108 ヘルゲソン伯爵軍3
ヘルゲソン伯爵軍を犯罪者として裁いた翌日。昨夜は暗い中での面通しだったので、この日も犯罪者の漏れはないかと、宿場町の住人に確認させて裁きを行っている。
その罰は、簡易的。軽犯罪者は武器防具を没収して利き手の骨を折り、しばらく剣を振れなくする。犯罪に手を染めていない者は、連帯責任で武器防具を没収。
これらの装備は、損害賠償として町に支払われる。さらに、全員故郷に帰って農夫になることを約束させられていた。
宿場町を治めていた代官は真っ先に殺されていたから、ひとまずホーコンの部下が滞在して、帝都から人を派遣するか宿場町出身の有能な者がいたら交代するかを、後日発表することとなった。
それと同時進行で、犯罪者の処置をまとめたレポートを急ピッチで作成。これらは文字が書けて法律を知る者が必要なので、多くの貴族が参加。イーダとマルタまで駆り出されていた。
フィリップはというと、昼までサボっていたけどエステルに見付かって仕事に参加。持ち場は、軽犯罪者の骨砕き。ニヤニヤしながら無駄に指鉄砲を向けていたので、軽犯罪者は気が気でない様子。
それに他の者は棍棒を使って骨を折っていたのに、フィリップは足で踏むだけで1発で折っていたから、全員フィリップのことを「化け物だ」とコソコソやっていた。
そんなこんなで夕方までには終わらせると、宿場町の中ではフィリップの演説が始まった。
「まず、最初に言っておくね。今回の件は、僕に加勢しようとした元貴族がやったことだから、少なからず僕のせいでもある。ごめんね~」
フィリップの謝罪は、エステルにはふざけているように聞こえていたので、1人だけ吹き出していた。しかし、他の者には皇族からの謝罪なので、尊大に聞こえている。
その謝罪は住人にすぐに受け入れられる。これは、犯罪を犯した者を厳罰に処したことと、被害にあった者にはフィリップが身銭を切って賠償金を払ったことが大きい。
このこともあって、住人からは救ってくれたと感謝する声しかなかった。
「ありがと~。そう言ってくれると、僕も気持ちが軽くなるよ」
フィリップは感謝の言葉を返したら、ホーコンに静かにするように言わせていた。
「イロイロあったけど、ここからが本題だ。この事態が起こったのは、何故だかわかる? 皇帝が奴隷制度廃止を急いでやったからだ。だから、ついて来れない貴族や領主が大量に解雇されて、そいつらの不満が爆発したんだよ! 誰が一番悪いかわかるよね!?」
「「「「「皇帝です!」」」」」
「そんなヤツを許していいのか!?」
「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」
「だったら僕と一緒に文句を言いに行こうよ! メシだっていっぱい食わしてやるよ!!」
「「「「「わあああああ!!」」」」」
ここでも勧誘は大成功。中間地点ほどではないが、多くの抗議者が集まるのであった……
その日の夕食。今日は宿場町の者が感謝の料理を振る舞ってくれると言うので、フィリップたち上層部は豪華なディナーを食べていたが、どことなく雰囲気がおかしい。
「なんか静かじゃない?」
そう。誰も喋ろうとしないから、フィリップも気になるのだ。
「ひょっとして、僕にビビッてる? 辺境伯……パーン!」
「ぎゃ~~~!?」
その理由は、フィリップがけっこうやらかしたから。指鉄砲で撃ったフリしただけで、ホーコンはノリノリで倒れてくれた。
「冗談冗談。罪のない人を殺すわけないでしょ」
「お、お戯れを……」
「そう怒らないでよ~。僕としてはこんな内輪揉めで、みんなの手を血に染めたくなかったから、ちょっと本気出しただけなんだ。でも、みんなも同じ気持ちだったみたいだね。助かった。ありがとう」
「「「「「は、はは~」」」」」
「さあ! もうひと踏ん張りだ。いっぱい食って、英気を養おう!!」
「「「「「はいっ!!」」」」」
こうしてフィリップから感謝されたホーコンたちは忠誠心が上がり、楽しい食事会になるのであった。
翌日は1日休んだこともあり、ダンマーク辺境伯領から歩いていた人も元気いっぱい。皇帝抗議隊は前進する。
その最前列のフィリップ専用馬車の中では……
「僕が怖いなら、この馬車に乗らなきゃいいのに……」
イーダとマルタが恐縮して、ベッドに寝転ばずに端で座っている。ウッラもなんか緊張して椅子に腰掛けてる。
「「今まで酷いこと言って申し訳ありませんでした!」」
「まぁ、気にしてないと言ったら噓になるけど、僕は女の子には甘いから、酷いこと言われたぐらいじゃ暴力振るったりしないよ。安心して」
「「よかったです~」」
2人が安堵して緊張が解けると、フィリップは付け足す。
「あと、犯罪者を裁くように言ったのえっちゃんだよ? 僕はえっちゃんの操り人形なんだ~」
「殿下! 嘘おっしゃらないでください!!」
「「さすがエステル様です!」」
「違いますのよ! 全て殿下が勝手にやってるのですよ!!」
イーダとマルタはエステル至上主義。エステルがどう否定しても、フィリップのような化け物を手懐けているエステルを尊敬してしまう2人であったとさ。




