収穫祭
収穫祭当日、ポーン、ポーンと青く澄み渡った秋の空に祝福の花火が上がる。
最高のパレード日和だ。
出発前のセレモニーは王宮の前庭に設けられた広場で行われる。
国民から抽選で選ばれた人々が広場に集まっていた。
王族用に作られた台座の両側に、パレード用の馬車が控えていた。
稲穂とカボチャの馬車は意外だったらしく、皆驚いて見ていた。
アレスとジークは先に広場に出て、来賓の貴族達から祝福の挨拶を受けていた。
昨夜の出来事以来、アレスは王太子とかなり親しくなっていた。今もアレスの横に王太子がいる。その横にはもちろんエオリカが憑いていた。
王太子の接待役を任されているユリウスは、王太子妃の後ろに立っていた。王太子妃を残してアレスの側に留まっている王太子を、アレスとどうして親しくなったのか不思議に思って見ていた。昨夜パーティの途中で王太子とアレスとシアは広間からしばらく消えていた、その間に何かあったとユリウスは疑っていた。
明日には王太子夫妻も帰国の途につかれる。国境まで送り届けるまでがユリウスの仕事だ。全てが終わった後にアレスに確認することにして、今は黙っていることにした。
アレスは太子妃の後ろに控えているユリウスを見ていたら、刺すような視線を感じた。ユリウスを見るふりをして視線を動かすと、王太子妃がアレスを見ていた。どうやら王太子妃から嫌われているようだ。冷たい目でアレスを見ている。王太子妃はアレスと目が合いそうになった途端目を逸らした。
王太子妃バーベラ。おとなしそうな外見をしているが、どうやらそうではない様だとアレスは思った。父親はグランダル国の大臣と聞いている。
アレスと王太子妃の接点はない。昨夜王太子と広間を抜ける時にバーベラ妃を誘わなかったことを怒っているのだろうか。それにしてもあの視線は・・・。
初めて顔合わせしたときの、王太子夫妻を思い出す。
二人の到着を迎えに出たアレスを一目見た王太子夫妻はとても驚いた顔をしていた。
「ルーチェルアーナにとてもよく似ているので驚きました」と言う王太子とバーベラ妃の言葉に納得していたが、昨夜エオリカに会った後、「アレスは顔はルチア様にも似ているけれど、よりエオリカ様に似ている」とシアが言っていたのを思い出す。
「何処がどう似てる?」と聞いたら、全体的な雰囲気と目が似ていると教えてくれた。
ヴルもルーチェもシンもシアの意見に同意したように頷いていた。
アレスはエオリカが自分に似てるとは思えなかった。何故ならエオリカは人を引きつける独特の魅力を持っているように感じたからだ。アレスは自分に人を引きつける魅力があるとは思わなかった。
グランダル王国でエオリカが表に出ることはなかったと聞いている。もしかしてグランダル国王は国民がエオリカの魅力を知ったら、エオリカを女王として立てようと言う声が挙がるのを恐れたのかも知れない。せっかく手に入れた国王の称号を手放したくなかったのかもしれないと考えた。
そんな不敬な事を考えていると、またバーベラ妃が冷たい目でアレスを見ているのに気が付いた。アレスは気付かないふりをして王太子から離れて、王族の席として用意された壇上に昇り、シアの来るのを待った。
ブライダム公爵夫妻とシアの来城が伝えられる。
シアがブライダム公爵夫妻と共に広場に現れた。母ルチアが残した花嫁衣装をアレンジしたドレス着ている。
白地に金と銀の刺繍が施されたドレスに、薄いピンクやブルーの色味が加えられている。シアの銀の髪と瞳の色に会わせているのだろう、とても似合っていた。
広場にいる誰よりもシアは輝いて見えた。
アレスは見間違いではないかと一瞬目を疑ったくらいだ。
『姫さん、綺麗やな』『シア、素敵!』『美しい!』
精霊達の声に雑じって、宮城内の人々から感嘆のため息が漏れるのが感じられた。
