表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/98

16話

オスカーが振り返ると、腕を掴んだのはテオだった。


「隊長、今、出てはいけません。ここで見張っていたことがばれてしまいます。」


「しかし、オフィーリアが・・・」


「オフィーリア様は、相手は犬好きの優しい人だったと言っていたではありませんか。オフィーリア様に危害を加えることはないでしょう。」


それはそうなのだが、オスカーはオフィーリアに万が一のことがあったら・・・と心配が拭えない。


「きっと顔を確かめに行ったのだと思いますよ。確かめたら戻ってくるでしょうから、私たちはオフィーリア様を信じて待ちましょう。」


「あ、ああ、・・・そう・・・だな・・・。」


テオの言う通りだ。


オスカーは不安な心を抑えて、家の陰に隠れてオフィーリアを見守る。


オフィーリアは広い道路を横切って、ローブをまとった男の前まで行くと、お座りをして顔を覗き込んだ。


のんきに尻尾を振りながらお座りをしているオフィーリアを、オスカーはハラハラしながら遠くから見守っている。


「ああ、オフィーリア、どうか無事で・・・ああ、男が抱き上げた。ええっ、抱きしめて・・・頭をなでなでしている。くそっ、なんてヤツだ。俺のオフィーリアを!」


「隊長、落ち着いてください。バレたらどうするんですか。」


オスカーとテオは、物陰に隠れてひそひそと言葉を交わす。


「おい、懐に入れたぞ。あのまま、さらって行く気だ。ああ、オフィーリア!」


「隊長、彼は本当に犬が好きなのでしょう。危害を加えるとは思えません。しばらく待っていれば、きっとオフィーリア様は戻ってきますよ。」


オフィーリアは、広い道路を横切って男の近くまで来たが、男は手袋をしていて、手の甲の火傷の痕を見ることができなかった。


次は男の顔を見ようと、もう少し近づいたが、フードを深く被っているのでよく見えない。


なんとかこちらに振り向かせたくて、男の前にお座りをして尻尾を振って見せると、男はオフィーリアに気付き、下から男を見上げているオフィーリアと視線が合った。


フードからのぞく茶色い髪、嬉しそうに微笑む濃い茶色の瞳、やはり、あの男だ。


オフィーリアは、確かめたらすぐに戻るつもりだった。


そう、本当にすぐに戻るつもりだったのだが・・・、運悪く抱き上げられてしまう。


「おお、お前はあのときの子犬じゃないか。また俺に会いに来てくれたのかい?」


男は目を細めて、嬉しそうに話しかける。


「クン(違います)クーン(降ろしてください)」


オフィーリアは足をバタバタと動かして、降ろして欲しいと意思表示をする。


「おや、俺に会えたのがそんなに嬉しいのか。可愛いなあ。」


残念ながら、オフィーリアの思いは男には通じない。


男はオフィーリアをぎゅっと抱きしめて言う。


「お腹が空いているだろう? 今日はちゃんと食い物をやるよ。」


男はオフィーリアの頭を優しくなで、懐に入れると歩き出す。


出ようともがいても、頭を押さえられて出ることができない。


このままだと、オフィーリアは男の部屋まで連れて行かれてしまう。


隙を見て逃げようと思ったが、前回と違って、男はドアの鍵を開けるときもオフィーリアを懐に入れたままだ。


そして部屋の中に入るとバタンとドアを閉めたので、オフィーリアは逃げることができなくなってしまった。


困ったわ。隙を見て逃げ出さないと・・・。


男がドアを開けたらその時がチャンスね。


