探索 1
市長から貰った紙切れを握りしめたまま、メイジ-は街の外へむかい、そして山へとむかい、さらに歩き続けていく。メイジ-が握りしめた手の隙間からは、紙がぐしゃぐしゃによれて飛びでており、読み取れたのは占い師という文字であった。紙を受け取ったあとすぐにメイジ-は、山の奥にある洞穴を目指した。
彼女は、彼の存在を知っていた。
いや、10年前の人狼事件を調べる際に必ずと言っていい程、彼の存在が記事に書かれていたから知識だけはあるのだ。
当時、村人達は占い師の意見をもとに、処刑を行っていたが、人狼とは関係ない人物を占い師は示し、その指示に従い、昼間の処刑をし続けていたのだった。結果、村人達は人狼を見つける事ができず、占い師の娘を含む、村の住人の大半を人狼に殺されてしまった。占い師は、その悲しみから世捨て人になっているとのことだった。
メイジ-は、過去の人狼事件を頭の中で整理しながら、けわしい道をこえて、洞穴へたどり着いた。そこは魔物でもでそうな、不思議な雰囲気を漂わせている場所であった。メイジ-は、ランタンに火を灯し、おそるおそるその洞穴の奥へと進んでいった。すると、暗い洞穴の中で、あぐらをかいて、瞑想をしている老人の姿が浮かび上がった。ひからびた老人は、一瞬死人のように見えたが、かすかに動くその姿を見て、生きていると悟ると同時にメイジ-は非常に驚いた。聞いていた占い師は、40代の男性のはずであったが、目の前の男は、どうみても・・・若くみつもっても、90代の老人にしか見えなかった。生きているのか、死んでいるのかも分からない程、歳をとっており、はたして歩けるのか疑問であった。その位よぼよぼの老人であったのだ。
メイジ-が声をかけようとするも、老人の方から言葉が発せられる。
「私に何のようだい? 過去を探すものよ。」
メイジ-は、その言葉にビックリして目を見開き、老人をしっかりと見つめた。
「なぜ、そのことが分かるのですか?」
すかさず、老人は答えていく。
「今の私には、そんなことはたやすく分かる。」
口角をかるく上げた老人は、引き続きメイジ-に問いかける。
「私に何を聞きに来たのかい?」
「10年前の人狼事件について聞きにきました。」
メイジ-は恐れることなく、背をまっすぐに伸ばし、堂々と答えてみた。
すると老人は、目の奥で感情を押し殺し、しかし表情は少しこわばりつつもメイジ-に反応を示した。
「なぜ、それが、今になって知りたいのか?」
この老人に命の炎が灯ったかのように、なぜか彼の表情はいくぶん輝きを取り戻していった。
メイジ-は、10年前の記憶がないこと。街で起きている切り裂き事件が、人狼事件に繋がりがあるのではないか調べていることを伝えていった。
それを聞いた老人は、「もっと近くによりなさい。私が占ってあげよう。」と、メイジ-に言ってから口元をゆるませ、少しばかり微笑んだ。
やはり、この老人こそが占い師で間違いないらしい。と、メイジ-は確信した。
メイジ-は占い師に近づき、しゃがみ込む。すると、占い師はメイジ-の頭をつかみ、グイっと自分の方によせて、呪文を唱え始めると、辺りが光輝き、メイジ-と占い師は光に包まれていく。さらに、占い師の喉から、しゃがれ声が発せられる。
【君の秘密の答えは暗闇に潜んでいる。だから、暗闇に気をつけなさい。】
この預言と共に、光が消失していき、元の洞穴の暗闇へと戻っていく。
占い師は、メイジ-に「時が来れば分かるだろう。」と、伝えた。
メイジ-は街へと戻るために、背を向けて、それを見送りながら占い師は昔の事を思い出していた。
10年前、彼は、知識や、知恵や、学術で占いを行っていた。事件が起きたら当然のごとく意見が求められ、知識、知恵を絞りだし、確実に人狼だと思う人物を見つけ出してきた。
・・・そのはずだった・・・・
しかし、ことごとく、それは外れ、確実な証拠があるのに・・・間違いなく人狼であるはずなのに・・・違うのだ。昼間処刑をしても、夜の殺人が終わらない現実。つまり、人狼とは関係ない無実の村人達を、占い師の一声で処刑してしまったのだ。
しかし、占い師は、あの時、村人達をけして見捨てはしなかった。最後まで村に残り、最後まで戦った。村人達が最後に逃げようと決めた時も、占い師だけは、1人で人狼と戦おうとしており、けして最後まで諦めなかった。しかし、最終的には、そこらじゅうで、火事が起こり、そこらじゅうで人狼の影があり、そこらじゅうで、村人達が死んでいった。
一夜あけると、村人達が大量に殺されているのを見て、占い師は、この世に存在しえない地の果ての絶望を味わった。残されたのは生きている自分だけ、ただただ、1人であった。地の底に落ちた占い師の心は闇に消えて、彼は世捨て人となり、人々は彼の事を廃人と呼ぶようになった。その時に、大魔術師マーリンに出会い、運命の道が切り開かれた過去があり今がある。彼もまた、主君アーサー王を助けられず、後悔から世捨て人になっていた。そんな大魔術師マーリンに指導を頼み、血のにじむような地獄の修行をして、占い師は奇跡をも超えた力を獲得し、魔術を手に入れた。
占い師は、メイジ-を見送った後も、過去の事を考えながら、地面に転がった杖を握りしめて立ち上がり、小さく呟いた。
「私は、いつかくるこの時を・・・・・ずっと待っていた。」
そして、洞穴を久しぶりにでた占い師は、天に向かって瞳をうるわせた。
「神よ、この時を感謝いたします。」
しばらく、天をみつめたあと、占い師はまっすぐ前に向き直り、メイジ-を追うように街へと向かって杖をつきながら歩き始めた。
一方でメイジ-は、帰り道に別の小さな暗い洞穴をみつけ、そちらの方へ向かって歩きはじめていった。