アレスは王族の席の高い段から降りてシアを迎えに行った。
公爵夫妻に挨拶をして、シアの手を取り席まで案内する。
近くに寄るといつものシアだった。目の下の隈を上手く化粧で誤魔化していた。
「シア、今日も綺麗だけど、夕べは眠れなかったの」と耳元で囁く。
端から見れば、恋人に囁いているように見える様だ。周りから祝福の声が上がった。
「実は、王太子様にあげる薬の代わりになる物はないかとウルルのノートを見ていたら、面白いものが色々載っていて、それを作っていたら、また徹夜をしてしまったの。朝からお婆さまから叱られてしまったわ」と悪びれる様子もなくそっと教えてくれた。
まったく恋人同士の会話ではない。
「へえ、何を作ったの?」
「ここでは出せないわ。パレードの馬車の中で見せるわ」
「それは楽しみだ」
二人でこそこそ話しながら席に着く。
国王の席を挟んだ向こうに、マーガレットをエスコートしたジークも着席した。
合図が鳴り響き、国王陛下の来場を告げた。
広場のざわめきが消えた。
国王は席に着くと、王宮前の広場に集まっている民衆に、今年の豊作を喜ぶと共に、王子達とその婚約者二人を紹介した。
大歓声が上がる。
大歓声の中、王子達はそれぞれの馬車に乗った。
きらびやかな稲穂の模様の馬車と、カボチャの馬車だ。どちらも屋根はなくオープンになっている。
馬車は右からのコースと左からのコースに別れ、王都内を一周して王宮に戻ってくる様になっていた。
二つの馬車が交差する中間点に特設お祭り広場が作られていて、そこに集まった人々にも二人の婚約者をお披露目をするステージが設けられていた。
アレスのコースは王宮の丘を降りてから人通りの多い街中を通り中間点に行き、そこから少し街中を通り王宮の森の道から丘に出る右のコースで、ジークはその反対で、王宮の丘から森の道を通って中間点に向かい、最後に街中を通る左のコースを進むようになっていた。
長い時間大勢の人に楽しんで貰いたいという、国王と二妃の計らいで、二つのコースになったらしい。
ジークは最後に喝采を浴びながら王宮に戻りたいと、街中を後から通るコースを選んだ。アレスはどっちでも良かったのでそれで了承した。
アレスの馬車には、警護として王直属の近衛隊が周りを囲っていた。
ラウルとコーデリアも従者と侍女の衣装を着けて馬車に同乗していた。
ジークの馬車にはミータラント侯爵夫人が内軍の精鋭をつけたようだ。
国王としては、どちらも近衛隊を付ける予定だったが、侯爵夫人が二妃に近衛隊は頼りにならないと言ったらしく、ジークは内軍に任せることにしたらしい。
近衛隊も優秀な人材が集まっているのに・・・と国王はアレスに愚痴をこぼした。
馬車に乗り込むときヴルが警戒するように声をかけた。
『アレス、気いつけや、上空にくせ者がおる』
アレスは気付かれないように上空を見上げる。キラリと光るものが見えた。アレスの目は常人よりもかなり遠くのものが見える。
かなり上空を人が飛んでいた。以前山で見かけた者達と同じ飛び方をしている。
アレスの様子に気付いたシアは、ラウルとコーデリアに合図した。ラウルとコーデリアは、アレスとシアの護衛をするにあたり、事前に『千里眼』と『地獄耳』のポーションを飲んでいるらしい。アレスが見上げている場所に焦点を合わせた。
「二人見えますね」とラウル。
「何か話しています。パレード後半が何とかと言っているようです」とコーデリアがラウルの言葉の後に続けた。
話しの内容とは裏腹に、二人の表情は周りに異常を悟られないよう、空を見上げてお天気の話しでもしているようににこやかだった。
馬車にはアレスのシールド魔法がかけられているので、外に会話が漏れることはなかった。
「どうやら狙いは俺たちみたいだな。俺とシアの事は心配するな。二人は周りの人に被害がおよばないよう注意してくれ」
