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もふもふの人間兵器?にされてしまった悪役令嬢ですが、冷酷非道侯爵様に溺愛されています  作者: 矢間カオル


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12話

「オ、オフィーリア様?」


一瞬でテオの目の前から消えてしまったオフィーリアであるが、主を失い崩れたドレスの空洞を見下ろすと、もふもふの白い毛をした子犬がいた。


オフィーリアと同じ青い目をした可愛い子犬だ。


少し前からオスカーが、白い子犬を大事にしていることは知っていた。


死んだ男たちを運ぶために一緒に来てほしいと頼まれたときに、ルイス家に連れてきた子犬だ。


男たちの家に着いた頃には、家は既に燃えていて、結局死体を運ぶことも、何か手掛かりを見つけることもできなかったが、思えば、あのときから、オスカーの様子がおかしかった。


テオは子犬を抱き上げた。


「あなたは、オフィーリア様なのですか?」


「クーン(そうです。)」


返事をする子犬は、シュンと意気消沈したように答える。


信じられないことだが、テオは現実を受け入れなければならないと思う。


「私は、あなたを隊長の元に連れて行かなければなりません。もし、青い目の白い子犬を見つけたら、すぐに保護して連れてきてほしいと頼まれているのです。」


よっぽどあの子犬のことが心配なのだなとは思ったが、まさか、子犬がオフィーリア自身だとは思いもしなかった。


「それでは失礼します。」


テオはオフィーリアを懐に入れると、王城へと向かう。


その前に、マリーにはオフィーリアと一緒に町に出るから心配しないようにと伝えることも忘れない。


王城に連れて行かれる間、テオの懐の中でオフィーリアは、ものすごく落ち込んでいた。


よりにもよって、オスカー様がこんなに忙しいときに、私のことで煩わせてしまうなんて・・・。


オフィーリアは蜘蛛を恨んだ。




オフィーリアにとって、蜘蛛は特別なトラウマを持つ虫だ。


まだ母親が生きていたころ、マリーと三人でピクニックに行ったことがある。


草原にシートを敷き、そこに座ってサンドイッチを食べていたのだが、一匹の白ウサギが、ピョンピョンと跳ねて目の前を通り過ぎた。


幼いオフィーリアは嬉しくなって追いかけた。


ウサギは林の中に入っていったが、オフィーリアは地面を移動するウサギしか見ていないので、目の前の大きな蜘蛛の巣に気づかない。


そのまま勢いよく蜘蛛の巣に突っ込んでしまった。


顔面に大きな蜘蛛が張り付き、髪にもドレスにも蜘蛛の巣がべったりとへばりついたそのときに、初めて自分が蜘蛛の巣にぶつかったことを知った。


だが、時は既に遅く、目の前は蜘蛛で遮られ真っ暗になり、オフィーリアは林の中で激しく転んでしまったのだ。


追いかけてきたマリーと母親にすぐに助け起こされたが、顔面に張り付いた蜘蛛の糸の気持ち悪さと、転んだときにできた傷の痛さで泣きに泣いて、一日中泣き続けたのである。


そのときの恐怖と気持ち悪さが身体に染み込み、オフィーリアは、今でも蜘蛛を見ると恐怖に震える。


テオと話している最中に顔面にくっついた蜘蛛、それはオフィーリアを子犬に変えるのに十分な拒否反応をもたらすものだった。




王宮でのオスカーは、会議と護衛の仕事でほとんど休む暇がない。


それ以外の時間は町に捜索に出かけている。


自分の時間を持つことができず、当然、新婚であるのにオフィーリアと甘い時間を過ごすこともできない。


今も忙しなく、セオドアがいる執務室に向かって廊下を歩いていた。


ピーチュンチュン、ピーチュンチュン


木の上から鳥の鳴き声が聞こえる。


オスカーは耳を澄ましてその鳴き声を聞き、微かに頷くと、外に出て鳴き声がする木の下まで歩いた。


周りを見回し、誰もいないことを確認すると、木に向かって囁く。


「用は何だ?」


「直接お話したいことがございます。」


「降りてこい。」


テオがオスカーの前に飛び降り、跪く。


「オフィーリア様を届けに参りました。」


テオが懐から大事そうに子犬を取り出すと、普段、沈着冷静なオスカーが、驚きを隠さずに、しかし小声でその名前を口にする。


「オ、オフィーリア!」


オスカーは慌ててテオから奪い取るようにオフィーリアを受け取ると、胸元で抱きしめた。


「クーン(ごめんなさい。)」


オフィーリアの青い目が、申し訳なさそうにオスカーを見つめる。


「これは、いったいどういう・・・」


「オフィーリア様が蜘蛛を見た瞬間、子犬の姿になってしまったのです。以前に隊長から青い目の子犬を見つけたら、すぐに保護して連れてくるようにと言われていたので、お忙しいとは思いましたが、一大事と思い、こちらに参りました。」


