う直前、「オフィーリア!」と叫ぶオスカーの声が聞こえたような気がした・・・。

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