アレスも楽しげな表情で、ラウルとコーデリアにそう指示を出した。そして、馭者に馬車を走らせるよう合図をした。
アレス達の馬車は人通りの多い街中に入った。シアも最近は微笑むコツを掴んだみたいで、表面上は微笑んで居た。
沿道の人々には微笑んで手を振っているように見えるのだろう。シアに見とれている者もいた。
「この表情は結構疲れるのよ」と先日鏡を見ながら、口角をあげる練習していたのを知っているアレスは、沿道の人々は完全に騙されていると思ったら、思わず吹き出しそうになった。
そんな心の声が聞こえたのか、シアが横目でチラッとアレスを見た。
アレスは気付かないふりをして、沿道の人々に手を振る。
お祝いの人波は中間点に着くまで途切れなかった。
中間点の広場に着くと、ジークの馬車はもう着いていた。街中に入るまで人波を通らなかった分早かったようだ。
アレスはジーク達と合流して、広場のステージに上がり、それぞれの婚約者を集まった人々に紹介した。
人々は「おめでとう!」「バンザイ!」の大歓声で二人の王子と婚約者達を祝福した。
少しの休憩の後、それぞれの馬車に乗り込んで再び出発した。
アレスは気付かれないように、馬車の防御シールドを先頭の馬から後方までに広げた。上空からの攻撃がどのようなものか想像出来ない以上、防御は大きく取った方が良いと考えた。
街中を抜けて森の入り口に差し掛かった頃、ラウルが「木の上に居ます」と緊張した声で告げた。
この森を抜けると王宮のある丘の道に出る。丘に出ると、上空にいたとしても目につく。狙うとしたら森の近辺だと思っていた。上空からだと木が邪魔で狙えないと思っていたが、どうやら木の上に隠れているらしい。
森の入り口に差し掛かった。
防御シールドに何かが当った。水滴の様だった。木の間から水滴が雨のように降ってくる。馬車の隊列はシールドで守られているので水滴が入ってくることは無かったが、シールドの外で水滴が当った木や草がジュッと黒く焦げた。
「毒だわ」とシアが言った。
異常に気が付いた近衛隊の先頭が止った。
「シールドの外に出るな。あの水滴は毒だ!」とアレスが叫ぶ。
近衛隊の隊長はアレスの言葉にしたがい、動かずにその場に留まった。
アレスは木の上の襲撃者を見た。目が合ったとたんアレスの目が光る。竜魔法の金縛りを掛ける。魔法を受けた襲撃者は急に動きを止めて落ちてきた。
「アレス殿下、毒の上に落ちますが宜しいのですか?」とラウルが聞いた。
「大丈夫だろう。散布するくらいだから解毒剤くらい服用しているだろう」
「ダメです。吸引した薬物の解毒作用はあるかも知れませんけど、この毒は皮膚に付くと爛れる性質のようです。落ちたら確実に死にます」と慌てたようにシアが言った。
アレスは落ちてくる襲撃者を魔法で受け止めて、そっとシールドの中に引き入れた。二人は気を失っていた。持っていた毒はあらかた散布したようで、瓶の中にはほとんど残っていなかった。
近衛隊長が来る前に、シアは隊長からは見えない位置で、手際よく毒の瓶に残った薬剤を少量スポイドで取って小さな瓶に入れた。その小さな瓶をポシェットにしまうと、ラウルに毒が少し残っている瓶を王宮に持って帰るよう指示していた。揮発性だったら困るので、瓶の栓はしっかり閉めるようにと言った。
それから、シアは襲撃者二人の服の袖をまくり何かをしていた。
近衛隊長が近くに来て「何をされているのですか?」と険しい声で聞いた。
「毒で火傷をしていないかみてたの」とシアが素っ気なく答えた。
近衛隊長は意外な顔でシアを見た。
「私は回復魔法を使えるので、簡単な火傷だったら直せると思ったのだけど、彼らに火傷はなかったわ」
近衛隊長はシアの話しを信じたようだった。
