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オレが魔法少女になった日①

魔法少女ものが書きたくなった………それだけさ


※この小説は不定期更新です。

 

 7月下旬、学生たちは待ちに待った夏休みを謳歌し、社会人は真夏の猛暑の中でも働き続ける。


「ああぁぁ、休みって最高〜〜っ! 休みは素晴らしいなぁ! はっはっはっ!」


 そんななか彼、一ノ瀬成海は働き続ける社会人を馬鹿にするかのように態々ベランダに立ち大声で叫ぶ。

 当然、その叫びを聞いた社会人たちは殺意をこめた瞳で彼を睨むも彼はその瞳を受けて悦んだように頬を釣り上がらせただけである。


 彼はその悦びを感じ、絶頂するかのように頭を空へと向ける。

 見上げた空に見えるは、暑苦しいほどに輝く太陽と大きな入道雲、そして太陽よりも巨大に見えるほどに近くにある星『ハルノア』である。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 今から10年前に人類は初めて他の知的生命体との交流を成功させた。

 地球外生命体が存在している惑星『ハルノア』の発見。国際宇宙ステーションによって齎された知らせは、世界を震撼させる話題となった。

 すぐさま『ハルノア』と交流を試みようと初めはアメリカが、次に中国がといった流れで、大国は次々に電波を送り続けた。


 初めに『ハルノア』との交流が開始したのは、アメリカであった。

 次に交流が始まったのは、中国でなくドイツであり、日本は3番目の国となったのだ。

『ハルノア』は魔法と呼ばれる力で発展した星であり、現代科学では不可能な事象を容易に成し遂げてきたのである。しかし、地球よりも発展した文明である彼の星が興味を持ったのは地球人でなく、科学と呼ばれる技術であった。


 魔法で発展した世界では、原子を理解せずとも物質を創造することができるのである。それ故に劣った技術でありながら発展した地球に目をつけたのだ。

 地球と貿易を開始した『ハルノア』が交易に求めたのは、無論科学技術であった。そして地球が求めたものは魔法に関わる技術であった。


 互いに技術を交換し多くの発明品が出回る世の中で、ある一つの事件が起きた。

 その事件の名は『崩壊のひ』魔法技術が世界中に出回ったときに起きた事件であり、その被害は世界の人口8割以上の死亡であった。

 日本も例外でなく、『崩壊のひ』の影響を大きく受けた。1億いた人口は今では1千万ほどと言われている。無闇矢鱈に遠出することができない以上、計測が正確にできないのだ。


『崩壊のひ』は、世界が燃えた日とも言われている。魔法技術によって手に入れた永久機関の燃料である『白炎』。この『白炎』は石油や電気の代わりに使われており、当たり前のように市街地の地下に存在していた。しかし、今はなき国が『白炎』の兵器化を失敗させ、大爆発したのだ。これだけであるならば他国も『白炎』の取り扱いに見直しをされるだけであったが、爆発した『白炎』は隣国の『白炎』を連鎖爆発させ、世界中を巻き込んだのである。その爆発事故だけでも死者は約50億人、150億いた人類が数十年前と同じ数までたった1日で減ったのである。


 だが、不幸なことにこの事件はこれだけで済まなかった。『白炎』が爆発したことにより、『白炎』の原料である『魔力』が大気に乗り、地球全体に広まってしまったのである。連鎖爆発の被害を免れた島国・大陸にも正体不明の怪物が突如出現し、市民を襲ったのだ。それが『魔物』と呼ばれる存在の誕生であった。


 人類は魔物に対して兵器を用いることで対抗していた。しかし、避難が完了していない市街地にミサイルを放つことができず、歩兵にて迎撃しようにも銃が効かなかったのである。次第に人類は数を減らし、人類は滅亡の一途を辿るとどこの国も疑わなかった。


 そんな時に、数人の成人していないような子供達が続々と魔物の前に立ちはだかった。

 1人は白く輝く剣を持ち、1人は空に浮かび幾何学模様のナニかを作り出し、1人は身の丈を超える大盾を持ち。彼らは『ヒーロー』と呼ばれ、彼女らは『魔法少女』と呼ばれた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ああぁぁぁ!! 暑いなぁ!」


 エアコンをガンガンに効かせた部屋でも太陽光は焼くように照らしつけてくる。

 日陰に移動すればいい話なのだが、こんな日に限ってエアコンが故障して真下にしか風が行かないのだ。

 修理を依頼しようにもどこも予約が必要であるとの答え。涼むには弱い風しか出ないエアコンの下で焼かれるしかない。このやるせない思いにイライラが募るだけである。


 男だからカーテンなんか要らねえと、引っ越しの時に購入しなかった自分をぶん殴りたい。今日だけはそんな気持ちでいっぱいだ。


「オレの名前は一ノ瀬成海、25歳元サラリーマン。妹の一ノ瀬楓は都内の大学生で寮に暮らしている」


 発声練習も兼ねて自己紹介をできるようにしておく。2年前に宝くじで5億を当選させたオレはそれを機に退職した。上司からは「もっと頑張ってみないか?」と引き止められたが、働くことを資金調達としかみていなかったので、やりがいも何も感じていなかったのだ。発声練習をしている理由は、先日コンビニにいった際にうまく話すことができなくなっていたからである。


