敵の敵は味方になり得ない②
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「久々に来たけど相変わらずに賑わっているなぁ…」
ららぽーとに到着し、オレが第一声に発したのはそんな言葉であった。
見渡す限りの人の波に、タイムセールを叫ぶ女性定員、迷子案内の館内アナウンス、色とりどりのフラペチーノを片手にキャーキャー言ってる女子高生達、各々の店から聞こえてくる曲の混じった不協和音。
その喧騒は煩わしい程でもないが、ずっと聞いていたいという物でもない。
「確かにここはいつも賑わっているヨね」
オレの台詞に同調するかのように、エルフは苦笑を浮かべてそんな言葉を漏らしていた。
そんなエルフの苦笑いを横目に流して正面の案内モニターを眺める。
あまり長時間案内モニターを独占するのも他の客に迷惑なので、それっぽいなと感じた店名の場所を探す。
今回の目的である下着店は1階の最奥にあり、服飾店は2階に多く集まっているようであった。
ひとまず下着を揃えてから衣服を買った方が良いと判断して、歩みを進める。
理由は至って簡単だ、試着の時に万が一に備えて下着が見られても恥ずかしくないようにするためである。
なろう小説のTSものにて、下着や衣類にて葛藤するシーンはよく目にする。 はっきりいうと自分もレディースの服を着るのに抵抗は勿論ある。 こういう時に女装慣れしていたり、親や姉に女装させられたという過去話があれば楽なのだろうが、生憎オレにそんな過去はないのだ。
初めて着たのがこのパーカーであったために平常心を保てているが、エルフの持っていた服を着ていたのならば羞恥心のあまりにオレの心は荒れ果てていただろう。
「 … …」
それでもだ、例えレディースの服を着るのに抵抗があったとしても下着は最低でも7着は揃えておきたい。
オレの体型的にブラは必要ないだろうが、パンツは必要だ。 羞恥心なんかよりも、周りに見られて恥ずかしくない格好、その人物に相応しい服装をするのが大人というものではなかろうか。
外面だけ取り繕っても何らかの出来事で内面が見られてしまう時がある、そんな時にメンズの下着を着用していたのならば不審に思われるのは間違いない。
そこからなし崩し的に元男だとバレる可能性も否定できない、もし思われなかったとしても変人と思われるのは嫌である。
「な…… …?」
いや、しかしそんなイベントに巻き込まれる方が稀なのだ。
最近は何かと色々あったせいで多くを考えてしまうが、オレは主人公ではない……と思いたい。 だが確実に主人公寄りなのは間違いがないだろう。 魔物になった少女で元男などモブであるはずがない。なろうだと主人公になるかTS系ヒロインだろう。何らかのイベントが発生してオレが男に惚れる……嫌だな。それだけは絶対に嫌だ。 だったら主人公の方がマシだ。
けど主人公になったら多くに巻き込まれてしまう。 我儘だと自分でも思うがそれは面倒臭いのでお断りだ、そんなイベントは作者に返品したい。
「なな………ん?」
考えが逸れていた。 結局のところオレは別に女装癖も性転換願望もないわけであり、自ら進んでレディースものを着たいわけではない。 ただ今回の下着と衣類は生活するのに必要だから購入するのであって、他意もないし後ろめたい考えもない。
仕方がないのだ。周囲から浮つかないためにも仕方なく購入するのだ。
「ななみちゃーんっ!」
「ひあっ!? な、何だよ! い、いきなりみ、耳元で叫ぶな!それとオレは成海だっ!」
「いきなりって…もう何回も呼び掛けていたんだヨ?」
「そ、そうか…それは、その…ごめん。 …で、なんかようか?」
どうやらエルフは何度もオレに呼び掛けていたようであり、両手を腰にあてがわせて呆れたと言わんばかりな顔をこちらに向けていた。
「突然顔を顰めたと思ったら真っ赤にしたり、青ざめたり、悩んだような顔をしていたら誰でも気になるヨ」
それだけを言うと、今度はエルフがオレの前に立って歩き始める。
いきなり歩き始めたことに驚き、慌ててあとを追いかけて横に並ぶ。 歩幅は圧倒的にエルフの方が大きいため、自然と小走りのようになってしまう。 だが、エルフはそれに気が付いたのか歩幅を小さくしてオレに合わせるようにゆっくりと歩く。
「でも君が何を悩んだり考えているかは大体は分かるヨ。 どうせ下着ヤ服装のことでしょ?」