アレスはシアに何をしたか聞きたかったが、近衛隊長が興味深そうにシアを見ていたので、これ以上興味を持たれないよう、早々に襲撃者を連れて王宮に帰るように近衛隊長に指示をした。ただし来賓に気付かれないよう秘密裏に行うこととし、戻ったらまず賊を地下牢に入れ、事の次第を国王にだけ報告するようにと伝えた。
隊長と一名の近衛兵が襲撃者をそれぞれの馬に乗せて王宮に向かった。
アレスは残った近衛隊に馬車を出すように命じた。
馬車が動き出してからシアに聞いた。
「さっきは何をしていたの?」
「解毒剤を注入したのよ」とシアは言った。
「注入?」
聞き慣れない言葉にアレスは眉をひそめた。
「ウルルのノートに針を使った毒の使い方が書いてあったの。毒を飲まされたら口から解毒剤を取るのは難しいでしょう。指から入る毒もあるから、少し応用して解毒剤を手から注入する方法を考えたのよ」
シアは数ミリほどの短い針が数本付いた瓶をみせた。
「これは便利なのよ。ラウルとコーデリアが今日使っている『千里眼』と『地獄耳』も飲まずにこの針を使った容器で試してみたのよ」
「なるほど、シアが昨夜寝ずに研究していたのはこれか」
「あら、違うわ。王太子様にこれを作っていたのよ」
シアはポシェットからケースに入った眼鏡を取り出した。
「その眼鏡はお土産用に用意していた眼鏡だよね」
アレスとシアは王太子夫妻に個人的にお土産用として、シュタルト国の特殊加工をした眼鏡を渡すことを考えていた。シアが取り出したのはその眼鏡だった。
「見えない物が見える眼鏡」
自信作なのだろう、得意そうな顔をしてる。
「昨日のポーションのように見えるの?」
「そうよ。飲み薬だと限界があるでしょう。この眼鏡は王太子様専用に特別なレンズと入れ替えたの。他の人が掛けたら普通の眼鏡でしかないわ。」
「へえ、すごいな。きっと喜ばれると思うよ」
アレスは眼鏡を手に取り、感嘆しながらシアを見た。
「ノートに特別なレンズの作り方が書いてあったと言うことは、ウルル様はエオリカ様が見えていたのではないかしら」
「それだったら、どうして自分で作って王太子にあげなかったのだろう」
「ウルルはルチア様の乳母としてお城にいたかも知れないけれど、王太子様とお話しをすることはなかったのではないかしら。それと、少し気になることもあるの」
シアの眉間に淑女らしからぬ皺がよった。
「気になること?」
「ええ、先日王太子様に挨拶した時、王太子妃のバーベラ様から毒の気配がしたの」
「えっ」とアレスは驚いた。
「飲んだとかそう言うのではないのよ。毒を調合している人独特の匂いがしたのよ。香水でとても上手に隠していたけれど間違いないと思うわ」
「シアはこの襲撃は王太子妃が怪しいと思っているの」
「そうでなければ良いのだけれど、あの方がアレスを見る視線が気になるの」
「それは俺も気になっていた。しかし、疑うのはどうかな・・・」
「そうなのよね・・・」
「王太子も明日には国に帰られる、それまでの辛抱と考えよう」
シアまで王太子妃の視線に気が付いていたとは、どれだけ見られていたのだろう。しかし、明日には国に帰られる。今回の事以外に仕掛けてくることはないだろうとアレスは思った。
「それともうひとつ、王太子様からも毒の匂いがしたわ」
「おい、おいシア」
王太子までもかと思うと、アレスは勘弁して欲しいと思った。
「違うの、王太子様は呼吸から微かに匂っていた。たぶん薄くした毒を長いこと飲まされているみたい」
「それなら、俺も毒に耐性を付けるために時々飲むことがあるから、それじゃないかな」
「あの匂いは耐性を作るための毒ではないわ。身体に蓄積させて破壊させる毒の匂い・・・の様な気がする」
「では、王太子妃が王太子を殺そうとしていると言うのか」
