僕は悪徳貴族に買われた。
ガキッ!ガキッ!ガキッ!
男は、愉悦の笑みを浮かべながら手に持っている鈍器を容赦なく振り下ろす。
薄暗い地下室に鈍い打撲音が響いていく。
その音に折り重なるように少女の甲高い悲鳴が鳴り響いてる。
痛みを訴え涙を流し許しを請いている。
ガキッ!ガキッ!ガキッ!
打撲音は止まらない。
何度も何度も声が消えるまで音は鳴り続ける。
牢の外の現実から逃げるように皆が耳をふさいで目を閉じる。
その現実が自分に訪れないようにと神に祈り静寂が戻るのを望みながら
静かに時を待つ。
「やめろよ!」
一人の少年は牢の柵を掴み激しく揺らしながら、声を張り上げる。
現実を直視し続ける少年は男を睨み叫び続ける。
「やめろってば!」
ガキッ!ガキッ!ガキッ!
音は止まらない。
少女の声はやがて小さくなっていく。
悲鳴は呻きに代わり、涙は鮮血へと変わっていく。
小さな体は、痙攣を起こしながら徐々に形を変えていく。
「やめろ!!!」
悲鳴のような叫びに折り重なるようにひと際大きな打撃音が室内を響き渡る。
音が鳴りやむと、赤い液体の中、少女だったものは肉塊へと成り下がっていた。
血まみれになった鈍器を布で拭いながら、男は少年へと視線を向ける。
少年は目をそらさない。
その瞳は憎悪と怒りに満ちている。
「これで何度目だ。大したやつだよ。本当に…」
嘲笑を浮かべながらも関心したかのように男は呟き牢へと近づいていく。
「病気だったんだ。仕方ないだろ。」
男に敵意は少しもない。自身を見上げる少年を見つめながら、事もなげに言い放つ。
別に特別なことではない。
商品が生物である以上在庫を抱えるだけでも損失だ。
不良品は処分しなければならない。
商人として当たり前の考えで男は動いていた。
「ふざけるな!あの子が何をした!何をしたんだ!!」
少年は男を睨み、糾弾する。
肉塊になる前まで少女は泣いていた。病に侵され息を荒げて苦しいと嗚咽を漏らしながら助けを求めていた。
生きたい。人間として当たり前のことを願っていた。その願いは、叶うことなく男によって潰された。
「まあいい。そんなに叫ぶな。腹が減るぞ。」
男は、呆れたように話すと踵を返し掃除を始めていく。
その後も叫び続ける少年の声に反応を返すことはなくなった。
殺されていいはずがない。彼女は何も悪いことはしていない。
少年は心の中で何度も繰り返す。
必ず思い知らせる。同じ目に合わせる。
彼女の痛みをお前に与えてやる。
必ず・・・必ず・・・
呪詛のように少年は繰り返しながら、誓いを胸に怒りを瞳に刻みつけ、時が流れていく。
「」