113 直接対決1
「んじゃ、結論から言わせてもらうね」
フレドリクたちがテーブル席に着き、フィリップが喋り出すと、この場にいる全ての者に緊張が走った。
「さっきみんなが言っていたことが答えだよ。兄貴、皇帝辞めてくんない?」
その発言に、イケメン4やその後ろに立っている騎士が驚愕の表情を浮かべる。フィリップの後ろに控えている民やホーコンたちはウンウン頷いているので、それが民の総意だと言わんばかりだ。
そんな中、カイはテーブルを叩いて立ち上がった。
「やはり謀反だったか! 兄を蹴落として何が楽しいんだ!!」
「お前、うっさい。僕は兄貴と話をしているんだ。三下は引っ込んでろよ」
「なんだと……俺に大怪我を負わされたことを忘れたのか……」
「忘れた~。邪魔するなら、どっか行ってくんない?」
「貴様~~~!!」
フィリップがカイをからかっていると、フレドリクが動く。
「カイ。フィリップのペースに飲まれるな。落ち着いて座っていてくれ」
「あ、ああ……すまない」
カイがしゅんとして着席すると、フレドリクは鋭い視線をフィリップに向ける。
「それで……どうして私に皇帝の椅子を明け渡せと言っているのだ?」
「それがわからないぐらいアホになってるからだよ」
「アホだと……」
「さっきみんなの声を聞いたよね? それが民の答えだよ。兄貴に嫌気が差して辞めろって言ってるのがわかんない??」
フィリップの反論に、フレドリクは冷静に対応する。
「確かにこの2年、民には悪いことをしたとはわかる。しかし、ようやく立て直す目処が立ったのだ。その結果を見れば、民もまた私について来てくれるはずだ」
フレドリクの反論には、イケメン4たちが拍手しそうなぐらい響いていたが、100人の民代表は微妙な顔だ。
「それが遅い、つってんの。辺境泊、嘆願書を持って来て」
「はっ!」
フィリップが後ろに控えているホーコンに振ると、テーブルの上に書類が高々と積まれた。
「これは民の怒りだよ。でも、こんなの極一部。後ろの馬車に山ほど積まれているのだって極一部だよ。これからその一部を読んであげるから、耳の穴をかっぽじって聞くんだよ?」
フィリップはこの2年で民が受けた苦痛を読み上げる。
その内容は、食料品が高くて買えないとの平民の声。農業技術や農地をムリヤリ奪われたとの農夫の声。代官に資産を奪われた商人の声。盗賊が増えて移動もままならない民の声等もあった。
「ここまでは全部、兄貴が奴隷制度廃止を急いだ副産物だよ。平民までに文句を言わせる制度変更って、どうなのよ?」
「だから、これから良くなって行くのだ」
「まだわからないか~……じゃあ、次はその奴隷から解放された人の文句ね」
奴隷から解放されてから食べられなくなった。仕事も居場所も失った。領主や代官からは他に行けとたらい回しされた。冬には多くの仲間が死んだ。奴隷に戻してほしい等々。
フィリップが読み終わると、ルイーゼが涙を我慢できなくなってフレドリクに体を預けていた。
「これだけ人を不幸にしておいて、どの口がこれから良くなると言ってるの? できるわけないでしょ」
「いや、できる。準備は整ったのだ」
「仮にその話が本当だとして、もう誰も信じられないんだよ。そもそもその準備って、うちから……辺境泊領から盗んだ技術だよね? 盗っ人猛々しいってのは、兄貴のことを言うんだよ」
「私が盗っ人だと……」
「違うの? 辺境泊、あの書類持って来て」
「はっ!」
ホーコンは1枚の書類をフィリップに手渡すと、その場に残る。
「ほら? この勅令書、見覚えがあるよね?? 辺境泊が元奴隷を救うために頑張って作った麦やお金を、兄貴が根刮ぎ奪った証拠だよ。忘れたとは言わせないよ」
「そ、それは、辺境泊から無償で譲り受けた物だ。これほどの大きな借りを作ったのだから、借りは何年かかっても必ず返す予定だ」
「そんな文言、一言も書いてないんだけど~? 辺境泊、聞いてる??」
「いえ! いきなりやって来て、防衛用に取っておいた麦も、民が頑張って収めた金も、無償で用立てろ言われました!!」
「なっ……」
このために残っていたホーコンが堂々と噓をつくので、フレドリクも冷静さを失った。
「確かに無償で譲ると言ったぞ! 噓を言うな!!」
「証拠はここにあるのに、どっちが噓ついてるのかな~? それにしても、こんなに大量の麦とお金って凄いね。合わせたら帝国の国家予算ぐらいない??」
「わはは。頑張りましたので」
「なんだその数字は~~~!!」
ここでフレドリクは、勅令書に書き足された数字に気付くと同時にあることにも気付いた。
「この私を嵌めたな……」
「なんのことかな~? これが現実でしょ?? アハハハ」
「フィリップ……いや、辺境泊の策略か!?」
フィリップが隠さず笑っているのだから、フレドリクも完璧に気付いて怒鳴り声をあげた。しかしホーコンはそのことに取り合わず、フィリップに託す。
「アレ? 手紙で全部、僕がやったと書いたでしょ??」
「フィリップがそんなに賢いわけがないだろ!!」
「えっちゃ~ん。兄貴が信じてくれないよ~」
フレドリクの言葉にイケメン4は激しく頷くので、フィリップはエステルに助けを求めた。
「残念ながら、殿下は陛下より賢いですわよ。2年前から、この状況になるように画策していましたもの。私どもは、その手足となったにすぎませんわ。そうですわよね。お父様?」
「ああ。当家に来られた直後から、殿下は奴隷制度を廃止されたあとに何が起こるか正確にわかっておりました。その後、全て的中して行くことも驚きの連続で……ですから、私は今日のこの光景も必ず起こる未来だと信じていたのです」
2人にヨイショされたフィリップはニヤリと笑う。
「フッフ~ン♪ 僕が賢いのわかってくれた?」
「「「「いや……」」」」
「まだなの!?」
しかし、フィリップを担いでいる2人がヨイショしていたのでは、あまり効果はないのであった。
「まぁ……仕方ありませんわね」
「だな。それまでが酷すぎた……」
エステルもホーコンも、この程度では信用されないと思っていたらしい……