「王太子妃がとは言えない。もしかしたら、王太子の状態に疑問をもった王太子妃が解毒剤を作るために毒草を調合しているかも知れない。今は何とも言えないわ。ただ」
「ただ?」
「さっき降ってきた毒は王太子妃が作ったと思う」
シアはきっぱり言い切った。
襲撃者に襲われるという出来事で少し手間取ったが、カボチャの馬車は無事王宮に戻った。
アレスが襲われたことは、国王に伝えられただけで、公にはなっていなかった。
襲撃者は誰にも気付かれることなく近衛兵によって地下牢に入れられたようだ。
ジークの馬車が沿道の人だかりを通って来たからだろう15分遅れて戻って来た。
二人とも嬉しそうな顔をしている。何事も無く無事で良かったとアレスは思った。
パレードの後、休憩を挟んで午餐会が開かれた。
大広間に並べられたテーブルに席順が決められており、それぞれのテーブルで食事を取ることになった。
アレスは大勢での食事の場所にはなるべく出席したく無かったのだが、今日はアレスとジークの為に開かれているので欠席できなかった。
食事が終り、人の波が散っていく。
アレスはシアと談話室に向かった。
王太子が二人の元に訪れた。たぶん、例の『見えない物が見える薬』を所望なのだろう。
しかし、今は王太子だけでなくバーベラ妃も一緒だった。
「アレス殿下にフローレンシア様、今日は本当におめでとうございます」
バーベラ妃はにっこりと微笑む。
「ありがとうございます」
「パレードは如何でしたか?」
探りを入れているのだろうか。
「特に変わったこともなく、楽しいパレードでした」
変わったことがなかったことが気になったのだろうか、バーベラの表情が微かに動いた気がしたが、すぐに微笑んだ表情に戻った。
「そうですか。それはよろしかったこと」
そこでシアがポシェットから眼鏡ケースを出して、その中を見せた。
「王太子様、差し出がましいとは思ったのですが、アレス殿下と私から個人的にお土産を用意させていただきました。この国の技術を使って作りました眼鏡です。使っていただけると嬉しいのですが」
眼鏡は王太子の髪の色に合わせて、ホワイトゴールドで出来ていた。耳を掛けるところには目立たないけれど緻密な模様が描かれている。
突然のお土産に王太子は意外な顔をしたが、「ありがとう」と受け取った。
「掛けても良いですか?」
「「是非掛けて下さい」」
アレスとシアが同時に言った。
王太子は眼鏡を掛けた。
「!」
掛けた途端、目の前にエオリカが見えたのだろう。一瞬瞠目したが、「これはすごい、よく見えるよ。ありがとう」と喜んだ。
「そんなによく見えますの?」
バーベラ妃が横からスッと手を出して、王太子から眼鏡を奪った。
王太子は慌てて止めようとしたが、シアの口元が「大丈夫です」と動いたので、バーベラのしたいようにさせた。
眼鏡を掛けたバーベラは「それほどでは無いわ」と不満そうに言った。
「それは王太子様の年齢に合わせて作った物だからですわ。バーベラ様にも用意してありますの」
シアはポシェットからもう一つケースを取り出す。
ケースの中は片手で持つ婦人用の眼鏡が入っていた。
バーベラは驚いていたが、手に取って眼鏡を目に当てた。
「とてもよく見えますわ!」
バーベラは思ったより良く見えたのだろう、嬉しそうに呟いた。
「喜んでいただけてよかったですわ」
王太子は「書類を見たり、本を読むときに使わせて貰うよ。ありがとう」と言い、バーベラも「これだったら目立ちませんし助かりますわ」と喜んだ。
王太子とバーベラ妃は、同じ細工模様の色違いのペアケースにそれぞれの眼鏡をしまって、満足したようにアレスとシアにお礼を言った。
シアはにっこりと微笑みかえした。
そこへ国王の従者が、アレスとシアを呼びに来た。
アレスは王太子とバーベラ妃に暇の挨拶をすると、シアを連れてその場を離れた。