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【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子  作者: ma-no
一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
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020 悪役令嬢の優しさ


 皇帝の勅令書を手に入れた辺境伯一族は会議を行い、慌ただしく動き回っている。


「エリクは毎日毎日、こんな所で何をなさっていますの?」


 ただし、フィリップは1人でブラブラ出歩いているので、あとをつけさせたウッラから報告を受けたエステルが鍛冶場まで押し掛けていた。


「暇だから、ちょっと……」

「わたくしたちばかりに働かせておいて、よく暇だなんて言えましたわねぇぇ~~~?」

「「「「「なんかすいません!!」」」」」


 エステルの顔が怖すぎて、鍛冶場にいる者全員が頭を下げる。中には土下座する者も数人いるから、エステルなら死刑まであると頭に浮かんだらしい。


「まったく……遊んでいるなら帰りますわよ」

「いや、暇潰しは暇潰しなんだけど、これは領地の収入になるから……」

「素人が何を言ってますの。行きますわよ」

「話! 話だけ聞いてよ~~~!!」


 首根っこを掴まれたフィリップがバタバタ暴れるので、エステルも落としてしまった。


「聞くから早く話して帰りますわよ」

「親方! 試作品持って来て!!」

「へい!!」


 親方と呼ばれた老人は職人を数人連れて外に出ると、大きめのベビーカーのような物を押して来た。


「これがなんだと言うのですの?」

「新型馬車の試作品。かなり揺れが軽減されているんだよ」

「こんな鉄の塊がですか……」

「騙されたと思って乗ってみてよ」


 これに乗らないとフィリップも帰らないと察したエステルは、フィリップが開けた扉の位置から乗って椅子に腰掛ける。


「それじゃあ行くよ~?」

「早くしてくださいませ」


 フィリップが後ろの持ち手を握ると、出口に移動。外に出ると走り出し、辺境伯邸に向かう。エステルが乗って来た馬車は従者が操縦して2人を追う。てか、何を遊んでいるんだろうと不思議がってる。



「本当に揺れませんわ……」


 乗り物の機能は本物。といっても、従来の馬車よりおよそ半分程度しか揺れが軽減されていない(フィリップ調べ)。


「どうなっていますの?」

「スプリングと言って鉄の棒が円を描きながら……ちょい待ち。見たほうが早い」


 フィリップは一度止まると、アイテムボックスから出した細いスプリングをエステルの太ももに置いた。エステルはスプリングの両端を持ち、伸ばしたり縮めたりしている。


「それが伸び縮みすることで、振動が抑えられるってわけなんだ。もっと技術が進化したら、ベッドやソファーにも使えるから早くできないかな~」

「わたくしが聞きたいのは、その発想はどこから来ているかですわ」

「あ、そっち? アハハハ」


 フィリップが笑いながら説明するので、エステルは信じられないって顔。ちなみに内容は、この世界とは違う世界から異世界転生したとのけっこう重たいカミングアウトだったのだが、それも受け入れ難いみたいだ。


「ほい。とうちゃ~く」


 辺境伯邸に着いたら、フィリップは乗り物のドアを開けてエステルを降ろす。


「話はよくわかりませんでしたが、確かにこの乗り物はいいですわね。2日後には馬車に仕立てておいてください」

「そんなに早くは無理だって!?」

「暇なんですから頑張ってくださいませ」


 こうして暇潰しは正式な仕事になり、フィリップは徹夜で作業に励む……いや、忙しそうにしているのは職人だけで、フィリップは自由な時間ができたと久し振りに娼館に足を運ぶのであったとさ。



 2日後……朝早くからエステルが鍛冶場にやって来て、フィリップから報告を聞いていた。


「徹夜でやったけど……無理だった」

「ふ~ん……2日間も徹夜とは、ご苦労なことですわね」


 エステルが見回すと、職人たちの辛そうな顔があったけど……


「エリクはまったく眠そうではありませんわね。汚れもありませんし……」

「僕は……職人じゃないから、指揮していただけだから……」

「娼館に現れたと報告を聞いておりましてよ?」

「だったらそう言ってよ~~~」


 どうせ怒られるなら、この緊張感はなんだったのかと嘆くフィリップ。職人たちも結果を出せていないので泣きそうだ。


「さあ、今日は忙しいのですから帰りますわよ」

「えぇ~~~」

「わたくしに嘘をついたのですから、素直に従ってくださいませ。あ、そうそう。皆さんには無理に働かせて悪かったですわね。今日はもうゆっくり休んで、2日後から本格的な馬車作りに入りなさい」

「「「「「はっ! はは~」」」」」


 急に優しい言葉をかけられた職人たちは何故か土下座。納品期日に間に合わなかったから、殺されると思っていたのかも?


 それからフィリップを馬車に押し込んだら、辺境伯邸に出発。その車内ではフィリップがニヤニヤ笑っているから、エステルはいい気がしない。


「その顔、やめてくださいます?」

「いや~。優しいところもあるんだな~と、思って」

「職人のことですの? アレは無理を言って、エリクから嘘を引き出しただけですわ」

「へ? ……僕をハメたの!?」

「言うことを聞きませんからね。貸しがあったほうが、扱いやすいってものでしょう? オホホホホ~」

「やっぱ、悪役令嬢だ~~~」


 フィリップは策略に引っ掛かったことにガックシ。その顔を見て、エステルの笑いは止まらないのであったとさ。



 辺境伯邸に着くと、フィリップはメイドたちに囲まれてお着替え。綺麗な子供服を着せられて、辺境伯一家が揃う食堂に連れて来られた。


「ん? みんな着飾ってるけど、今日はパーティーでもあるの??」

「「はぁ~~~……」」


 フィリップのとぼけた質問には、ホーコンとエステルはため息でアンサー。


「なんだよ」

「これから領主たちが集まりますのよ」

「殿下の策略のひとつでしょうが……」

「あっ! そっかそっか。覚えていたとも~」

「「はぁ~~~……」」


 フィリップのそのセリフは完全に忘れていたと言っているようなものなので、エステルとホーコンのため息はしばらく止まらないのであったとさ。


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