敵の敵は味方になり得ない③
※この小説は不定期更新です。
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買い物を済ませたオレは、お腹を満たすために一階のフードコートへと向かっていた。
エルフは二階で見たいものがあるらしく、一旦別れることになり今は自由行動となっているわけだ。
「……ぁぁあああ、鬱陶しいわぁ」
そして何故にこんな台詞を発したかと言うと、視線がウザいからである。
確かにこの白髪は日本人にはない色なので目立つ。
それにしても見過ぎではなかろうか。 二度見は当然のようにされ、人によってはボウっと惚けるように見てくる。
手で横髪を掴み目の前へと持ってきても、オレからしたらただの色素の抜けた髪にしか見えない訳で、何故にこんなに視線を集めているのかが分からないのである。
手で握るのを止めるとサラリと零れ落ちる髪の毛は、なんだか男の時とは違うものに感じられ、なんだかずっと触っていたいような癖になる感じがした。
髪の毛をサラサラと遊んでいると、毛先が白でなく青みがかかっているのに気がついた。
右後ろから髪の毛を前に持ってきて天井の照明に向けると、毛先だけが水色であり、それ以外は真っ白であった。
この遊びで気が付いたのだが、昨日から一気に髪の毛が伸びている。
男だった時はショートのスポーツ系の髪型だったのだが、少女になった際にボブと呼ばれる程度に伸び、今日目が覚めたらセミロング程度に伸びていた。名称は違うのかもしれないが、今スマホで調べた限りではこの二つが今の髪の長さに近かったのだ。
この異常な髪の毛の成長も少女になった弊害なのだろうか。 前例がないために分からないが、触っても柔らかい髪の毛なだけであり、特段変な感触もないので切っても問題はないだろう。
以前、髪の毛が触手になるラノベを読んだことがあったために、一瞬だけ不安になったが杞憂だったようだ。
そんな感じで髪の毛を弄りながら歩いていると、気がつけばフードコートに近づいていた。
夏休みという事もあり学生が多く、フードコートも例外なく混んでいるのだが1人のオレが困るような混み具合ではない。
通路を歩き、たこ焼き店の近くにあった空いている席に荷物を置く。
少し離れた場所に座っているグループの声が聞こえたので耳を傾けると、中学生ぐらいの女子4人がスマホを片手に現在放映されているドラマの俳優について話していた。
今どきの女子はそんな話をするんだな…。と、年寄りじみたことを考えていると、以前までよく聴いていた声が聞こえてきた。
「……咲夢ちゃん…?」
つい気になって目を向けると、以前まで隣の部屋で家族と暮らしている永守咲夢ちゃんが制服を着こなしてそこに座っていた。
オレが何故に彼女を知っているかと言うと、引っ越しがほぼ同時であった、と言うだけの理由である。
当時、17歳であったオレは父さんと一緒に引っ越しの挨拶に向かったのだ。 その時、同時にこちらにも挨拶に向かおうとしていた永守夫妻と玄関先でかち合い、そのまま長い付き合いになったのだ。
咲夢ちゃんともその時に出会い、大人たちは大人たちで話している中で、当時6歳の咲夢ちゃん一緒に遊んでいるうちに仲良くなり、挨拶が終わって帰ろうとすると咲夢ちゃんが泣いてしまったのだ。 そして泣き止ませるために度々遊びに来るからと言ったのであった。
これが咲夢ちゃんとの出会いであり、オレが彼女を知っている理由である。
しかし彼女とは2年前に引っ越したのを機に、もう会わないだろうなと思っていたのだが、まさかこんなところで出会うとは思ってもいなかった。
女子の成長は早いのか、昔まではショートカットだった髪の毛はロングになっており、トロンと垂れていた目は気が強そうなつり目となっていた。
そんな咲夢ちゃんの変化に、何故だか歳を感じたオレは苦笑いを浮かべながら荷物へと目を移す。
話しかけたかったのだが、姿の変わったオレに話しかけられても迷惑だろう。 そう思ったので話しかけるのはやめにした。
その時、こちらに視線が注がれたような気がしたのは気の所為だろう。
荷物から財布を取り出し、たこ焼き店へと足を向ける。 ららぽーとに来たときにいつも行っているこの行動も、この体になってからはなんだか新鮮なものに感じられた。
数人の列の最後尾に並んでメニューに目を通し、新作が出ていないことを確認する。 であるならば、いつも通りのノーマルにしよう。シンプルイズザベスト。 辛子マヨネーズにも変える気はない、ノーマルが一番美味いのだ。
レジにて600円を引き換えに、8個のたこ焼きを手に入れたオレは、荷物を置いた自席へと戻る。
先ほどまでいた咲夢ちゃんのグループは既に移動していたようで、その席はもぬけの殻となっていた。
「いただきます」
席について早々に、手を合わせて目を閉じる。 最近ではこの文化も廃れてきているのか、あまり外でやっているのを見かけなくなった。
「あっふっ! ……はふっ! ふっ!」
口に含んだたこ焼きが普段よりも熱く、つい口を開けて空気を出そうとする。
何時の時かに食べたたこ焼きはもう少し冷めていて、こんなことにはならなかったのだが、口内が弱くなっている可能性がある。
辛いものを食べる時も甘口から始めた方がいいかもな、そんな事を考えながら2個目を口に運ぶ。
無論、再びオレは熱さに悶えるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そろそろ、移動しようかな」
時間にして大体30分だろうか、たこ焼きも食べ終わり、休憩を済ませたオレは立ち上がって荷物に手を伸ばす。
移動しようにもこれ以上は買う物はない。しかし久々に来たのでもう少しばかりぶらぶらしても良いのではないか? そう思ったのだ。
「にしても咲夢ちゃん大きくなっていたなぁ、昔はもっと小さかったのに…」
いや、オレが小さくなったのか。そう自虐ネタをボヤきながら荷物を両手で持つ。
忘れ物は無いかと机の上と椅子の上を確認し、出口に歩みを進める。
「にしてもチャラ男くん、今度はここで働いていたのか…すごいなぁ」
使っていたトレーは既に返却してある。 そしてその時に昨日出会ったチャラ男くんが、なんと裏方で働いていたのである。
生きてて良かったと安心する反面、一日も経たずに新たなバイトを手に入れているチャラ男くんの手の速さに嫉妬している自分がいた。
だが、五体満足とはいかなかったのか、左目には痛々しい包帯が巻かれていた。
これに関しては失明していないのをただ願うだけである。
「どうか彼にはオレの幸せの半分の半分の半分くらいは与えられますように」
どの神様にして良いのか分からない願い事を唱えつつ、止まっていた足を再び動かし始める。
僅か8分の1しか与えねえのか、と文句が言われた気がするが、オレだけが幸せになっていれば良いのだ。あと楓も。
そんなクズ的思考を浮かべているうちに出口付近まで近づいていた。
最近になってからなのだが、何かを考えていると外が見えなくなる。やはり歳なのだろうか。
25歳、まだまだ若いと思っていたのだがのぉ。 そんな年配を馬鹿にしたような台詞を苦笑いしながら口に出し、フードコートから出れたと思った瞬間…
後ろのたこ焼き店から凄まじい衝撃波と爆発音がフードコートを襲ったのであった。
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