少女なオレと鎧の魔物⑤
※この小説は不定期更新です。
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「また君か…背後に立つのが好きなのか?」
「黙りなさい。 質問は二つ、何用でここにいるのですか。もう一つ、貴方は何故に魔物と戦っているのかです」
振り返ると案の定、昨日のお昼に出会った魔法少女がそこに立っていた。
服装も昨日と変わっていないため、左足が丸見えのバトルドレスが彼女の衣装なのだろう。
その健康的な御御足に目が吸い寄せられるので変えて欲しい。
………いかん思考が変態方向に振り切っていた。いやはや、深夜テンションというものは怖いものだ。
「? なんですか、私の服に何かついてます?」
そう言いながら、彼女は腰を左右に回して身だしなみの確認を行った。
オレがいうのもなんだが、魔物を前にして緊張感がなさ過ぎなのではないだろうか。
「い、いやなんにもない」
御御足を眺めさせて頂いていましたなどと言えるわけもなく、ありきたりな返事をしてしまった。
だが最初にどまついてしまうのはコミュ障故だろうか。
それはさておき、彼女からの質問に答えなければいけない。
ここになんで居るのかとの質問は帰り道だからとしか言えない。だってそれしか理由がないのだから。
ここで再びロールプレイを興じてみるのも面白そうだが、そんな無駄な時間を過ごしたくないのがオレの考えだ。確かに彼女をおちょくって反応を愉しむのも一興、しかし眠いのだ。昼間から疲れる日常を送ったのに仮眠はたったの2時間程度、しかもエルフとか言う謎の不審者がいたせいで結局疲れは取れずに溜まる一方であった。本当になんなんだろうか今日は、魔物に襲われるわ、魔法少女に襲われるわ、不審者が現れるわ、挙げ句の果てに魔物になったと思ったらTSしてるわ。濃すぎなのではなかろうか。
今どきラノベの主人公でも………居そうだな。特に異世界ものや不幸系ならもっと酷い目に遭ってるのたくさんあったな。
ちょっと悲劇の主人公的感じになっていたがオレはまだまだのようだ。すまんな本物たちよ。
それよりも、今目の前にいる少女への対応を考えなければならない。
昨日の昼と同様に背後に立ってこちらを睨んでいるのは変わりない。ただ変わっているのは、透明の剣を持っていないというところだろうか。あとは…落ち着いている? 昨日と比べたら呼吸も穏やかだ。いや、隈が出ているから疲れているだけかもしれない。
はっきりとは彼女の状態が見えないから断言はできないのだが、ひとまずは昼間の頃よりかは話が通じそうだ。
「答えてください。…何用でここにいるのですか。そして、貴方は何故に魔物と戦っているのですか。ふざけた答えだった場合貴方を沈めます」
訂正、やっぱり話通じなそうだし怖いわこの娘。
なんだよ沈めますって、現実で初めて聞いたわそんな台詞。アレか、さては漫画やドラマで見たセリフを使いたくなっちゃう系の子か。それはそれで愛嬌があるが魔法少女なら冗談抜きでできそうだから怖いのだ。
いくらオレが真面目に家に帰っている途中だと答えても、「ふざけているのですか?」と返されるのが目に見えている。
ではどう返事をしようか。
案一としては、素直に帰ると告げること。この場合に想像できる返答は「ふざけているのですか?」もしくは「どこにありますか?」のどちらかだろう。
案二は、今すぐに踵を返して逃げ出す。これは確実に追いかけて来るだろうが先の戦闘からこの体は身体能力というべきか、動きがとても速い。なんらかに注目させた後に駆け出せば逃げることは可能だろう。ただ気がかりがあるとすれば、彼女が魔法少女であり身体能力が一般人と比べるべくもないという点だろうか。
そして案三としては、適当な言葉を並べて帰宅すること。これこそバレたら沈められるだろうが、もっとも安全な策でもある。
オレ的にはこの体のスペックの検証を含めて案二を採用したいのだが、もし追いつかれたらそれは面倒だ。絶対に戦闘に発展するだろう。