「そうか・・・。テオ、ありがとう。オフィーリアの秘密がばれてしまったが、くれぐれも内密にしてほしい。」


「もちろんです。」


「俺は至急、屋敷に戻ることにする。詳しいことは屋敷で話そう。」


オスカーはオフィーリアを懐に隠し、セオドアのもとに向かった。


「殿下、誠に申し訳ございませんが、屋敷に急用ができました。すぐに戻ってくるので、しばし外出の許可をいただけませんか。」


「そうか、急用か。まったく休みなく働いているのだから、少しくらいゆっくりして来ても良いのだぞ。」


「いえ、そういうわけにはまいりません。すぐに戻ります。」


たぶんオフィーリアに関することだろうと予想はついたが、セオドアは彼女の名前を出さずに外出の許可を出した。


オスカーがオフィーリアと結婚したことは、セオドア以外まだ誰も知らないことなので、迂闊にオフィーリアの名前を出すわけにはいかないのである。


「ところで、何か懐に隠しているようだが、いったい何が入っているんだい?」


「えっ、これは・・・、腹が空いたので、パンでも食べながら帰ろうと思いまして・・・。」


「ハハ、怪しいな。だが、深く聞かないでおこう。」


オスカーはセオドアから許しをもらうと、すぐに屋敷に戻った。


「オフィーリア、お前を元に戻すにはマリーの協力が必要だ。だから、お前の秘密をマリーに話すが良いか?」


「キャン」


オスカーは広間の掃除をしていたマリーに声を掛けた。


「マリー、話しがある。俺の部屋に来てくれ。」


忙しいはずのオスカーが急に戻って来たかと思うと、いきなり呼び出されたので、マリーは不思議に思いながらオスカーの部屋に入った。


部屋の中にはオスカーとテオ、そして可愛らしい白い子犬がいる。


「マリー、信じられないだろうが、この子犬はオフィーリアだ。」


「は、はい? オ、オフィーリア様?・・・ですか?」


いきなり、予想もしていなかったオスカーの言葉に、ぽかんと開いた口が塞がらない。


「そうだ。オフィーリアだ。子犬になっても可愛いだろう?」


オスカーはオフィーリアを抱き上げて、頬をくっつけすりすりする。


「ああ、なんて可愛いんだ・・・本当に可愛い・・・。」


オスカーは、オフィーリアとのふれあいに、うっとりしながら、可愛いを連発する。


「クーンクーン(オスカー様、恥ずかしいです)」


されるがままになっているオフィーリアは、穴があったら入りたいほど恥ずかしいと思っているのだが、その思いは、ここにいる誰にも伝わらない。


「あの、隊長、話の続きを。」


「ああ、そうだった。」


テオの言葉にオスカーは我に返る。


「子犬の姿のときは、人間の言葉を話せないので、返事を決めている。イエスだったら一回、ノーだったら二回鳴く。そうだな。オフィーリア。」


「キャン」


「俺の名前はテオか?」


「キャンキャン」


「とまあ、こんな感じだ。」


このやり取りに半信半疑なマリーも、オフィーリアに話しかける。


「わ、わかりました。オフィーリア様、私はマリーですか?」


「キャン」


「ああ、本当にオフィーリア様なんですね。ところでどうしてこのようなことに?」


「今は時間がないので、詳しく話せないが、ともかく、大きな拒否反応が起こると子犬になってしまうようだ。今回は蜘蛛だった。」


「ああ、蜘蛛ですか。それならわかります。お嬢様は蜘蛛が大の苦手ですから。」


「それから人間の姿に戻るには眠らなければならない。眠って、目が覚めたときに人間の姿に戻る。これは、テオに任せられないから、マリー、お前に託すよ。私は早く王宮に戻らなければならないから、オフィーリアと一緒にいられないんだ。」


その言葉に、テオが反応する。


「あの、どうして私は任せてもらえないのですか?」


「どうしてだって?」


オスカーがギロリとテオを睨んだ。


「それは・・・、お前が男だからだ。あの姿を他の男に見られると思うと、そいつを殺してしまうかもしれない。」


怖ろしいことを真剣に語るオスカーの言葉と表情に、テオはゾッとして引き下がる。


まだ長生きしたい、ここはマリーに任せよう。


「マ、マリーさん、オフィーリア様のこと、よろしくお願いします。」


オスカーはクローゼットから、母のネグリジェを取り出してベッドに置くと、その中にオフィーリアを入れた。


「マリー、このことは絶対に秘密だ。オフィーリアが眠っている間は、お前は、ずっとここにいて、誰も入ってこないようにしてほしい。そして、オフィーリアが完全に眠ったら、起こしてあげて欲しいんだ。」


「わかりました。」


「それでは頼んだぞ。テオ、行くぞ!」


オスカーは、オフィーリアをマリーに託すと、慌ただしく出て行った。




眠るように言われたオフィーリアであるが、実のところ、まだ眠くない。


ネグリジェの中でお座りをして、何か言いたげに青い瞳をマリーに向ける。


マリーを見つめてクンクンと鳴いた。


「オフィーリア様、本当に可愛らしい。抱っこしても良いですか?」


「キャン」


マリーはオフィーリアを抱きしめた。


「わあ、温かくてふわふわで気持ちがいいです。」


「クーンクン(マリーが喜んでくれて嬉しいわ)」


「それじゃあ、寝ましょうか?」


「キャンキャン」


「もしかして眠たくないのですか?」


「キャン」


「そうですか。それじゃあ、少しお散歩でもして、疲れてから寝ましょうね。」


結局、オフィーリアが人間の姿に戻れたのは夕飯前であった。


その間、セバスチャンは、なかなか町から帰らないオフィーリアのことをとても心配していた。


「テオ様と一緒に、いったいどこに行ったのでしょう。」


「少し遅くなると言ってましたよ。テオ様は旦那様が選んだ部下なのですから、大丈夫ですよ。そのうち戻ってきますよ。」


マリーは真実を告げることはしなかったが、セバスチャンを安心させるための声かけは忘れなかった。




オスカーが王宮に戻ると、セオドアが、オスカーの帰りを、今か今かと待っていた。


「オスカー、新しい情報が入った。やはり犯人は側妃だ。」

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