プロローグ
オーガスト国の王城の最上階に立ち、王と王妃は遙か山の向こうにある東の隣国に思いをはせた。
ほんの数時間前、友好国と思われていた西の国から突然攻め込まれた。
突然の出来事に、防衛の準備が整わぬまま、防御壁を突破されてしまった。
敵はすぐそこまで来ていた。
半時もしたら城に敵兵が入ってくるだろう。
王妃は東の隣国の友人に手紙を書いた。
手紙は魔法で小鳥の姿に変えて空に飛ばした。
飛んでいく小鳥を姿が見えなくなるまで見送ると、王と王妃は最後の仕事をするために下に降りていった。
オーガスト国から国境の高い山を越えた東の国シュタルト国の西の端、辺境地の教会では、サミエル・クロード・ライト伯爵の結婚式が行われていた。
新妻を迎えたライト伯爵が教会を出て領民の前に姿を現した。
人々は口々にお祝いの言葉を叫んでいた。
その時、伝令と思われる兵が、慌てた様子で伯爵に近づいた。
伝令は、隣国のオーガスト国が西のローダン国に攻め込まれたというニュースを告げた。
祝福に集まった人々の間に動揺が走る。
その時、新妻の肩に一羽の小鳥が飛んできた。
小鳥は肩にとまった瞬間に一枚の紙になった。
新妻はそれを拾い読んだ。そして慌ててドレスの中に隠した。
それは隣国のニュースで慌てる人々の目には映らなかった。
人々が国境の高い山を不安な顔で見上げたとき、ズドーンと大きな地響きと共に地面が揺れ、山の向こう側の上空に赤い閃光が光ったのが見えた。
赤い光は、遠く離れたシュタルト国の王都でも確認された。