105 謎解き
フィリップたちが皇帝に抗議したい者を集め、領主や代官を説得したり無力化して東に進んでいたら、ダンマーク辺境伯領から帝都までの中間地点に入った。
「国民の命を奪ったのは誰だ!」
「「「「「皇帝です!」」」」」
「そんなヤツを許していていいの!?」
「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」
ここでも演説をして勧誘するのだが、いつもと違う。
「食えないヤツは全員ついて来なよ! 腹いっぱい食わしてやるよ!!」
「「「「「わああああ!!」」」」」
ギリギリの生活をしている元奴隷や困窮者が多いのだから、この大盤振る舞いには民衆の声は弾けた。
代官も最悪の土地を立て直しさせられていたので、フィリップのことが救世主に見えている。そこに畳み掛けるように、領地用のお金と食料を渡すのだから神にしか見えない。
こうして誰からも反発はなく、大量の抗議者を集めたフィリップであった……
町の中で大規模な炊き出しが行われるなか、フィリップたちは領主が使っていた屋敷で夕食。フィリップはエステルと食べようとしていたのに、イーダとマルタが押しかけて来たので同席している。
「おかしいと思っていたら、ここからだったのですね」
「ん?」
「民衆ですよ。一気に増えたじゃないですか」
イーダとマルタは、フィリップから秘密にされたことの謎解きに来たみたいだ。
「さすがにバレたか」
「でも、これなら辺境伯様の領地から連れて来なくてもよかったのではないですか?」
「あ、全部わかってないんだ~。フフン♪」
「「もったいぶらないでくださいよ~」」
2人をからかっていたらエステルに諭されたので、フィリップは渋々語る。
「確かに帝国の半分もあれば、人は大量に集まるよ。でも、ここの人、体調はどう見えた?」
「そうですね……みんな細かったです」
「体調悪そうでしたね」
「そんな人に、行軍や炊き出しは厳しくな~い?」
「あっ! 世話係でしたか!!」
「そそ。それと、各地の声を届けないといけないから、ちょっとずつ足してたんだよ」
「「ほへ~」」
イーダとマルタは作戦には納得したようだけど、納得できないことはあるらしい。
「いまだに殿下が賢いことが信じられません」
「エステル様の入れ知恵じゃないのですか?」
「ひどっ!? 全部、僕が考えてるんだよ! ね? えっちゃん!?」
フィリップがエステルに泣き付くが、エステルは悪い顔で笑ってる。
「殿下、噓はいけませんことよ。全てわたくしが考えたことですわ」
「「やっぱり~」」
「えっちゃんがそんなこと言ったら、2人が信じちゃうだろ~」
「オホホホホ~」
「笑ってないで訂正してよ~~~」
エステルが手柄を横取りするので、フィリップも泣き言。しかしこれはエステルの冗談だったらしく、あとから誤解を解こうとしていたけど時すでに遅し。
「殿下を立てようとしているのですね!」
「エステル様、けなげです~」
「本当に違いますのよ~~~」
イーダとマルタは、エステルがやったことだと信じ切ってしまうのであったとさ。
エステルが何度も謝罪し、ウッラにも協力してもらってフィリップの機嫌を取り、朝になったら皇帝抗議隊は元気よく前進。いくつもの町で抗議者を大量に増やして進めば、帝都までおよそ3分の1までの距離に到着した。
ここでも演説をして大量に抗議者を増やしたら、町の外で大規模な炊き出し。ここまで人数が増えると、町の隣にもうひとつ町が生まれたかのように見える。
フィリップたち高貴な者は、高級宿屋や普通の宿屋に散り散りに入り、そこで夕食にしていたら、連れて来ていた執事がホーコンに耳打ちし、次にホーコンがフィリップに伝言していた。
けっこうな情報だったけど、対策はディナーのあとで。エステルとフィリップの部屋に、詳しい話を聞いたホーコンが訪ねて来て話をする。
「それで……規模はどれぐらいだって?」
「多くて二千ほどらしいです」
「アハハ。それっぽっちか。それともよく集めたと言うべきかな?」
「どちらにも取れるでしょうな。わははは」
この話は、先行して進んでいた広報部隊が軍隊を確認したと早馬で知らせたこと。フィリップもホーコンもたいした数ではないので笑っているのだ。
「んじゃ、作戦はね~……」
一通り笑ったら、作戦会議。全てフィリップが決めて、派閥の者への指示はホーコン任せ。早めに就寝するフィリップであっ……
「しまった!? あの2人の前でやればよかった!?」
「もう遅いですわね。今頃イーダたちの耳に入っていますわよ」
「そんな~~~」
自分の賢さをイーダとマルタに教えるチャンスを棒に振ったフィリップは、エステルの胸に顔をグリグリ押し付けて眠るのであったとさ。
翌日、皇帝抗議隊が前進した夕方前、勧誘予定の宿場町の前には、およそ二千人の武装した兵士が陣を敷いていたのであった……




