おふだまみれの屋根裏
「急に呼ばれて期待したら……いつものオカルトかよ……」
「期待って、なによ」
埃っぽい密室に野球帽の少年が舌打ちする。八重歯の少女は彼の不機嫌な理由に心当たりがない。それより、と少女は通販で最強最光と謳われる懐中電灯を柱に向けて、輝かしい笑みを浮かべた。
「あれよあれ! 柱にべったり貼られた無数のおふだ! まさか、うちの屋根裏に呪物があるとはっ」
「うげ……お前よくテンション上がるな」
「こういうホンモノっぽいの初めてだし!」
さっそく始めようと少女は懐中電灯を置いて一枚のおふだをためらいなく剥がした。少女に催促され、少年も渋々加わる。本当なら今頃、ソース辛い焼きそばでもすすって、二人仲良く花火を眺めていたはずなのに。
「なんか不服そうね?」
「別に……」
「昔からそういうとこあるよね、あんた。ほら、これで最後の一枚なんだからドキドキしなさい」
どうせならもっと違うことでドキドキしたかったとは言えない。
おふだの端先をつまみ、少女が息をのむ。
「いくわよ……」
慎重に剥がしていた彼女だったが、しびれを切らして最後には一気に引き剥がした。
ぶわぁっ、と二人の髪を巻き上げるほどの突風が吹き抜けた。それも、二回連続でだ。
思ってもみない出来事に二人は体をふるわせ抱き合った。とんでもないことをやらかしてしまったと後悔して、神に祈りを捧げる。
「……な、なにも起きないわ」
「お、おう……そうだな」
少年の頭の中は柔らかい感触と柔軟剤の香りとシャンプーの甘ったるい匂いでいっぱいだ。途中から少女との抱擁に酔っていた確信犯である。
苦し紛れに出た言い訳がこれだ。
「な、なんかツインテールの髪が見えた気がするんだけど……」
「封印されていたのはツインテールの幽霊……!? 斬新でいいかもしれないわ」
「あほか」
少し落ち着くと何もかもが馬鹿らしく思えてきて、疲れの波が少年を襲った。
花火はまた来年でいい。
と思った矢先、小気味の良い音が遠くから屋根裏部屋に反響する。不思議と祭りの音色がつられてやってきた気がした。
「今日は花火大会だったんだ。ま、それより今はこの後放送の心霊番組よね。夜食の用意お願い!」
「……へいへい」
くしゃっとした顔で言われたものだから、少年は断りようがなかった。まあ、これはこれでアリなのかもしれない。
実は、脳筋ツインテール少女シリーズ第5弾その2――――!!!!!