107 ヘルゲソン伯爵軍2
ヘルゲソン伯爵が頭から血を噴いて動かなくなったからには、場は静まり返った。
「もう一度言うよ? ちゃんとした裁きを受けたい者は座っていろ。ただし、罪が重い者は、僕の権限でこの場で死刑にする。犯罪を止めなかった上層部は全員死刑に決定してるからね。逃げようとしたヤツは、罪の有無も聞かずに死刑にするから気を付けるんだよ~?」
フィリップが正式に発表してホーコンが大声で伝言すると、死刑に決定している前列の上層部は、足を引き摺りながら動き出した。なので、またフィリップは指鉄砲を作り「パンパン」と言ったら、頭から血を噴き出してそのまま息絶えた。
「「「「「うわ~~~!!」」」」」
こうなっては、身に覚えのある者はパニック。逃げ出す者、フィリップに剣を振り上げる者に分かれて走り出した。
「ズガガガガガガガガ~!」
その者には、フィリップは両手で指鉄砲を乱射して、兵士を撃ったフリ。しかし、それだけで近付く兵士は頭から血を噴き出し、遠くの兵士は至るところから血を噴き出す。
その結果、当たりどころの悪い者は即死、体に穴を開けられた者は地面に転がる。約3割ほどが倒れた現場を目の当たりにした兵士は、その場にうずくまるしかできないのであった……
「まだ裁判も無しに裁かれたい者がいるなら立ちなよ。同じように蜂の巣にしてやる」
フィリップの最後通告に、兵士は土下座するように頭を抱えて答えとする。
「なんだ~。もっと減らして楽しようと思っていたのにな~……仕方がない。辺境伯。僕が見張っているから聞き取りよろしく」
「は……はい!」
いくらなんでも、たった数分で何百人も殺したフィリップに恐怖したホーコン。少し出遅れながら、家臣や従者に指示をするために走って行った。
それを見送ったフィリップは玉座に戻り、険しい顔で頬杖を突いて兵士を睨んでいる。
「殿下……大丈夫ですの?」
そこにエステルが声を掛けた。
「気分は最悪……えっちゃんにも酷いとこ見せちゃったね。ゴメン」
「いえ。犯罪者を裁く皇族の務めを果たした殿下は、立派でしたわ」
「こんな人殺しに優しいね……泣いちゃいそう」
「まだ我慢してくださいませ。ベッドで慰めて差し上げますので」
「うん。わかってる……」
エステルの優しい言葉に目頭が熱くなったフィリップであったが、必死に我慢して兵士を睨み続けるのであった……
それからホーコンたちが町の者を連れて来て、犯罪者の面通し。ヘルゲソン伯爵軍は全員、騎士や民衆を使って縄をかけられる。
重犯罪者はほとんどフィリップが殺していたらしく、残ったのは軽犯罪者が3割と、特に犯罪者と指摘されなかった4割。
少なからず残っていた重犯罪者はフィリップがトドメを刺そうとしていたがエステルに止められて、ホーコンや騎士が罪状を読み上げ、被害者の前で首を刎ねていた。
ここまでで辺りは真っ暗となっていたので、今日はお開き。ヘルゲソン伯爵軍は民衆に見張りをさせて、フィリップたちは町の宿屋へと入って行くのであった。
「殿下……」
夜食もお風呂も済ませたらベッドに横になり、エステルはフィリップに裸で抱き付いていた。
「今日はしませんの?」
「う~ん……するけどちょっと待って」
「……」
フィリップが元気がないのでエステルから誘って気分を紛らわそうとしていたらしいが、その答えに「あ、するんだ」と思ったエステル。
しかしいくら待てどもフィリップは天井を眺めたままなので、エステルは話題を探す。
「ところでなんですけど……」
「ん~?」
「殿下は触れてもいないのに、どうして人が死んでいたのですの? あ、答えたくないなら忘れてくださいませ」
その話題はめちゃくちゃ気になっていたから口に出てしまったエステルは、フィリップに思い出させてしまったと途中で気付いた。
「アレはね。氷魔法だよ。この人差し指大の氷を突き刺したの」
エステルが気を遣っていると感じたフィリップは、先端が尖った弾丸状の氷を渡して説明する。
「こんなに小さな物が……冷たいですわね」
「そりゃ氷だもん。でも、それなりの速度を出せば、人の体なんて貫いちゃうの。そして数時間で消えるから、完全犯罪には持って来いの魔法なの」
「完全犯罪……」
フィリップの発言にエステルは引っ掛かるモノがあり、数十秒考えて思い出した。
「もしかしてですけど、学院時代にも使っていません? 胸に穴が開いた生徒がいたらしいのですけど……」
「ああ~。あったね。侯爵家の馬鹿息子に使ったね」
「な、何故、そのようなことを……」
「だってあいつ、最悪だったんだよ? 僕の目の前で子爵家の女の子をボコボコにしたあげく、毎日取り巻きと一緒に犯してるとか言ってたんだ。それを僕にも勧めるんだから、キレちゃった」
「確かに酷い話ですけど、殿下が怒った話なんて噂でも聞いたことありませんわ」
「その時は必死に我慢して、ヘラヘラしながら女の子を連れ帰ったの。んで、数日後の夜に馬鹿息子の部屋に忍び込んで、胸を貫いてやったんだ。たぶんあの死に方は相当苦しかったと思うよ」
エステルは驚きつつも質問を続ける。
「他にもそんなことをしていましたの?」
「まぁ……女の子に酷いことをしてるヤツと、どうしようもないクズは何人も消したよ。ま、よっぽど悪いヤツしかさっきの殺し方はしないけどね」
「そういえば、帝都では不審死が多かったですわね……寝ているように死んでいるだとか……」
「それも僕。心臓を凍らせて、そのままね」
「いったい殿下は、いつからそんなことをしていましたの?」
「カールスタード学院に放り込まれてからだから、10歳ぐらい? 正義の味方に憧れて、影でやってたんだよね~。いま思うとイタイよね~??」
「はあ……イタイというか、怖いというか……」
エステルが顔を青くしているので、フィリップもぶっちゃけすぎたと焦る。
「てのは冗談で~す」
「……遅すぎですわ」
「やっぱり? でも、この話って信じる人いるかな??」
「残念ながら、わたくしぐらいかと……」
「アハハ。セーフ!! アハハハハ」
まったくセーフではないが、こんな荒唐無稽な話を信じる人はいないので、エステルは心の内に留めることに決めたのであった……




