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8.海の生き物を創る

 いよいよ生き物づくりが始まった。まずは海である。


「海。……創るとき。栄養。たくさん入れといた」


 エウラシアに抜かりはない。いきなり過酷な生存競争が始まることもないだろう。


 そんな訳で、この世界に来て初の別行動である。各自趣向を凝らした生物を創り、発表する流れとなった。



 数日後。三人は大陸の端、地形が湾曲して湾になっている場所に来ていた。各々が箱を持参している。


 もちろんその中には、命吹き込まれた生き物が雌雄一対入っているのであった。


 まず先陣を切ったのはエウラシア。よどみない手つきで箱を開ける。


「じゃん」


 出てきたのはカタツムリの殻のような形をした大きい貝だった。エウラシアの髪と同じ緑色である。


「まあ、キレイな貝ですね」


 確かに、光の当たる角度によって様々なグリーンを見せる美しい貝だった。装飾品としても使えるかもしれない。


「これ、確か元世界ですごい昔に生きてたっていうやつに似てるね。確か……アンモナイトだ」

「中身は。全然。違う」


 エウラシアはこともなげに言った。貝の外側からは中をうかがい知ることはできない。


「何が入っているんですか?」

「……内緒」


 どうやら教えるつもりはないようだ。なんとか出てこさせようと指で突っついたりしてみたが……。


「この貝は。外に出なくても。うー、水から食事が。できるように創った。繁殖も」


 そう言ってエウラシアは貝を二つ、入り口を合わせるようにくっつけた。ピッタリ隙間なく合わさっている。


「理想の。生活」


 どうやらエウラシアの願望を体現した生き物のようだ。……それにしても中身が不安である。


「ヒント、ヒントはなんかないの?」

「……ギザギザして。ぬめぬめして。毛が生えている」


 二人は早々に諦めた。少なくともアンモナイトのような真っ当な生き物ではないだろう。


 続いてはレカエルが箱を開けた。


「本来ならリヴァイアサンでも創りたかったのですが。しかし、天使にふさわしいものができました」


 そう言ってレカエルが出したのは白い魚だった。白いのは体だけではない。本来背びれのあたりに生えていたのは……。


「翼?」


 レカエルのそれをそのまま小さくしたようなミニチュアの翼である。


「その通り。これは水中でも空中でも飛ぶように泳ぎ回ることができる神速の魚。エンゼルフィッシュと名付けました」


 ふふん、と得意げなレカエル。魚にびしっと指を突きつけ、勢いよく命じた。


「さあエンゼルフィッシュ、飛びなさい!」


 ……エンゼルフィッシュは飛び出すことなく、口をパクパク開け閉めしている。


「……飛びなさい!!」


 もう一度命じても反応は変わらない。業を煮やしたレカエルはエンゼルフィッシュをむんずとつかみ放り投げた。


 投げられたエンゼルフィッシュはものすごい勢いで羽ばたいた。…海中めがけて。


 飛行というよりは墜落といった表現が似合うスピードで水中にもぐったエンゼルフィッシュ。


「……そりゃ、水から出たら息できないだろうし。わざわざ空飛んでもエサもないだろうしね」

「うん。無駄」

「よ、余計なお世話です!」


 レカエルは悔しそうに吐き捨てた。


 フィナーレはまたまたツツミである。満を持してツツミは箱のふたを開いた。


「これは……魚ですね」

「魚」


 何の変哲もない魚である。黒みがかった背に銀色の腹。なにか変な器官が付いているわけでもない。


「私、画期的な生き物を創ってしまったよ」


 にやりと笑って、ツツミは箱の中に指を突っ込んだ。うりうりと魚をつつき回す。


 魚はしばらく逃げ回っていたが、とうとう体を大きく震わせ暴れだした。


 身震いした瞬間、魚の両側面の肉がべらりと剥がれ落ちた。肉が二枚箱の底へと沈んでいく。


 頭と尾以外の体を失った魚。しかしそれは何事もなかったように再び泳ぎだした。


 胴体の部分は完全に骨が露出している。


「どう? 私が生み出した最高傑作『サンマイオロシ』は! 危険を感じると自ら切り身を捨て、自分自身は生きながらえる。食物連鎖の底辺にして、捕食されることのない海の牧草は!」


「……ツツミ。これは生命に対する冒とくです」

「……ぐろい。とにかく。ぐろい」

「そんな! この機能美がなぜ理解できないの!?」


 ツツミの必死の訴えは通じず、二人は後ずさるように距離をとっていく。


「そういえば、ツツミの国の人間は、海の生き物を生きたまま丸のみにするそうですね」

「野蛮」

「いや、それは……」

「生の。魚を。……裸の。女性に。乗せたりも。するらしい」

「いやそれはかなり特殊な例で……」


 遠い場所の食文化は、時に大きな誤解をはらんで伝わることがある。


 しばらくの間、二人はツツミを見る目はケダモノに対するそれであった。


 こうしてこの世界最初の生命創造は終わった。


 


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