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分岐点11-γ③

※この小説は不定期更新です。


ブックマーク・評価・誤字報告ありがとうございます

 

「………」


 ガタゴトという音と、時折鳴り響くキイィという甲高い音がガヤガヤとした空間に微かに響き渡る。

 周囲をチラリと確認すると、窓から下をみてはしゃぐ少年少女たち、スマホを片手に談笑する青少年、文庫本を読み耽る人たちと、様々な人々がこの車両に乗り込んでいた。少年たちに倣ってオレも下を眺めてみれば、『崩壊のひ』の復旧作業を進めている重機が忙しなくその巨腕を動かしていた。

 あの日からすでに10年という長くも短い年月が経っているが、その復興作業が終わることはない。なぜならば、魔物という存在が復旧した場所を、そして現在進行で復旧している場所を破壊してしまうからである。


 汗水垂らしながら生み出された結晶が一刻で壊される悲劇。自分の家が狙われないことを切に願うばかりである。


 それにしても…あぁ、他人の不幸というのは何故にこれほどまで美味なのだろうか。


「いきなりニヤケてどうしたの?」


 おっと、どうやら考えが表面に出てしまっていたようだ。頬を指先で円状に揉みながら話しかけてきた相手の方へと向き直る。


「いや…なんでもない。それよりもお前がついてくる必要あったか?」


 モノレールに乗ってから、ふと思い浮かんだ疑問をエルフに問いかける。あまりに自然的に着いてきていたために疑問に思わなかったが、今回の外出の目的は衣服の調達である。すなわち1人で済ませることが可能であり、こいつがついてくる必要はないのだ。


「考えてみなヨ、君は確かに大人だったけど今は子供の見た目なんだヨ? そんな子供が万札を数枚財布から取り出しているシーンをさ」


「…ん?」


「うん? 僕なんか変なこと言ったかな?」


「……いや、気のせいだと思う。すまん」


「ふーん、ならいいヤ。 あ、でも僕はそんなにお金持ちってわけじゃないから「立て替えるだけだ」…ヨ」


 知っているような、知らないような。そんななんとも言えない気持ちの悪さからか、頭のすみにぼんやりと浮かんだ言葉を発するとエルフの発言とピタリとハモった。


「い、いやすまない。…立て替えるのは別に構わない」


「……それなら良かったヨ。 「じゃ、ちょっと財布貸してもらえるかな?」…っ!?」


 またもや思い浮かんだ言葉とエルフの言葉が重なった。イントネーションまでもとはいかないが、接続詞までもが重なるというのはどんな奇跡だろうか。双子や、気心の知れた間柄などでは可能性があるかもしれない。しかし、エルフとは昨日出会ったばかりであり、こんなにも言葉が重なることなどとても珍しいのではなかろうか。

 もしやコイツが運命の相手とでも神は言っているのだろうか。今ではこんななりだが元男だ。BLは許容範囲外である。


 肩を下げ、顔を下に向けてげんなりしていますよ、というポーズを大振りに取ると突如として両肩に痛みが走った。驚きに顔をあげると、目を大きく見開き、蒼白した肌から汗を噴き出しながらこちらの肩に手を伸ばしているエルフが映った。


「っおい! 痛えんだよ!離「何周目だっ!」…は?」


 エルフが大声を上げると先ほどまでの喧騒は嘘のように鎮まり、皆の視線が此方に向けられるのを感じる。

 周囲を確認すると、スマホを片手に談笑していた女子たちは徐に此方にスマホを向け始める。彼女達からしたら公共の場での喧騒など格好の餌なのだろう。


「お、落ち着けって…それと痛いから離してくれ」


 エルフを宥めるように声をかけるも、俺の声は届いていないのかブツブツと何かを話しているようであった。

 それはあまりにも小声であり、冷静状態になっていなければ気が付かないような小声である。


「……いつからだ…髪もこれ程までに染まり始めている。今朝は…くそっ意識誘導の痕跡があるな。…やられた」


 意識してから聞こえた彼の小声はそのような内容であり、『髪が染まり始めた』この言葉からオレのことを考えているというのが分かった。なぜ分かったかというと、この場においてオレぐらいしか奇抜な髪色はいないからである。

 エルフは一頻り黙り込むと今度はオレの方へと向き直り、いつも見せている微笑みを無くして口を開いた。


「ごめん。僕は用事ができてしまったために行かなければならない。暫くの間は君と話すことは疎か、合うことが出来なくなる。どうか()()()()()()()()()()()()()()()よ」


 オレがオレを識ることのない。それはどういう意味なのかを聞く前にエルフは席から立ち上がると、ドアまで歩いて行った。まるでモーゼのように人の波が左右に分かれ彼が歩く道を作り出していく。離れていく背中の先を見ると、そこには運行中のために閉まり切ったドアがあるのみだ。

 エルフがドアの正面にたどり着き、ゆったりとした動きでドアに右手をつける。すると、まるで最初からその場には誰もいなかったかのように姿()()()()()()のであった。


「はあっ!?」

「い、今人いたよね…?」


 そんなざわめきが波紋のように広まっていき、乗客全体の話題が一体となった。スマホで録画したであろう動画を友人と共に眺めて喚き立てるものもいれば、ただ静かに静止しているものもいる。そんな状況が一瞬にして生まれた。

 かく言うオレも静止しているうちの1人なのだ。エルフの不思議な発言とその存在が消える現象、その二つによってオレの脳は容易くキャパオーバーを起こし、目的地に着くまでオレが動くことはなかった。

閲覧ありがとうございます。

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