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暗い世界②

※この小説は不定期更新です。


ブックマーク・評価ありがとうございます。


「あ、えっと……お知り合いの方ですか?」


「まぁ、はい。そうですけど……え? どういう状況?」


 中身の入ったグラスを4個両手に持った咲夢ちゃんは、涙目のオレと店員さんを見て首をかしげた。

 オレのコミュ障が原因でこの場を作ってしまっているのが申し訳がないのだが、話せないので仕方がないのだ。店員ともまともに意思疎通ができない奴はくるな、とも言われそうだがそんな過激なことを言わないでほしい。お腹が空いていてついうっかり忘れていたのだ。


 そしてメニュー表を見て指を指せばいいのだが、まずメニューを見る前に店員さんが来てしまったため、その場でメニューを開くのをなんだか申し訳なく感じてしまったからだ。いや責任転嫁するわけではない。十中八九、いや九分九厘にオレが悪い。言葉に表せないのがさらに申し訳ないのだが心の中で謝らせてもらう。店員さん、全部オレが悪いです。本当にすみません。


「な、なるほど。だいたいは理解できました」


「すみません、巻き込んでしまって。私がもっと英語を勉強しておけば良かったのですが……」


 いや、オレが悪いのだ。大の大人がまともに注文すらできないコミュ力のオレが。だからその冷めきった目をやめてください咲夢さん!


「……はぁ。迷惑をかけてすみません。その人……その子だいの恥ずかしがり屋でして、私たちの席に連れて行っても大丈夫でしょうか」


「……!! もちろん大丈夫ですっ!」


 店員さんは咲夢ちゃんのこの言葉を聞き、小走りになりながら立ち去っていった。

 この場に残されたオレはというと、不穏というべきか、何とも居た堪れない雰囲気を肌でゾクゾクと感じながら鳥肌を立てていた。斜め前に立っていた咲夢ちゃんからは底冷えするような空気が発せられており、空調も聞いているはずなのに汗が止まることがなかったのである。


「お兄さん?」


「は、ハヒっ!」


 地獄の底、というにはあまりにも可愛すぎる声音。しかし、そこにはかつて聞いたことがないほどの冷たさがあり、抑揚のない声に背筋が無意識に伸びてしまう。明るい照明がいくつも点灯されてるにも関わらずに、咲夢ちゃんがいる場所だけは暗く感じてしまうのは何故だろうか。


「お兄さんは海外の方だったんですか?」


「ち、違いますね……ははは、出身は千葉県で現住所は中央区の純日本人です」


「そうですよね、私が知っているお兄さんでしたらそのはずですよね。ではなぜ先程のような状況になったのですか?」


「そ、そのですね……「まあ、お兄さんは昔からコミュニケーションが苦手でしたしね。概ねキョロキョロしていたら店員さんが注文を取りに来た。そんなところでしょう」……見ていました?」


「はい。お兄さんが入店したあたりから気が付いてましたし、なんなら店員さんとわちゃわちゃしているのもばっちり録画済みです」


 そういって徐にスマホの画面をオレに向ける咲夢ちゃん。そこには涙目のオレが綺麗に切り取られており、確かに彼女がオレに気が付いていたことの証明となっていた。

 動画が止まったのを横から顔を覗かせた咲夢ちゃんが確認すると、大事そうに胸元に抱き寄せ、ふふふと和やかに微笑んだ。先程の冷たい雰囲気はいったいどこに行ったのだろうか。


「あの、それ消してもらえないでしょうか……」


「迷惑料です」


「あ、ハイ」


 語尾に音符がついていそうな程に元気よく断られたが、それを言われるとこちらも強くも弱くも言うことができない。彼女が持っていたグラスの数を見るに、友達と出かけてここにいるのだろう。その場にオレを混ぜてしまうわけだから、彼女が迷惑に思っても仕方ない……いや迷惑に思って当然である。


「じゃあ、許可もいただけましたし移動しましょうか。実は最初から誘おうと思っていたんですよ? あ、お兄さんは私だけと話せれば問題ないですよ。伝言ゲームみたいなものですし!」


「……努力はするよ」


 咲夢ちゃんは4個のコップを持つと、軽快に歩き始めた。ここで帰るというても思いついたのだが、流石に無言で帰るのもどうかと思ったので、慌てて咲夢ちゃんの後ろを追いかける。


「お待たせ。コーラとぶどうスカッシュとアイスティーだよね」


「おー、さゆちゃんありがとぉ! ってどちら様ぁ!?」


「うわっ、すっごい可愛い……」


「初めまして。咲夢のお知り合いですか?」


 小走りになりながら咲夢ちゃんについて行くと、一人を除いて中学生ぐらいの3人の少女が座っていた。

 一人は茶髪で日焼けが目立つ元気な少女。一人は丸いメガネを掛け、内気なのかこちらをチラチラと見ては視線を外している少女。もう一人は艶のある黒髪を腰まで伸ばし、大和美人と言う言葉が当てはまるような大人な感じの少女だ。皆が皆、オレの方を見るとバラバラの反応をしていた。


「紹介する……と言ってもここにいるメンバーなら大体は知っているか。この人が噂の人だよ」


 咲夢ちゃんがそれを言うと3人とも目を見開き静止した。

 当然そんな紹介をされ、少女たちからこのような反応をされたオレは意味がわからずに疑問符が頭の中で量産されているわけであり、問いかけようと咲夢ちゃんの方を見ると、彼女は優雅にカルピスを飲んでいた。

閲覧ありがとうございます。

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