では何を選択するかというと案三にしようと思う。理由としては、案一の場合、先の体験があるからすぐには帰ることができないと予想できる。そして案二は戦闘につながる恐れがあるので却下。つまりただの消去法である。
「どうかしましたか?まさかまた逃げる気ですか?」
そう彼女はいうと、いつの間にか透明な剣を両手で持っていた。
これは早めに行動に移さなければまた襲いかかって来るだろう。
「ここにいるのは散歩だよ。夜中に歩きたくなってな、そしたら君と遭遇してしまっただけだ、深い事情とかはない。そして魔物と戦う理由は…敵だからだな。それ以外には、ない」
どうだろうか、散歩というのは無理があったかもしれぬが徘徊などというよりはマシだろう。…まって、普通に魔物との戦闘帰りって言ったら二個目の理由とも繋がるしそっちにすれば良かったかも。
今更後悔しようがもう遅かった。彼女は考え込むかのように顔をしたに向けて片手で耳を抑えている。
昨日もそのようなポーズで連絡していたので、おそらくは魔法省あたりに連絡しているのだろう。
2分ほど待っていると、彼女がすっと頭を上げた。
「時間はありますか?魔法省まで同行願います」
「無理だな。…あっ」
思わず即答してしまったことに冷や汗が出る。
短い付き合いだが彼女の性格はなんとなくは読めている。
クソ真面目。オレは彼女の性格をそう評価している。
見た目だけは魔物なオレにも敬語を使い、すぐに連絡ができるように小型の通信機でも持っているのだろう動き、そして時々出てくる脅しは本当に実行するかのようなまっすぐな瞳で口に出している。
彼女の台詞は魔法省にでもそうしろと言われたのであろう。そして彼女はクソ真面目な性格である。
そんな彼女の命令を思わず即答してしまったオレに向けられるのは。
「では、貴方の四肢を落としてから連行します。動かないでくださいね、痛くなりますから」
その言葉を聞いた瞬間にオレは全力で駆け出した。
後ろからは「待ちなさい!」と聞こえるが無視して全力で走る。
今のは怖かった。蟻の魔物と戦っている時の比でないほどに怖かった。
なんであんな台詞を淡々とした顔で発する事ができるのだろうか。しかも彼女は透明な剣を先程よりも強く握っていたのだから本当にやる気だったのだろう。
途中途中で路地に入り、彼女を巻こうとするもこちらの動きが分かっているかのようにピッタリと後ろについてくる。意図せず案二の動きとなってしまったが、最初から案二を採用していなくて良かったとつくづく思う。引き離すどころか距離を詰められているのだ。これが本職の動きかと感心していると路地からぬけ、大通りに出た。
ここからは本気で真っ直ぐ走ろうかと考え、足を止めた。
「…嘘だろ」
「鬼ごっこはもう終わりですか?では改めて…魔法省まで同行願います」
先ほどまで後ろにいたはずの彼女が目の前にいたのだ。
鎧がキィと鳴るのに気がつき足元を見ると、一歩後ろに下がっていた。
再び彼女を見ると、彼女がとても大きなものに見える。背丈は変わっていないはずなのに自分よりもとても大きな姿を幻視してしまう。
逃げても追いつかれるのはすでに分かった。
ではどうすればいい、戦うのか?だが勝てる未来がまるっきり見えてこない。
諦めて魔法省に向かったらそれはそれでゲームオーバーだ。彼女と同等な存在が多くいる本拠地の中での生存は絶望的だろう。
覚悟を決めるしかない。
彼女と戦うか、魔法省へ向かうか。どちらとも最悪な選択だ、オレが勝てる見込みは限りなく少なく、生存も絶望的。
だが、まだ希望があるとすれば彼女との一騎打ちの今だろう。
背中に腕を回し剣を引き抜く。
生きるために、逃げるために戦うのだ。
抜いた剣を彼女に向ける。
彼女は眉をピクリと動かし、次の瞬間には剣を生み出していた。
震えは……ない。
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