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ゆきの手  作者: 葉野亜依
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 空を仰ぐと灰色の雲で覆われていた。冬特有の分厚い雲だ。そういえば、今日は雪が降るかもしれないと天気予報で言っていた気がする。

 吐く息は真っ白で、体が震えるほど寒い。野外にいるのだから、当たり前と言えば当たり前か。


「それで、いつまでそうしているつもり?」

「……だって」


 隣にいる彼女――ゆきに訊ねると、ずずず、と盛大に鼻を啜る音が聞こえてきた。

 仮にも彼氏である僕の目の前でそんなことをするのはいかがなものかと思うが、僕たちの間に遠慮なんてものは最早ないに等しい。

 話すだけで、目を合わせるだけで、顔を赤くしていたあの初々しくて可愛らしいゆきは何処へ行ってしまったのだろう……いや、今も可愛らしいことに変わりはないけど。


 とまあ、惚気はさて置き。

 真っ白なコートを身に纏っているゆきは、小さく震えていた。でも、それは寒いからではない。

 ゆきは寒さに滅法強く、今日も薄手のコートを着ているだけで、手袋もマフラーもしていない。

 手も首元も見ていて寒そうだが、本人は全くもって平気らしい。

 寧ろ、「コートがなくても平気だよ」なんてことも言い出す始末だ。実際にそうなのだが、流石にそれは止めた。

 ゆきを見ていると、厚手のコートを着てマフラーもして防寒対策ばっちりの自分が少々情けなく思えてくる。寒さに強いゆきに対して、僕は寒いのは苦手なのだ。


 とまあ、僕のことはどうでもよくて。

 寒さのせいじゃないとしたら、何故ゆきは震えているのか。

 答えはいたって簡単。

 ゆきは泣いているからだ。

 先程の鼻を啜る音は、泣いているが故の音である。

 ゆきの美しい瞳から涙がぽろりと零れ落ちていく。涙は薄い結晶となって彼女を煌めかせた。

 その光景を美しいと思っている僕は不謹慎だろうか。


 因みに、先に言っておくが、僕がゆきを泣かせた訳ではない。

 僕はゆきを泣かせるようなことはしない……などと、かっこよく言い切れたらいいのだけど、悲しきことかな、前科があるので断定することはできない。

 だけど、今回は違う。

 それじゃあ、誰のせいか。

 それを答えるのはなかなか難しい。

 些か語弊がある言い方なのだけれども。強いて言うとするならば、「ゆきが冷たいから」だろう。

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