しかし、男がドアを開けることはなく、皿にちぎったパンとミルクを入れてオフィーリアに差し出す。


そのときオフィーリアは、はっきりと見た。


手袋を外した右手の甲にある、大きな火傷の痕を。


「お腹が空いているだろう。さあお食べ。」


やっぱりこの人には、火傷の痕があったわ。


でも、前も思ったけれど、この人はとても優しい。悪い人には見えない・・・。


別にお腹が空いているわけではなかったが、差し出されたものを無駄にするのは申し訳なく思い、オフィーリアはパンとミルクを食べ始める。


コンコンコン 


ドアをノックする音が聞こえた。


あっ、ドアが開いたら、その隙に逃げなくっちゃ。


オフィーリアは食べることを止め、ドアに集中する。


「誰だ?」


男の口調で、誰かわからない相手に、警戒していることがわかる。


「私よ。」


ノックの主は女の声だ。


オフィーリアは、この声に聞き覚えがあると思った。


いったい誰だったかと、女の声を思い出そうと考えを巡らせていると、男がガチャリとドアを開けた。


ドアの向こうにはローブをまとった女が立っていたが、部屋に入り、フードを外したその姿を見て、オフィーリアはあまりの驚愕に逃げることを忘れてしまう。


「キャ、キャン!(イ、イザベラ!)」


長いブロンドの髪を二つ括りの三つ編みお下げにし、きれいな鼻筋には、わざとそばかすを描いているが、アメジストのような美しい瞳はごまかせない。


女はオフィーリアの婚約者を奪ったイザベラ・ウッド伯爵令嬢だったのだ。


「ジオルグ、会いたかったー!」


イザベラは、ドアを閉めると、ジオルグに抱きついた。


え、え、ええっ? イザベラ、いったい何をしているの?


イザベラはブランの婚約者じゃないの? 


もしかして浮気しているの? 


オフィーリアは、逃げるどころじゃなくなった。


イザベラは、オフィーリアに毒を盛った濡れ衣を着せてまで、ブランと婚約をしたのだ。


それなのに、他の男に抱きついている。


そんなことが許されるの?


オフィーリアは、二人の関係を知りたくて、逃げることも忘れてそのまま観察を続けた。


「ねえ、私を抱いてくれないの?」


イザベラが、甘えた声でジオルグにねだる。


「イザベラ、俺を誘惑する気か? だが、悪いな。俺はあんなお坊ちゃんじゃないからな。」


ジオルグは、抱きついている手を無理やり剥がしてイザベラをたしなめる。


「チッ、普通の男は、こんな美女に抱きつかれたら、その気になるもんだけどね。」


それまで甘えた声と顔で話していたイザベラが、急に態度を変えた。


「悪いな。普通じゃなくて。それより、誰にもお前の正体がばれてないだろうな。」


「当り前よ。化粧を変えて服も質素にして、顔まで隠してきたんだからね。ブランとすれ違ったって、きっとわからないと思うわ。」


「それならいい。」


イザベラは子犬の存在に気づき、オフィーリアに視線を移した。


「ちょっとジオルグ、あんた、犬飼ってるの?」


「いや、飼っているわけじゃないが、そこで拾ったんだよ。可愛いだろ?」


「はあ? 私にはなびかないくせに、犬には可愛いって言うのね。まったく・・・」


イザベラの不満をよそに、ジオルグは犬の話を続ける。


「犬はお前みたいに文句を言わないし、可愛がれば従順になり裏切らない。人間なんかよりもよっぽどマシだ。」


「あんたの人間嫌いも相当なもんね。」


「ああ、何とでも言え。おっと、もう、時間だ。そろそろ行くか。」


ジオルグはオフィーリアを抱き上げて懐に入れた。


ええっ? そっ、そんなっ!


