ナコの物語(1)
手を広げて空を飛んでいる。こういう時に私は、夢とは気づかずに気楽に飛び続けるということはしない。夢だとしっかりと把握した上で、飛び続けるという選択をする。
眼下には円い街が一望できる。かなり高いところを飛んでいるようだ。周りには雲一つなく、日差しはとても強い。こんなところにずっといたら肌が真っ赤になりそう。でも、肌に当たる風はけっこう心地良かったりする。
体に目をやる。半袖半ズボンだ。しかも、探検隊と呼ばれる人たちが着そうな、薄茶色の服。頭には、それに合うような帽子まで被っている。当たり前だけど、普段なら好き好んでこんな服は着ない。
それにしても。どうもこの体は私のものには見えない。がっしりしすぎ。たぶん、男の人の体なんだろうな。帽子を被っているからわからないけど、きっと髪も短い。
私は、しばらくそのまま飛び続ける、という選択をする。もちろん、私の意思で。でもしだいに、なんだか飛びづらいな、と思うようになる。高度もだんだん下がっていく。それは、私が心の中で「上がれ上がれ」と念じても変わることはない。夢の中なのに、なんでうまくいかないんだ。あ、でもそうだ。どうせ夢の中なんだから、落ちても何も問題はないじゃないか。逆に、心の中で「上がれ上がれ」と念じていたさっきの自分の方が恥ずかしくなってきたな。
とここで、急降下。
とっさに目をつぶる。ジェットコースターに乗っているときに感じるあの嫌な浮遊感が私を襲う。風圧でまともに息ができない。ぎゅっと握りしめた手には冷たい汗。
夢は終わらない。
しばらくして目を開けてしまう。地面が近くに見える。体は芯から震える。私は、全身にちぎれるくらい力を入れる。地面まではあと少し。私は再び目をつぶる。
まだ終わらない。
地面に叩きつけられる。幸いにも、痛みだけは感じなかった。でも、逆に言うとそれは、痛み以外の感覚は全て感じることができた、ということだ。