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第二十話「駆け抜ける日々」


 試験まで二か月と少し。中間が発表されたときよりも猶予があるが、油断もサボりもせず、塁はひたすらにラップへ打ち込んでいた。


 参加者はまた一人減ったらしい。これで残ったのは十三人前後と、もう少しで三分の一に王手をかける。従来なら塁も脱落候補だったが、今の彼を見て脱落しそうだと思う人はいないだろう。


「踏んだライム、振ったダイス、回数よりもバイブスとライフ、咲き乱れるエーデルワイス」

「ええやん本井君。吹っ切れたようやな」

「レレラ先生」


 レレラが参加者一人一人を見て回っていて、塁の順番がやって来たようだ。


「韻が固いうえに意味も通っとる。これを全体で意味を崩さへんように気い付けてや。ああ、あと塁君のスタイル上フロウが表に出ぇへんのは知っとるけど、リズムキープだけは注意やで」

「はい」


 指摘も前より具体的になった気がする。前は気持ちの問題のせいで技術的な問題を確認することが出

来なかったのだろう。問題を治せばまた一つ成長出来る、そんな向上心が塁には生まれていた。


「先生質問があるんですが、いいですか?」


 「勿論」と腕を広げて受け止めるという姿勢を伝えてくるレレラ。塁は苦笑いをし、口を開く。


「沖元さんに僕たちを引き合わせるようにお願いしたのってレレラ先生ですよね?」

「どうしてそう思ったん?」

「僕たちの事情を知っていて、協力してくれそうな人はレレラ先生以外いないので」


 沖元さんが影で僕たちの様子を確認していたという線は残っているが、確認しようが無い。塁が知らない第三者の仕業だったとしたら、誰か知りませんでどうしようも無い。


 存在を知っていて、助けてくれていそうな人物。消去法であったが、レレラが助けてくれていたという塁の願いも混じっていた。


「正解……やけど満点はあげられへんな」

「え? どういうことですか?」

「見えへんところで本井君と萩口君のことを思ってくれとる人がおるってことよ」


 面白がっているのか、ニヤニヤとレレラは笑う。塁は誰なのか想像してみるが、目星は付かず、僕の負けだと両手を上げた。


「……ところで本井君は犯人を捜して何がしたかったん? 文句でもぶつけるつもり?」

「まさか」


 そんなことあるか、と大胆に否定する塁。


「お礼を言いたかったんです。本当にありがとうございました」


 これだけを伝えたかった。誰が関わっていてもいい。恭斗と引き合わせてくれた機会を作ってくれた全員に、お礼が言いたかった。


「どういたしまして」

「裏で見守ってくれた人にもお礼を伝えてください」

「もちのろんやで。今日中に連絡しとくわ」


 レレラはスマホをポケットから取り出し、直ぐに入れ直す仕草をした。


 そして笑い合う。苦笑いでも、愛想笑いでも、嘲笑でもでもない。この場を祝福して、ただ笑い合った。


「……ほんまに良い顔になったなー」


 感慨深そうな顔で言われる。声にも思いが宿っていた。


「それ恭斗にも言われました」

「見違えるほどちゃうからな」


 僕は、確かに変わった。自分でも別人のように思える。もしかしたら異世界からやって来た魂に乗り移られたのかもしれない。それでもいいと思う。何であれ、謙遜するつもりは無いし、驕るつもりもない。ラップとみんなに感謝して、精進するのみ。


「悲しい顔してていい人なんていひん。みんな笑顔になって欲しいって常に思うとる。せやから俺はマイクを持つ。俺のラップでみんなを笑顔にさせるんや」


 悠然とレレラは言った。そして彼が有言実行していることを、塁は知っている。


――最大のリスペクトを。


「君たちのラップであの人を笑顔にさせてやれ。俺は常に見守っとるで」


 恭斗とグループを組めたことを報告しなければいけない相手がまだ居る。初日からずっと傍で助けてくれた、親友を忘れてはいけない。


「それじゃあ組めたんですね!」

「ああ」

「良かったです……本当に……」


 へにゃへにゃと倒れ込む蒼陽を、急いで駆け寄り支える塁。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。ただホッとして力が抜けちゃって」


 顔色を伺う。悪そうには見えない。どうやら本当に体調が悪いわけでは無いらしい。


 感謝を伝えるべき相手がまだ居た。


「僕のこと、想ってくれててありがとうな、蒼陽」


 蒼陽は塁に寄り掛かったまま塁の顔を見上げ、


「いえいえ。お互い様ですよ」


 最高の笑顔をした。













 授業後は出来るだけ恭斗の家に集まることにした。


 組むというのは、当たり前だが一人じゃない。自分が失敗したら、全員で責任を負うことになる。グループが大きくなったのが会社や組織だ。縛られて動けなくなるのは避けるとしても、無視して他人を鑑みないのは最悪の行動だと言える。


 最終試験までの時間を有意義に使いたい。放課後のこの時間は、二人の溝を埋めるために作られたのだ。


 体を寄せ合う二人。恭斗はパソコンとにらめっこしていて、塁はビートの試聴をしている。最終試験では、中間試験のように提供された複数のビートの中から選ぶ他、各自でビートを持参する形も取れるようになった。その為塁は、手頃で良さそうなビートを探しているのだ。


「塁、これどっちがいいと思う?」


 偶々音が流れていないタイミングだったため、聞き取ることが出来た。塁はイヤホンを外す。


「なにをー?」

「『涙の数だけ強くなれる。嵐の数だけ向こうが見える』ってのと、『探し当てたmy homie、仲間が大事i know it』」


 リリックの相談だった。一個目の方は乗り越えてきた過去を表し、二個目の方は掴んだ現在を表しているようだ。


「うーん……後者の方が良い気もするけど……しっくりこないんだったら、新しいの考えた方がいいんじゃない?」

「そうするか……フックはどうするんだっけか」

「二人でやるんだから、それぞれのパートを用意する形でいいと思うけど」

「分かった。取り合えず八から十六小節ずつってことでいいんだよな?」

「そうだね。フックが曲の印象を左右するんだから、降りてくるまで放置で」


 少しでも認識ずれを減らすために、細かいことでも擦り合わせをすることに決めていた。


 元々相性が良かったのか、今のところ対立や言い争いは起きていない。組めたのに相性で解散……なんて笑えない。


 ふと、視線を恭斗に向ける。すると向こうは既に塁を見ていた。


「なあ塁」

「どうした。進みが悪いか?」


 恭斗は首を横に振った。


「俺と組んで、良かったと思うか?」


 何を言い出しかと思えば。当たり前だろ、なんて綺麗ごとは言わない。


「まだ一緒に舞台上がっていないんだぞ? 決められるかこの段階で」

「……確かにな」


 納得したのか、恭斗は頷いてパソコンに戻る。塁もビート探しに戻った。


 カタカタカタ……。


 暗く狭い空間の中で、キーボードを押す音とクリック音だけが鳴る。


 時間は過ぎていく。けれど焦りは無い。


 何故なら二人は最強のパートナーを見つけたのだから。


 最終試験までの約二か月の期間は、あっという間に過ぎ去って行った。




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