分岐点11-γ②
※この小説は不定期更新です。
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「そのカラーコンタクトはとびっきりに黒く作っているだけだヨ。輝きを無くすことはできないし、側から見ると瞳孔が異常に大きく感じる人もいれば、角膜が紺色に見える人もいる。そして少なからず光っているから絶対に暗闇に入ることはダメ、そして目を合わせるのもダメだからね」
なんだか聞いたことのあるような台詞を聞き、疑問に首を傾げる。そんなオレを見てエルフも不思議そうに首を傾げるのだが、やはり聞いたことがないなと思い、なんでもないと言いながらそのカラーコンタクトを受け取る。
ケースを開けて天井の照明に向けると、確かに黒いな、そう思うほどに黒かった。日本人は黒目が多いのだが、ここまで黒い人はいないだろうという黒さである。例えるならば墨液だろうか。確かにこれをつけたのならば瞳孔が大きく感じられるだろう。
一度ケースにしまってから洗面所まで向かい、左手で瞼を開きながらコンタクトを入れる。割れた鏡で確認してみると、確かに青色が目立つことは無くなった。だが、それでも隠しきれていないのか黒色の部分が暗い紺色に染まり、ドアを閉めて暗闇を作ってみるとうっすらと目の場所だけが輝いていた。
ついでだが、昨日は白杖という視覚障害を持つ方が使うものを使ってゴリ押ししたのだ。だが当然オレは障害を持っていないので何度も目を開けてしまったり、タクシーから降りる際に忘れて来るというガバをしている。
そのことから白杖を使った隠蔽は不可能であると判断して、エルフになんとかならないかと相談したのである。
「これにサングラス………持ってねえや」
暗闇の中でそんな解決方法を思いついたのだが、そもそもそんなものを保持していないのだ。サングラス=陽キャアイテムという認識を持つオレからしたら、そんなアイテムを持っているはずが無かった。
まあ、持っていたとしても着けようとはしないだろうな。そう思ってしまうのは仕方がないだろう。何故ならば今のこの体でサングラスなどしたら、変に視線を集めてしまうだろうのが簡単に想像できたからである。
いつまでも目で悩んでいる時間があるわけもなく、ひとまず考えるのを止めて、妹の部屋に失礼する。
別に疾しいことをする訳ではない、服をワンセットだけ借りるのだ。言い訳をするとしたら着る服がないから仕方なく借りるのだ。
今までオレがきていた服でもよかったのだが、これから買い物に行くのに、幼女が大男の服を着ていたら職質待った無しである。職質というよりは保護だろうか。だが、追い追い面倒臭くなるのが目に見えているので我慢して着るのだ。すまない楓、お兄ちゃんはショッピングセンターで女装を披露する変態になるぞ。
楓の箪笥からできる限りシンプルなシャツとパンツを探す。言うまでもないがパンツは下着ではないズボンの方である。開いた箪笥に下着があったために意識した訳ではない。妹のパンツに興奮するなどあってはならないのだ。ただ、その……小さかった。
いや、こんなことを考えている時間がないのは理解している。両頬でパチンと爽快な音を響かせてから物色を再開する。
オレの身長は目測だが高くいって140、低くいって130である。楓は確か150か160だったはずなので、20〜30ほどの身長差があるのだ。当然全ての服がぶかぶかになるので、不相応な服装になるのは承知済みである。まあ、180のメンズよりかはマシだろう。
「………うん、これでいいか」
最終的に手に取ったのは、白色のオフショルダーと言われるトップスに、デニムのホットパンツだ。
できれば長ズボンがよかったのだが、足の長さが足りずに断念。オフショルダーなのはこの猛暑で長袖は耐えることができなさそうだからである。一部にフリル?のようなものがあしらわれているのだが、これは見ない事にした。シンプルッテ素晴ラシイナァ。
もちろんトップスの方が大きいのでパンツが隠れている。図らずして履いていないような服装になってしまったが、これはこれで良いのではなかろうか。最近は脚フェチに目覚め気味なので自分の脚が麗しい。
「お、似合ってるヨ。うん、良いと思うヨ」
そんな声が後ろから突如として聞こえてきてために、肩がビクッ、っとアニメのように震えてしまった。激しくなる心臓の音に煩わしく思いながらも、後ろを振り向く。
「いきなり入って来るなよ、妹の部屋だぞここ」
「え、それはごめんね。 それよりもそろそろ出ないと多くを回れなくなるヨ」
謝っているのだが一切申し訳なさを感じさせないエルフに、ため息を吐きながら眉間の皺を揉む。
このエルフは紳士的なくせに、どこか抜けているようだ。だが、彼の言葉ももっともなので外に出る。財布を肩掛けの小さい鞄に詰め込み、アプリから交通系の残高を確認しておく。ららぽーとまでの道ならば余裕で足りる額が入っており、逆になんでこんなに入っているのだよと聞かれても仕方ない額であった。
鍵は例の如くジャンプで取った。おそらくエルフが元の位置の戻していたからだ。テーブルの上に置いてくれれば良いものを…新手の嫌がらせだろううか。
家を出て、最寄りの駅まで灼熱で焼かれること数分で駅に到着だ。
『崩壊のひ』以降、地下にはいまだに燃え続ける『白炎』が存在しているために、地下鉄が使えなくなったのである。おかげで今の移動手段のメインはモノレールであり、電車内でも灼熱に焼かれてしまうのだ。
そんな現状の移動手段に心が折れかけるていると、階段を一段踏み外して前のめりになる。
「うあっ!」
慌てて手を前に突き出すも、階段の角はすでに顔の近くまできており避けることは不可能であった。
瞼を強く瞑り、来たる痛みに耐えようとする中、その痛みがなかなか来ないことに疑問に思いながら恐る恐る瞼を開ける。
「なにを考えているか分からないけど、階段の近くで考え事は危険だヨ?」
声がした上を見上げると、珍しく目を開けてホッとしたような顔をしているエルフがいた。
お腹に手が回されており、彼の腹部とオレの背中が密着していることから咄嗟に抱き上げてくれたのだろう。
周囲から視線が集まり、無意識的に顔に血が上っていくなかでオレの頭の中だけは血の気が引いていた。
なんで今、こんなに『壊したい』と思ってしまったのだろうか。
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