2話
お待たせしました。
最初は戸惑った木登り道具の使い方だが、
子供の頃にしていた、木登りのあの感覚が蘇った様で順調だ。
道具に頼り楽にはなっている、こんな高さは登った試しが無かったが、何とかなるものだ。
細い枝を通り過ぎ、最初の大きな枝にたどり着き周りを窺う、何も無いことを確認し、休憩を取る。
「こっちは何も見当たらない。一旦休憩するぞ。そっちはどうだ、何か見つけたか?」
幹が太く、相手の位置がわからないため、大きめに声をかけてみた。
「こっちも、今のところは何にも無しだ。休憩出来そうな枝が無いから、もう少し登ってみる」
声は若干上の方から聞こえてきた。
普段の調子とは違い、こういった時は真面目に行動している。
いや、金目当てだからかと思い至る。
「お〜い、巣を見つけたぞ」
「奴の巣か?」
足の木登り道具を外しながら答える。
「わからないが、可能性はある。奴は居ないから巣の中を確認してみる」
その声を聞き、俺は周囲の確認を始めた。
こちら側の周りには何も見えない、反対側も確認しないといけないな、そう思い反対側へ向かって移動を開始した。
移動を始めて半分程でまた声が聞こえた。
「やったぜ、宝飾品や金目の物が沢山ある、奴の巣で間違い無いぞ」
「わかった、今、向かっているから周囲の確認を怠るな」
話しながら、反対側の上方へ向けて移動を続けた。
「了解、りょ〜かい」
そう言いながら、巣の中の物色を始める
目の前のお宝に警戒心は無くなっていた。
「チッ!」
完全にお宝を見つけて有頂天になっている声を聞き、危機感を覚えた俺は登りながら周囲を警戒しなければならなかった。
ゴロゴロゴロゴロゴロ
『アーーーーーーーーーーーー!』
『オェーーーーー!』
突然転がり始め、変な音を出した物体を見て驚いた。
「何だこれは?卵か?」
微妙に動いている、それを見つめ、確認したあと
「卵があったぞ、転がって動いている。どうする?」
「ヒビは入っているか?入っているとヤバい、雛が孵ったら奴に知られてしまう」
話しながら、急ぎ登り続け、既に周囲を警戒することを失念していた。
ヒビを確認するため、卵を手に取り持ち上げた。
ほのかに温かいが、ヒビは見当たらなかった。
「ヒビは見当たらない、まだ孵る気配は無いが転がった後に変な音は出た」
「音だと!ヤバい、死にたくなければ今すぐここから逃げるぞ!」
「まだ、お宝を手に入れてない『ゴォーーーーーー』ぞ」
話をしている最中に、火弾が飛んできた。
飛んできた方向を見ると、大型の鳥がこちらを向いている。
かなりの大きさで全身が赤い羽毛で覆われており、嘴は大きく開かれていた。
火鳥とも火の鳥とも呼ばれているその鳥は、自分の巣に当たらない様に撃ってきた。
直撃を喰らうと死ぬ威力はありそうだ。
「おい、早く」
足裏の爪が刺さらない様に足の角度を変え、摩擦熱で手が熱くなるため、適度に止まりながら木を滑り落ちる様に降りる。
「あぁ」
手に持った宝飾品と卵を道具袋に入れながら走り出す。
木の幹に取り付き、降り始めた。
火鳥は、木の周りを旋回し火弾を撃ちはじめた。
狙いは俺らだ、周りの枝や木の陰に隠れる位置どりで木を降りていく。
「枝や周りの木の陰に入る様に身を隠して降りろ。火弾に当たらずに済む」
「わかった」
周りを確認し、身を隠す様に降りるが、足の爪が無いため降りづらい。
しかし、火弾が当たらない位置どりが出来たことが幸いし、なんとかなりそうだ。
火鳥は、火弾では当てられ無い事を理解し、一際大きく翼をはためかせ、風の刃を放ち、『ザン!』と音をたて枝葉を斬り裂いた。
翼のはためきと共に、たて続けに風の刃が放たれ、身を隠す枝が落とされ周りの木も倒されていく。
頭上から落ちる枝を避けつつ、一刻も早く降りて、足の木登り道具を外さなきゃいけない。
しかし、なぜ執拗に攻撃されるのだろうか?
巣の中を確認して、お宝と卵を見ただけなのだ。
まさかと思い問いかけた。
「巣の中の確認だけで、何も奪って無いよな?」
「逃げるのに全力で巣に戻さず、持ってきた。腰の道具袋に入れてる」
「中身は何だ?」
「手に持ってた、お宝と、卵だ」
最悪の答えが返ってきた。
「バカヤローーーーーーーーーーーー!」
「確実に殺されるぞ、どうするんだよ!」
「すまん。仕方なかったんだ」
やってしまったことは仕方がない、今は逃げることを優先だ。
逸る気持ちに対して降りる速さは上がらない。
『ザン、ザン、ザン』
次々と枝や周りの木が無くなって、火鳥から丸見えになってしまった。
遮る物が無くなったため、火鳥はまた火弾を撃ってきた。
『ゴォーーーーーー』
「チクショウ!」
もう少し、もう少しで下に着く。
着いたら、足の爪を外すために、木の陰に身を隠さなければ。
『ゴォーーーーーー』
『ドカッ!』
ついに火弾が直撃した。
「ぐわぁーーーーー」
熱と痛みが襲い、男の生命力を奪っていく。
木にしがみ付く力が無くなった男だった物はそのまま落下し、木の根元で燃え尽きた。
「うわぁーーーーー」
仲間が殺されて恐怖がこみ上げてきた。
ヤバイ、ヤバイ。次は俺だ、どうする、どうする。
木を降りる以外の逃げ場は無い、降りたとしてもそこから安全な場所までの移動手段も無い、手詰まりだった。
男は恐慌に陥ってしまった。
手足が思うように動かない、体が震える、涙で視界がぼやける。
『ゴォーーーーーー』
再び火弾が撃たれる。
直撃は免れたが、真下に当たり、爆風が起こる。
「ぐうぅ」
体が持って行かれそうになった弾みで、しがみ付く力が弱くなった。
手の爪だけで降りていたため、制動ができず、ほぼ落下に近い形で降りていく。
体の前半分が削られる様に幹に擦られ、装備していた革鎧や剣帯、道具袋の紐がボロボロになっていく。
「あああああぁぁぁぁぁーー」
擦られる痛みに、声がでる。
このまま落ちて死ぬのか?
そう思った瞬間、体が投げ出され地面に腹から落ちた。
「ぐぅぅぅ」
痛む体で周りを確認する。
支柱根の上方から降りていた様で墜落死は免れた。
「うぐぐぐぐ」
必死に立ち上がろうと、手脚に力を込める。
痛みに顔を顰めながら四つんばいになった。
『クェーーーーーーー』
動きが遅くなった男目掛けて火鳥が近づいて来て、無防備な背中を鷲掴みにし、空に舞い上がる。
「あああぁぁぁぁぁ」
体を締め付けられ、痛みが倍増する。
落下すると死ぬ高さにありながら、逃げようともがき、既にボロボロとなっていた剣帯、道具袋が落下して行く、残っているのは革鎧のみ、それもまた、圧迫によりひしゃげていきそのまま、男と共に物言わぬ塊となった。
文章を書くのは難しいですね。
文才が欲しい、その一言に尽きます。