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暗雲低迷④

※この小説は不定期更新です。


感想・いいね・ブックマーク・評価ありがとうございます。


 ジージーと泣き喚く蝉の声だけが響き渡る。空を見上げれば汚れひとつとない晴天、後ろを振り返れば立ち昇る陽炎。灼熱の太陽ですら照らすことのできない自分が立っている場所は、まるで別世界を想像させる。


 数歩踏み出すだけで日が当たる場所に出られるというのに、その勇気が微塵も湧き出ない。けたたましいサイレンの音が聞こえただけで更に日は遠ざかっていく。


 薄暗くなっていく路地の更に奥へと足を動かしていく。土に還りつつある缶コーヒーを踏み崩し、壁伝いに広がる蜘蛛の巣を払いながらただ暗闇の中に潜んでいく。


 しかし、路地というものは無限に広がるわけではない。大抵はすぐに別の道路に抜け出すのだ。これは都会ほど顕著であり、無数に張り巡られた道路によって長い路地というものはもはや過去の遺物である。

 そんな希少な路地を、家族だろうものたちの笑い声をBGMにただ歩き続けていく。いつか終わってしまうだろうこの路地を抜けたらどうしよう、そんなことを考えながら。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 マンションに背中を擦りながら地面に広げた段ボールに座り込む。当然その小さな段ボールに当然全身が入るわけなく、足を抱え込むように座りながらこれからのことを考える。この行き止まりがまるで自分の人生のようだなと自嘲しながら。


 道路を走り抜け、戸建ての屋根を飛び渡り、追跡用のドローンを何機か墜としながらも自宅へと向かった。

 だが、やはりというべきか自宅周辺はすでに警察が大勢おり、侵入することも儘ならないだろう。しかし。この体と背中に背負っている大剣で威圧すれば入れるかもしれない。

 すでに警察に追われる身というのは病院で身をもって知っていた。そのため、これ以上に罪を重ねるのにも躊躇なく突撃することができたのだ。


 屋根からわざと道路を砕くように激しく着地し、驚きに固まっている警察たちを剣の腹で掬っては投げてを繰り返していく。当然刃が当たらないように、そして痛くならないように剣の角度を調整しながらだ。

 約5人ほどを打ち上げてから警察も動き出し、何人かはオレが打ち上げた警察たちの安否を確認するのに、1人は応援を呼ぶためか車両の中に、残った何人かはオレを取り囲もうとする。

 警察たちが声を張り上げ、懸命にも魔物であるオレの前に刺股を手に立ち塞がる。その姿は魔物に立ち塞がる勇気あるもの、まるで子供が目指すような見本的な警察官だろう。しかし、その足は小刻みに震え、刺股にも力が入りすぎてるのかカタカタと震えていた。

 その姿がなんとも可笑しく、声を出して吹き出しそうになるもやるべき目標を思い出したことによって耐えることができた。


 応援が到着する前に、前に立った警察だけを打ち上げてからベランダの窓を切って割り、中に転がり込む。最近の窓は魔物の被害もあることから、数年の間に進化を続け通常のガラスで防弾ガラス並み、高いやつを買えば魔物に体当たりされてもヒビすら入らないほどに進化しているのだ。

 うちのガラスも高い合成ガラスを使用しているため、厚く重量は重いが並大抵の魔物の攻撃なら防げるものだ。そんなガラスを一太刀で切ることができるこの剣は、やはりえぐい切れ味を持っているのだ。本当に警察へ刃を向けないように注意していてよかった。


 いや違う、今はそんなことに気を取られている暇はない。まずは目当ての銀行の通帳を回収した後に小さめのカバン、そして印鑑だけを持って今度は対角線にある窓を割って撤退する。元の窓から出ないのは警官が待機している可能性があるから、それと対角線で通ることによってただの通り道にしたと思わせるためだ。あとは来た時と同じく屋根を伝いながら逃げるだけだ。

 当然のようにドローンに追いかけたり、複数台のパトカーに追われたりと追われに追われて今に至るというわけだ。


 パトカーの音に怯え、魔法少女やヒーローの姿がちらっと見えたりしてくるためその姿にも恐怖し、少女の姿になったことで逃げてはいけているが、病院にいた警察2人にはこの姿を見られているためバレるのは時間の問題かもしれない。


 さらにはコンビニで30万下した途端に、通帳が使えませんと表示されて使えなくなったのだ。

 だから今ある手持ちは、30万と印鑑そして使えなくなった通帳とカバンだけだ。


「……少し外が落ち着いたらコンビニに弁当買いに行こ」


 グギュウという、腹の音が響き渡る。未だけたたましくなるサイレンはいつ無くなるのだろうか。早くお腹に何かを詰めたい、何かを飲みたい。ただこの思いだけが膨れ上がっていく。


「お前らはいいな、そんなの食べてもお腹壊さなくて」


 目の前に駆け出してきたネズミに対してこんなことを愚痴ることしかできない。


 こいつらのように()()()()()()()()()()()()()()()、そう願っても叶わないのは分かり切っている。嫉妬したところで何も変わらない。そんなことは今までの人生で分かり切っていたはずだ。


「暗いなぁ」


 道も、未来も、何もかもが暗い。どこまでも落ちていく。

閲覧ありがとうございます。

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