「うっ…」
エルフが言っていることは、まさに先ほどまで考えていたことであり、思わず呻き声を発する。
そんなオレをエルフはくすくすと笑い、少し経った後に再び口を開いた。
「そして君のことだから恥ずかしさを紛らわせるために色々と考えていた。 違うかな?」
「………はぁ、全くもってその通りだよ」
「良かった、これで外していたら恥ずかしかったヨ。 …けど、別に割り切らなくても良いんじゃないかな? 恥ずかしいなら恥ずかしいで別に良いし、今の時代はジェンダーレスだから女性だってメンズの服を着ていても別に何とも思われないヨ? 無理して女性にならなくても…」
「ストップ」
エルフの言葉を途中で途切り、歩みを止める。
「…オレは確かに女性の服を着るのは恥ずかしいし、できれば着たくない」
「だったら…「けどな」」
「それを理由に否定するのは間違っていると思うんだよ。 別に女性ものの服を着ていないからオレは男性だー、なんて言う気はないぞ? …ただ単にオレは楽しみたいんだよ。 ナルシストかと思われるかもしれないが、正直に言って今のオレはメチャクチャに可愛いと思う」
これは、自室にあった姿見を見てオレが思ったことだ。
日本人離れ…いや、どこを探しても居ないだろう純白の髪の毛、バランスの取れた高い小鼻、桜を思わせるほんのりと色付いた小さい唇、白磁のような傷一つとない肌、そして異質に輝く青い瞳。
もしオレが小学生の頃に出会ったのならば絶対に一目惚れしていただろう外見の精巧さは、人間離れしても見えた。
「だからな、こんなオレに可愛い服を着させて見たいんだよ。 恥ずかしさは拭い切れないけど楽しみなんだよ。 そんなオレの楽しみを奪わないでくれないか?」
恥ずかしいことに変わりは無い、否定されるのが怖い、異質に見られたくない、そんな小心者なオレが自分を納得させるためだけに発している中身のない空言だ。
「………わかったヨ、君がそうなら僕から言う事はないヨ」
そう言うとエルフは、再び歩みを進め出した。
今度は最初からゆっくりと、オレの小さな歩幅に合わせて。
その小さな気遣いが無性に嬉しく感じたのはオレだけの秘密だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「う、うううぅぅ! …おいっ!」
「ん? どうしたのななみちゃん?」
「成海だ! な、ななな何だこの服装は!?」
「? …似合ってるヨ?」
「そ、そうなんだけどぉ…! 違うの! 普通の服を着たいんだよ!」
そんな羞恥を隠さずに叫んでいるオレが着ている服は、ロリータファッションと呼ばれるものであるだろう。
黒を基本色として、腕周りやスカートにふんだんにあしらわれた白のフリル。上部は白で黒色のリボンがついたニーソックスによって作られた絶対領域は目に毒だ。
簡単にいうならばアキバで見られるようなメイド服だろうか。それを着込んだオレが鏡の前に立っていた。
エルフが言うように確かに似合っている。店員さんも「かわいい…」と言って頬を紅潮させていた。
だが似合っているとしても、これは違う。あくまで今回の買い物の目的は普段着であってこんなコスプレ用を買いに来たわけでない。
やはり、来るときに感じた嫌な予感は正しかったようである。
普通の服を着たいと言ったオレを、不思議な生物を見るかのように眺めてくるエルフはどこかバグっているのではなかろうか。 そう考えたら今までの不思議な行動に納得ができてしまう。
「もういい! 自分で探す!」
そう言ってピシャリと試着室のカーテンを閉めて、改めて鏡と向き合う。
真っ白な肌を赤くさせ、恥ずかしそうにもじもじと内股気味になっている涙目な少女、それが自分だと認識するのに些か時間がかかってしまった。
確かに似合っている。
これが自分でなければどれだけ良かったことか。そう思ってしまうのは仕方がないだろう。
「ななみには似合っていて、すごく可愛かったんだけどな…」
「……っ!! ううぅぅぅうぅぅっ!!」
エルフのしょんぼりとした声と、オレが可愛いと言う言葉に反応してうめき声が出てしまう。
結局、この店を出た頃には真っ赤な顔をしたオレと、いつも以上にニッコニコなエルフ。 そして、大量な荷物と万札が数枚飛んでいった財布しか残らなかったのである。
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