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【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子  作者: ma-no
一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
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008 魔法


「さってと……出発しんこ~う♪」

「ヒヒ~ン♪」


 フィリップが楽しそうに出発を告げると、跨がっている馬も嬉しそうな声をあげて歩き出した。


「はぁ……」


 それに続き、ため息をつくエステルが跨がる馬も歩き出し、徐々にスピードを上げる。


 今日は辺境伯邸にフィリップが滞在するようになってから8日目。作戦の第一段階に着手しようと、2人とも平民に見えるような服を着て黒髪のカツラを被り、東に隣接するアルマル領に向かっているのだ。

 何故、2人だけかというと、フィリップがゴネたから。これから接触する人物には絶対にバレたくないから、護衛を含めた大人数で行きたくないそうだ。でも、本当は遅くて乗り心地の悪い馬車には乗りたくないってのが真相だ。

 エステルが同伴なのは、その人物の姿を知っていると言ったから。それに帝都学院の野外授業でキャンプをやったことがあるので、町での数泊ぐらいは余裕と言っていたからだ。


 速度を上げてしばらく走ると、予定通りの時間に小川が見えたので、フィリップはエステルに目配せしてからスピードを落とし、小川の手前で飛び下りる。

 そして自分の馬を大きな石造りの水受けがある場所に繋ぐと、エステルの馬をエスコートして同じ場所に繋ぐ。エステルも馬を下りるとフィリップはキョロキョロしてから、水受けに水を溜める。


「なっ……エリクは魔法を使えましたの!?」

「シーーーッ!!」


 小川の水が浮き上がって水受けに入るものだから、エステルも驚いて声が大きくなった。ひとまず水受けが満タンになったら、フィリップはエステルと密着してコソコソと喋る。


「えっと……僕って、学院で使ってなかったっけ?」

「はい。魔法適性も『なし』と聞いていましたわ」

「しまったな~……」


 フィリップが頭をペシッと叩くと、エステルは顔を覗き込む。


「ひょっとして……どうやったかわかりませんが、検査をすり抜けましたの?」

「うん。まあ……この件はご内密に! チューしてあげるから!!」

「キャーーー!!」


 顔が近かったこともあり、フィリップはエステルの話を強引に逸らそうとしたらしいが、口付けに驚いたエステルはビンタ。フィリップは錐揉みしながら飛んで行った。


「いてて……未来の旦那様になんてことするんだよ~」

「驚いて叩いたことは謝りますが、そんなに怪力ではありませんわよ」

「いや、常人なら首がもげる強さだったよ。アハハハ」

「笑ってますし……はぁ~」


 こうしてエステルは呆れてしまい、魔法のことは……


「で……エリクの魔法適性はなんですの?」

「チッ……」


 忘れるわけがないのであったとさ。



「僕の魔法適性は『氷』だよ」


 エステルがしつこくするので、フィリップもついに折れた


「『氷』? とても珍しい魔法ですわね。ですが、先ほど水を動かしていたから、『水』じゃないのですの??」


 この世界では、8歳になった子供は神殿で魔法適性を調べるのだが、それは極一部。帝都や大きな町に住む平民でも、一定の税を納めている者しか受けられない。

 その検査でわかることは、どの魔法を使うことができるか。炎や風といった攻撃に向いている魔法だと、貴族ならば大いに喜ばれる。騎士団でも早くに出世するからだ。

 基本的にはひとつしか適正がないのだが、(まれ)に2個、3個と持つ者が現れ、必ず皇家に近いポストに推薦されるので、複数の適正を授かることは貴族にとってはプラチナチケットとなっている。


 だがしかし、フィリップは抜け穴を知っているらしい。


「あ~……あの検査って、得意な魔法を教えてくれるだけで、それに近い魔法なら努力で使えるよ」

「そうなのですの!?」

「『氷』ってのは『水』が冷えて作られるでしょ? だから、水を出したり操作もできるんだよ。こんなふうにね」


 フィリップが魔法で作った水の玉と氷の玉を浮かべると、エステルは口をあんぐり開ける。


「んで、検査の時に魔力を極限まで抑えれば、バレないって寸法。そんなに大口開けてると、氷を入れちゃうよ~?」


 氷の玉が顔の近くまで来たら、エステルも慌てて口を閉じた。


「ど、どうしてそんなことをお知りで……」

「子供の頃から魔法は興味があったから、イロイロ試してたんだ。それに僕って、他国にあるカールスタード学院に3年生まで通っていたのは知ってるでしょ? あそこのダンジョンは帝都学院より深いから、試し放題だったんだよ」

「そういえば、エリクは途中編入でしたわね。そこでも劣等生と聞いていましたのに……」

「ひどいね~。劣等生じゃなくて、風土が合わなかったから引きこもっていただけだよ」


 エステルは同じことだと思ったけど、フィリップがプリプリ怒っているので口には出さない。


「風土が合わないとは?」

「あそこの学生、全員他国の優等生ってのは知ってる?」

「ええ。話だけは」

「アレ、大ウソだよ。貴族と王族だらけ。それも全員、大枚叩いた裏口入学だ」

「なるほど……箔を付けた上に、コネクションを作る場となっていますのね。でしたら、エリクならばそれなりに持て囃されたのでは?」

「うん。お姉ちゃんみたいなヤツらに取り囲まれて……」

「はい?」


 フィリップが震えるような素振りをしているが、エステルは意味がわからない。


「だから、目は笑ってない、張り付いた笑顔、裏では陰口や嫌味の嵐、ちょっとでも位の低い者は貶しまくり……お姉ちゃんだらけで通ってられなかったんだよ!!」

「わたくし、そんなことした覚えはありませんわよ?」

「自覚なし!?」


 フィリップは信用できる人間が1人もいなかったと言いたかったのだろうが、エステルはそれが通常運転なので、いつまでも平行線が続くのであった……

 補足


 帝都学院……帝国の帝都にある。10歳からの5年制。生徒は全て帝国人で、稀に貴族以外の才能ある平民が入学することもあるが、大商人のような金持ちでない限り潰されることが多い。


 カールスタード学院……他国の首都にある。生徒はこの大陸中の王族貴族で、こちらも10歳からの5年制。帝都学院より深いダンジョンがあるのだが、ほとんど使われていないらしい。


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