不意を突かれて抱き上げられ、オフィーリアは驚く。


二人の会話を聞くのに夢中で、逃げる隙を失ってしまった。


「ちょっと、その犬も連れて行く気?」


「こんなところで一人にするのは可哀そうだろ。どうやら捨て犬みたいだし。」


「クーンクーン(ちょっと待って。私一緒に行くなんて言ってない。)」


オフィーリアはジオルグの懐の中で暴れて訴える。


「ほら、こいつも喜んでいる。わざわざ会いに来てくれたんだ。きっと俺と一緒にいたいんだろ。」


「まったく・・・」


イザベラは呆れて言ったが、ジオルグはまったく気にも留めずに部屋を出た。


ジオルグとイザベラは、アパートメントから少し離れた場所に、あらかじめ用意されていた馬車に乗り込んだ。


御者とジオルグは知り合いなのか、目を合わせただけで言葉は何も交わさなかったが、二人が乗ると馬車は静かに動き出す。


ジオルグはオフィーリアを懐から出すと、自分の隣に置いて、頭をなでながら言う。


「よしよし、いい子だ。じっとおとなしくしているんだぞ。」


こうなったら、馬車が止まったところで逃げるしかない。


それまで、二人の会話を聞いておこう。


そう思うオフィーリアであった。




しばらくの沈黙の後、ジオルグが口火を切った。


「ところで、どうして売らないのかわかったのか?」


「うん。ブランの親父が、新しい事業を始めるんだって。今までは、鉱山からとれる鉄鉱石を売って金儲けしてたけど、それだけじゃなくて、加工から販売まで一手に手掛けるらしいわ。上手くいけば大儲けができるってさ。だから、鉱山を売るなんて考えられないわけよ。」


「なるほどね。上手くいけば大儲けだろうが、失敗すれば一家が路頭に迷うってヤツだな。」


「でもさ、どうしてあんたはブランの鉱山に固執してるのよ。他の人の鉱山だっていいじゃない。」


「ああ、あの鉱山の鉄鉱石は良質だからな。」


「ホントかな? 絶対怪しい。」


イザベラはじーっとジオルグを見たが、ジオルグの表情からは真意がわからない。


ジオルグはイザベラの感の良さに一瞬ドキっとしたが、上手く平静を保っていた。


ジオルグは、誰にも言ってないが、ブランの父親であるホワイト伯爵が所有する鉱山に、ある期待を寄せているのだ。




ジオルグは五年前に、良質な鉄鉱石がとれると評判の鉱山を調査しに行ったことがある。


錬金術師のジオルグは、実験材料となるあらゆる鉱石を集めていたからだ。


ある日ホワイト伯爵の鉱山を調べていたら、偶然、親指の先ほどの青い石を拾った。


初めはサファイヤの原石かと思ったが、どうも違う。


持って帰って調べてみたが名前がわからず、どうやら未知の鉱石のようだ。


だが、この石の効果を偶然に知ることとなる。


ジオルグがその青い石を片手で持ち、虫眼鏡で観察している最中に、この家の持ち主である女が部屋に入って来た。


お互いに恋愛感情はなく、身体の関係だけの女で、ジオルグは二週間の約束で一部屋借りていた。


ところが、部屋に入って来た女が、後ろから目隠しなどとふざけた真似をしたために、ジオルグは青い石を落としてしまう。


そして、運が悪いことに、女がその石を踏んでしまったのだ。


石は思いのほかもろく、砕けて粉々になってしまった。


「あ、ごめんなさい。」


女は詫びながら粉々になった石を拾い集めたのだが、指で摘まんで拾っていたので、ガラスのように尖った欠片が指先に刺さり、血を流してしまう。


女は指を舐めて血を止めてから、拾い集めた欠片をジオルグに渡した。


「まったく、お前よりも犬の方が、まだましだ。」


ジオルグが呆れて女にそう言うと、女は四つん這いになり、犬のように吠え出した。


ワンワン、ワンワン


「おい、何してるんだ。犬みたいに鳴くなよ。」


女は鳴くのを止めたが、四つん這いのままだ。


ジオルグが知っている女は、ふざけて目隠しはしても、犬の真似をするような女ではない。


いったいなぜ? 女が変わったのは指を舐めてからだ。


試しに違う命令をしてみた。


「猫になれ。」


女はまるで猫のように、握った方手で顔を拭き、ニャーと鳴く。


ジオルグは目の前にある石の欠片と女の顔を、まじまじと見比べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