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【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子  作者: ma-no
四章 引きこもり皇子、暗躍する
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085 大豊作


 秋……


 帝国全土で麦の収穫が行われたが、1年通して天候はよかったにも関わらず、収穫量が半分以下となっていたのだから国民全体に不安が広がっていた。

 その不安は物価に反映され、今まで落ち着いていた場所でも急激に跳ね上がる。


 帝国初の、大恐慌の始まりだ。


 その批判は奴隷制度廃止を急いだフレドリク皇帝に向けられ、じわりじわりと支持率が下がっていた。



 そんなことになっているのは予想済みの、第二皇子派閥の領地は平和なモノ。食糧が余るほどあり、同じ帝国だというのに笑顔が溢れている。

 これはフィリップ式農業の普及も効果のひとつだが、足りない物は派閥で回しているから物価の安定に繋がっているのだ。


 この派閥間のやり取りは、移動税はなし。もちろん領主としては反対したかったが、フィリップに忠誠を誓っているし、ホーコンが撤廃したからには乗るしかなかった。

 しかし、派閥間の人や物が活発に動き出して経済が回り出すと話が変わる。移動税よりも他の土地の人が落とすお金のほうが大きくなったのだから、領主も何も言えない。

 さらに麦の売却の際には倍以上の価格でやり取りができるし、大量に押し寄せた商人からは移動税込みで約束手形を切っているのだから笑いが止まらない。


 フィリップには足を向けて寝られないと思ったそうだ。そして、ブチギレ手紙で逆らえないとも思ったらしい……



 そんなこんなでダンマーク辺境伯領では、今日も麦の収穫をして、それを積み込む商人の馬車が長い行列を作っていた。


「初めてやりましたけど、なかなか楽しいですわね」

「でしょ~?」


 フィリップが参加しているものだから、エステルまで貴族にあるまじき麦刈りに手を出している。


「ま、書類仕事ばっかりやってると、こういう体を動かす仕事が楽しく感じるだけだよ。毎日やるとしんどいよ~?」

「言いたいことはわかりますけど、エリクは書類仕事もしてないで寝てばっかりじゃないですの」

「いつも寝てるから体を動かしたいみたいな?? アハハハ」

「はぁ~……いったいエリクをどう教育したら、働くようになるのですかね」


 嫌味の通じないフィリップが笑いながら鎌を振っているので、エステルは諦めモードのため息が出てしまうのであった。


「ご子息様、相変わらず凄いだべな~」

「んだ。1人で10人分ぐらい刈っているだな」


 ただし、元奴隷の目には、フィリップはけっこう働き者だと映っているのであったとさ。



 それから日が暮れて来たら、キリがいいところでフィリップたちは退散。馬車に揺られて帰ると、2人はお風呂で洗いっこ。最近ではエステルも慣れて来たのか抵抗なく入っている。

 そうして汚れを落とした2人はイチャイチャしながら食堂に入ると、ホーコンが微笑ましい目を向けたが、何か話があるようだ。


「エリク、ちょっといいですか?」

「ん~? 難しい話??」

「まぁそうですな。あとからにしましょうか?」

「う~ん……触りだけ聞かせて」


 フィリップはあまり聞きたくなさそうだけど、そこまで聞いてしまっては気になる。その許可を持って、ホーコンは手紙を開いた。


「皇帝陛下からの勅令です。移動税を1年間、最大で2年間停止するようにとのことです」

「おっ! 兄貴もやっと気付いたんだ~」

「ですな。うちはすでに派閥間でやっていますから、そこまで気にならない政策ですな。しかし問題は……」

「商人ね~……」


 麦は移動税込みで約束手形を切っているのだから、商人が何か言って来るとホーコンは予想している。


「ま、文句言って来たら、他に売ると言ったら? 契約書でも、販売価格の変動は、うちは取り合わないことにしてるし。そのこともちゃんと説明してるでしょ?」

「あ……あの一文は、このための対策でしたか」

「そそ。てか、麦は秋にはもっと値が上がっていると商人も予想していたから、そこまで強く言って来ないはずだよ。それに、帰りの領地で移動税を払わなくて済むから、ラッキーとか思っているかもね」

「なるほど。うちの移動税は微々たるモノということですな……そのように対応するように書状を出しておきましょう」


 もっと時間が掛かると思っていた話でも、フィリップに掛かれば夕飯前。いつも通り和気あいあいとした家族の食卓となるのであった。



 ある日の辺境伯邸の夜……


 2階にあるフィリップの部屋に、小柄な男が窓から忍び込もうとしていた。


「殿下……どちらに行ってましたの?」

「えっちゃん!? うわっ!?」


 その人物は、この部屋に居候しているフィリップ本人。エステルが窓の前に陣取っていたので、フィリップは驚いて落ちて行った。


「あっぶな~。大怪我するとこだったじゃな~い」


 ギリギリ屋根に手を掛けて地面に激突しなかったフィリップは、ヘラヘラしながら戻って来た。


「殿下なら、2階から落ちたぐらいで死にはしませんでしょう。それよりどちらに行かれていましたの?」

「いや、それは……」

「娼館ですのね……」

「ゴメンなさい」


 娼館通いを許されていても、さすがに本人の前ではフィリップも平謝りだ。


「別にその件では怒っていませんわ」

「そなの??」

「窓は出入りする場所ではなくてよ」

「ア、アハハ。家の者を起こすのは気が引けるから、つい……」

「まったく……出掛ける場合は、ちゃんとわたくしにも報告してから出掛けてくださいませ」

「そんなの言えるわけないでしょ~」


 どうやらエステルの目的はこれ。娼館通いを精神的に止めようと考えていたらしい。


「てか、えっちゃんこそ、こんな夜中に僕の部屋で何してるの?」

「そ、それは……」

「寂しくなったんだね! すぐにシャワー浴びて来るから待ってて!!」


 あと、エステルにもそんな夜があるらしく、フィリップに襲われてから眠りに就くのであった……


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