分岐点11-γ④
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「お買い上げありがとうございました!」
大量の荷物を両腕に抱えながら店を出る。正面のショーケースにぼんやりと映ったオレの顔は、朝と比べて疲れが目立っていた。瞳孔が黒すぎるから目が死んでるように見えるだけで、頬が痩せこけて見えるのも気のせいだ。
後ろから聞こえてきた店長と名札がついた店員の声は、入店時の死んだような声など原型を留めておらず、滑らかな美しい声となっていた。
まさか現実で着せ替え人形にされるとは思ってもいなかった。
だがあくまで創作世界との違いか、剥ぎ取られて着るのではなく「こちらの服もお客様にはお似合いですよ」と言った感じで続々と持ってこられるのだ。
ただの客に対する口説き文句の一つなのだがこの方法は俺には効く。なぜならばまともに喋れないからだ。
断ろうにも「け……結構、です」などと自身でも聞き取れるか分からないほどの小声になってしまうために、首を傾げられると無言で受け取るしかなかったのだ。日頃から発声練習をしていたのだが効果はなかったようである。
いつまでも楓の服を着ている訳にはいかなかった為、購入した服を着ていきたいとの旨を店長に時間をかけて説明し、許可をとったオレは試着室にて新品の服に着替えた。説明している時に頭を撫でられたのだが、それは気にしたら負けだろう。
そんなわけで着替えたオレの服装は、ミモレ丈の白いワンピースと黒のスキニーパンツ、踵が少しだけ上がったサンダルだ。前に履いていた靴はサイズが合っていなかったために、処分をお願いすると快く引き受けてもらえたのだ。
ここで購入したのは、トップスが8着にパンツが5着、スカートが2枚とサンダル1足スニーカー1足だ。実は鞄なども勧められていたが、なんだか女子力の暴力のような商品だったので購入はしなかった。衣類はなんと驚異の全てSサイズであり、本当に小さくなったんだなあ……と遠くを見てしまった。
僅かに……いや、だいぶ軽くなった財布を揺らしながら大きなデジタル時計を見上げる。
「2時……お腹すいてきたな」
音が鳴りそうな腹を片手で抑えながらそんなことを呟く。
考えてみれば昨日を含めても1食しか食べていないのだ。しかもそれすら吐いてしまった為に、0といっても過言ではない。時計を見るまでなぜに気がつかなかったのかを疑問に思いながらもフードコートへと歩みを進める。
長らくららぽーとには来ていなかったので、店が変わっているのではないかと思えば無性にわくわくしてきた。
軽快に足を動かしていると、気がつけば早くもフードコートに到着していた。
フードコートには夏休みだからか多くの学生だろう若者がおり、手を進めながらも皆が笑っていた。
大人になってからと言うもの、友人達と遊ぶ時間は歴と比例して少なくなっていき、次第に疎遠になっていった。今でもメッセージアプリで交流があるものはもう片手で数えられるほどであり、その人物ともここ一週間は何も話していないのだ。深夜まで友達とゲームで遊んだ日を思い出していると、足元からパシャっという音が響いた。
子供が冷水機の水でも溢したのか? と疑問に思い水温を鳴らした足元を確認すると、そこには赤黒い液体が一面にあった。
「ひあっ!?」
咄嗟に後ろに下がり、周囲を確認する。
オレの声でこっちを見た数人は皆が微笑んでおり、次第に視線は離れていった。なぜ床に血だまりがあるのに誰も気がつかないのか、そして騒がないのか。見間違いかと思い視線を戻すとやはりそこには血の池がある。
水口がないのに広がり続ける血溜まりは、人に触れては更に広がり伝染し続ける。
床一面が血に沈む。気がつけば、周囲はどこからともなく巻き上がった砂塵で視界の確保が困難になり、大勢いた人々の声は聞こえなくなった。白色の綺麗な支柱は半ばから崩れ落ち、2階は崩落してフードコートの半分を覆い隠している。
涼しかったホールは生暖かな空気に包み込まれ、グチャグチャという聞きたくない音が全体から聞こえてくる。
『お前もせいだ』
「え?」
突如として正面から聞こえた怨嗟の声。無人だったはずのホールに首のない軍服をきたものが多く現れていた。
『お前が……』
『お前のせいデ』
『イタイ……イタイ、ハハハ』
1人は首から上が無く、1人は臓器を腹から出しながら、1人は下半身がない状態で笑いながら。
次第にそれは増えていき、オレを囲っていく。
『お前が』
『お前のせいだ』
『なんでお前は生きている』
『化け物め』
『人の皮を被った魔物め』
その脳に響き渡る声は、耳を塞いでも聞こえてくる。
声をいくら出そうと、いくら謝ろうとその声が収まることはない。
身に覚えがないのに、なんのことか分からないのに。ただただ謝り続ける。
『お前だけはコロシテヤル』
『許さナイ……ユルサナイ』
『クツウヲ、イタミヲアジワエ』
しゃがみ込んだオレに手が伸ばされる。赤く染まり、肉がだらりと溢れた骨の腕が。
「あの……大丈夫ですか?」
正面から伸ばされた腕ではなく、右側から伸ばされた腕は美しく、暖かかった。
「……咲夢ちゃん?」
「え、なんで私の名前……って鎧の!?」
久しぶりに再開した彼女はそんな声を漏らした。
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