↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カナンの城  作者: 駄犬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/37

28 魔法使いとドラゴン

 ガーネッツ派の兵士たちの待ち伏せを突破し、クロードたちが先に進んでいくと、ようやく城内部へと入ることができた。

 そこは飛空艇が数十機は格納できそうな巨大な広間になっている。


「何だここは? パーティー会場にしてはでかすぎるんじゃないか?」


 あまりの広さに、クロードがうんざりしている。


「ここは格納庫よ。元はカナンの兵器が搭載されていた場所でもあるわ」


 女の声が何もない空間の中を反響した。


「ラクシュ?」


 その声にユーリが反応する。


「お久しぶり」


 広間の奥の方に見えるのは、先ほど別れたばかりの女商人。クロードは首を傾げ、ユーリは想い人を見るかのような視線を送った。


「何でおまえがここにいるんだ? まさか双子の姉妹でもいたのか?」


 クロードが不思議そうに尋ねた。


「いいえ。こんな美女は世界にひとりしかいないわ」


 妖艶な笑みを浮かべるラクシュ。


「さっき、ガーネッツさんと新しい契約を結んでね。あの方は良い人よ? 何せ世界中の宝石をわたしにくれるっていうじゃない? これに乗らない手はないと思ったのよ」


「最悪だ……」


 クロードは事態を正確に把握した。要はラクシュは買収されたのだ。


「最悪ってこともないわ。ここで諦めてくれればあなたたちは命が助かって、わたしは宝石が手に入る。丸く収まるでしょ?」


「何を言っているんだ、あの女は? 頭がおかしいのか?」


 ラクシュが青龍であることを知らないジークフリートは不快感を隠さなかった。


「そうね。あなたから見ればわたしは何もかもおかしいかもね、皇帝陛下」


 その言葉と共にラクシュの容貌が変化していく。背から羽根が生え、両手両足から鉤爪が伸びてゆき、頭からは2本の角が生えた。それと共に全身が膨張するように巨大化していく。


「青龍だと!? あの女は竜人であったか!」


 竜人。人狼と共に人に化けることができると言われている種族のひとつ。ただ、人狼とは異なり、目撃例は極端に少なく、その実在が疑われていた。


『ここで大人しくして頂けないかしら。死にたくはないでしょう?』


 龍と化しても人の言葉は話せるようだが、その声は人のときとは異なり、威圧感を伴っていた。

 しかも軽く羽ばたいただけで、強烈な風が人間たちを襲う。青龍が悠々と広間の中を飛び始めた。

 この巨大な広間では、ドラゴンが飛ぶスペースは十分に確保されている。そして、飛ばれてしまっては近接戦闘しかできないクロードとムラクモは手が出せない。

 圧倒的な青龍の存在感にジークフリートは身動きが取れず、さすがのクロードも額に冷や汗を流した。

 ところがそんな中、ただひとり嬉しそうにしている者がいた。

 ユーリである。


「ひょっとして、今ならラクシュを倒しても良いのかな?」


 何やら妙なことを言い始めた。


「ラクシュを倒す? おまえ、ラクシュのことが好きじゃなかったのか?」


 隣にいたムラクモが当惑している。ラクシュが砦にやってくるたびに、ユーリは熱っぽい視線を送っていたのだ。そう思われていても不思議ではない。


「好き? いや、単に来るたびにラクシュを見ながら、『ドラゴンって、どうやったら魔法で倒せるだろう?』って考えていただけだけど」


 ユーリがきょとんとした表情を浮かべている。


「おまえ、そんなことを考えながらラクシュを見ていたのか?」


 予想外のユーリの気持ちに、ムラクモとクロードはぎょっとしていた。


『……あなた、そんな風にわたしのことを見ていたの?』


 ラクシュも龍の顔を歪ませて、嫌そうな感情を見事に表現していた。


「だって僕は魔法がすべてだもの。ドラゴンがいるなら魔法で倒したくなるものだろう? それが魔法使いってものだ」


「わりぃ。その気持ち、俺にはわかんねぇや」


 クロードは仲間の気持ちに寄りそう努力を放棄した。


「おまえと同じにするな……」


 同じ魔法使いであるオイゲンもぼやいた。彼は早々に青龍と距離をとって、広間の壁際まで下がっている。


「まあいいけどね。でも君たちは空中の敵に対しては足手まといになるから、とっとと先に行ってくれないかな? 僕がラクシュの相手をしてあげるからさ」


「ここは俺に任せて先に」というより「楽しみを邪魔するな」という感じでユーリは言った。


『そんな簡単に通すと思っているの?』


 青龍が口の中に炎をため込んで一気に吐き出した。ブレスと呼ばれるドラゴン特有の攻撃である。

 