 仕事を辞めてからというもの、都内にある一軒家を購入して悠悠自適な毎日を謳歌している。楓にも一緒に住まないかと誘ったのだが、「大学生活が終わったらね」と、やんわり断られてしまった。

 金も有り余っていることだし、楓を不自由な思いをさせたくないから毎月20万ほどの仕送りをしている。あいつはオレみたいに馬鹿ではないからホストに捕まったりすることも、詐欺に引っかかることも心配していない。ただ、楓は小さい頃からオレしかいなかったために、寂しい思いをさせていないかが不安なのだ。


「はあぁぁぁ。やることねえ」


 大の字に四肢を広げ、天井を見てそんな愚痴をいうもやることはてんで思いつかない。


 先日まではテレビゲームをやっていたのだが、ゲームは無限にできるわけではない。クリアというものもあれば飽きたというのも一つの理由である。

 退職してからというもの、2年間ゲームをやり続けばなんでオレはゲームしてるんだろうと思ってしまう。とうの昔にレベルもカンストさせたし、アイテムも称号も全て網羅した。ここ数ヶ月はイベントもなかったために初心者の育成を手伝っていたが、偽善者と言われてそんな暇潰しも萎えてしまった。


 他の趣味といえば、ライトノベルを好んで読んでいるのだが家にあるものは全て読み終わってしまっている。それも一回などという話でなく複数回にわたってだ。だからある程度読んでしまうと先の内容を思い出してしまい、自分が自分にネタバレをしてしまうのだ。新しく買おうにも気になる本は大抵買って読み終わっている。


「……仕事やめなければよかったかも」


 そんなことをぼやこうが過去が変わらないのはわかっている。まさに後悔先に立たずだ。若い頃はなんで金があるのに仕事をするのか不思議だったが、今ではそんな考えは一切と言っていいほどに考えられない。新しい仕事を探そうにも、2年間引きこもっていたオレは人と話せなくなっていた。先程の発声練習に自己紹介を含ませていたのは、雇ってもらえる企業があったらのためである。しかし、こんな人間を雇うのは本当に一部の企業だけだろう。


「あーー。……アイスでも買いに行こ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 外に出たまではよかったが、今日が凄まじい猛暑だということをすっかり忘れていた。

 電子腕時計で確認すると気温は37℃で湿度は50%と、ニュースで最高気温が更新されそうなほどの猛暑であった。今は13時、リーマンたちの一部はまだ働いているが休憩で外に出ているものが多い。彼ら彼女らは、皆半袖で暑そうに胸元を仰いでいた。


 都会は本当に便利だ、少し歩くだけでコンビニは数店も見つけられる。

 家から歩くこと2分、7が輝く店に到着だ。隣には緑色のコンビニもある、さらには道路向かいに青色の看板も見える。先日は緑にお世話になったので7にお世話になろうと思って入店した。


「ラシャセー」


 やる気のない「シャセー」は万国共通でなく万コン共通だ。オレのバイト時代も「シャセー」だったなあ、というどうでもいい考えが浮かんだ。ニートになってからというもの、どうでもいいことを観察してしまう。その人の歩き方の癖であったり、話している時の手の動きなどだ。その甲斐もあってか、ある程度の関係を持った人物ならば嘘をついているかどうかがわかるようになってきた。的中率は大体7割程度。流石に心理学者には劣るが一介のニートにしては凄い方ではないだろうか。


 アイスコーナーからスイカの氷菓を取り出し、レジを持っていく。店員は金髪でショートのTHEチャラ男といった風貌だ。これだから今どきの若者はなどという気はない、見た目のわりには言葉遣いも丁寧だし、何よりも仕事が早い。オレ的に彼は全然いいひとだ。


 コンビニから出ると、相も変わらず焼き尽くすかのような太陽光。

 せっかく買ったアイスが溶けないようにと小走りで家へと向かう。


 直後として轟音と共に強風が背後から襲ってきた。

 嫌な予感が止まらない、ラノベで鍛えられたオレの脳みそはこれから起こりうるだろうテンプレを想像していく。


 コンビニで働いていたチャラ男くんの安否が気になるが、逃げるのが先だ。周囲も悲鳴と共に蜘蛛の子を散らすように逃げるリーマンたちの姿、こんな時に主人公ならば立ち向かったり避難指示を出すのだろうが、オレにはそんな度胸が破片もない。


 絶対に生き残ってやるという決意を決め、アイスを放り捨て全力で逃げる。



 しかしそんな決意も虚しく、背中に走った衝撃とともに意識が吹き飛んだ。


閲覧ありがとうございます。


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