「それは前に見た」


 身体中の文様から光り輝き、ユーリは瞬時に結界を展開。ブレスを防ぎきってみせる。


「ほら、早く行ってよ、邪魔だからさ。あ、オイゲンは残ってよ? 君は僕と一緒に飛行魔法を作ったんだから、ドラゴンとだって戦えるだろ?」


「はっ?」


 一目散に広間から抜け出そうとしていたオイゲンは、顎が抜けそうなくらい口を開いた。


「そうか。では青龍と戦う大役は任せたぞ、オイゲン」


 主であるジークフリートが、オイゲンに居残りを命じて広間から出ていった。クロードとムラクモもその後に続く。


「ユーリ! 貴様っ!」


 オイゲンは怒りで顔を真っ赤した。だが、ユーリは飄々としたものである。


「早く飛行魔法を使わないと燃やされるよ?」


 見ればユーリに攻撃を防がれたラクシュが、腹いせにオイゲンに向けてブレスを放とうとしていた。


「ひぃっ!」


 慌てふためいて覚えたての飛行魔法で飛び立つオイゲン。その直後にさっきまでいた場所を炎が包んだ。

 赤かったオイゲンの顔が一気に青褪める。


「じゃあ適当にラクシュの気を逸らしておいて。僕がやっつけるからさ」


 口に魔石を放り込んでから自らも飛行魔法を行使したユーリは、宙を舞いながら器用に魔法を唱え始めた。いつもは身体の文様を使って無詠唱で魔法を使っているので、呪文の詠唱自体が珍しいことだ。


『深淵の闇よ、我が声に応えよ。冥府へと誘う暗黒の聖霊よ、その黒き手を伸ばせ……』


 不吉な文言を暗い旋律で歌う白き魔法使い。

 広間の床にいくつもの魔法陣が現れ、影がぬるっと波打ち始めた。


『何、この気持ち悪い魔法は?』


 大抵の魔法なら抗しきれる自信のあるラクシュだが、見たこともないユーリの呪文に動揺を隠せない。


『我が敵を貫け』


 ユーリが両手を青龍にかざす。すると、床の魔法陣から槍ほどの大きさの黒い棘が無数に顕現し、ラクシュめがけて矢のように放たれた。


『舐めるなっ!』


 飛来する黒い棘に対してブレスを放つラクシュ。黒い棘は炎に抗しきれずに次々と溶けていくが、いくつかはブレスをかいくぐって龍の身体に突き刺さる。


『痛いっ、痛い! 何これ!?』


「闇魔法だよ。ドラゴンは四元素の魔法に耐性があるらしいから、君のためにわざわざ覚えたんだ。ブレスを防いださっきの結界だって、君のために作ったんだよ?」


 まるで愛の告白でもしたかのように、ユーリはうっとりとしていた。


『闇魔法!? それはグリモアで禁止になっていたヤツじゃない!』


 ラクシュは抗議するように咆哮をあげた。闇魔法は攻撃性が高く、術者自身への負担も大きいために使用を禁じられていたのだ。


「そうだ、ユーリ! 闇魔法は禁呪だぞ!」


 なぜかオイゲンまで非難を始める。彼は慣れない飛行魔法で不規則に動いており、それがかえってブレスの的になりにくくしていた。


「え? だってグリモアは滅んだじゃないか。だから、そんな決まりごとは無効だよ」


 祖国は滅んだのだから問題ない、という非情な見解を示すユーリ。


『あんたには人の心ってもんがないの!?』


 ドラゴンが人の道を説きつつユーリに迫り、手足の鋭い鉤爪を振るった。

 機敏な動きでそれをかわすユーリ。


「人の心って魔法に必要なの? だったら覚えるけど」


 かみ合わない返答をしながら、床から新たな黒い棘を召喚してユーリは反撃に転じる。

 痛い思いをしたくないラクシュは慌てて回避し始めた。


「ねぇ、オイゲンも攻撃してよ? 僕ひとりじゃさすがにドラゴン退治は厳しいんだ」


 ユーリがオイゲンに話しかけた。


「わたしもか!? しかし、青龍相手に効果のある魔法など知らぬぞ?」


 オイゲンも何かしなければとは思ってはいたが、有効な手立てが思いつかなかったのだ。


「別に何でもいいよ。好きに魔法を使えばいいじゃないか。君はもっと楽しんで魔法を使うべきだよ。実力はあるんだからさ」


「……実力がある? わたしがか?」


 オイゲンの動きがピタリと止まる。


「あるよ。だって君は昔からずっと頑張っていたじゃないか」


 ユーリはラクシュと戦いながら、オイゲンのほうを見ずに言った。


「見ていたのか、おまえは……わたしのことを……」


 その声は口の中で消えてなくなり、ユーリには届かない。

 オイゲンはゆっくりと魔法の詠唱を始めた。その体格にふさわしい確かな自信と共に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ひ、ひどすぎる展開だあああ!
オイゲンさんがチョロすぎて可愛いまであるw(*゜▽゜)ノ きっとすごく良い人なんだろうなぁ…報われて欲しいw(/ _ ; )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。