赤ずきんと森の仲間たち
赤ずきんは、目を閉じて過去を思い出していた。
10年前に、姉に裏切られ、人狼に切り裂かれた、あの苦痛は凄まじいものであった。あの時に、本来なら死んでいた。魔女が気まぐれに助けなければ、確実に息を引き取っていたのだろう。しかし、命と引き換えに魔女は呪いをかけてきた。赤ずきんは、かろうじて生き延びるも、この恐れられている森の中で、少女の姿のままで生き延び続けるのは並大抵ではない努力が必要だった。
けれども・・・・
生きてさえいれば・・・
復讐の機会が訪れると信じて・・・
生き続けてきた。全ては、人狼を倒す為に、この10年間の人生を捧げてきたのだ。森の中で技を磨き、強く強く成長した。あの時の苦痛を、そのまんま人狼に味あわさせてやる。そう決心して、赤ずきんは目をあけ、あたりを見渡した。彼女の目の前には、不思議の国の者たちが集まっていた。
彼女は、10年間の殺意と、今まで殺してきた獣の血の匂いと、手に持ったボロボロの斧で、まがまがしい雰囲気を放っているが、しかし愛嬌と周りから愛される魅力を持ち合わせており、それが彼らが集まった理由でもあった。
赤ずきんは、彼らに話かける。
人狼が過去にしてきた行いについて、そして、人狼への想い。さらには、人狼を倒す為に協力してほしいと、仲間になって欲しいと彼らに頭を下げていく。
彼女が、しばらく下げ続けた頭を上げて目を見開くと、彼らは首を横に振り、赤ずきんに背を向けて帰ろうとしてしまう。
「人狼を倒すのに協力をしてほしいの。」
「10年前にやられた無念をはらしたいの。」
「お願い、手伝って!!」
赤ずきんは、森の中に響き渡る位大きな声で叫んでいったが、彼らは、その声に耳もくれず、おのおの自分の家へと戻って行こうとする。彼らは、徐々にその場を離れ、赤ずきんに背を向けるが、一方で残り続けて赤ずきんを見守っている者たちが3人いてくれた。
森の守護者クマ、ピノキオ、長靴をはいた猫だけは、赤ずきんから離れる事なく、立ち去ることなく、強く赤ずきんを見つめていた。赤ずきんは、そのことに安堵し、彼らに目を配らせる。
森の守護者クマは、クマの中でも1番大きい。右目に傷があり、おそらく、これは戦いで負傷したのだろう。彼は戦いなれている証拠だ。彼は、とても頼りになる。これは想像ではなく確信に近い実力からくるものだ。
ピノキオとは、とても相性がよい。赤ずきんは、嘘をつくやつが、もっとも嫌いなのだった。しかし、ピノキオの場合は、彼が嘘をつけば鼻が伸びるので、とても安心ができるのだ。さらにピノキオは、正直者でよいやつだと、噂があった。彼がここに残っていてくれた事は、とても喜ばしい事であった。
長靴をはいた猫は、旅人でめったに会う事はない。しかし、彼は、話しを聞く中で涙を流しながら共感してくれた。よい人格があふれ出ているのだ。
「俺に出来る事なら、なんでもするぜぃ。」
と、猫は赤ずきんと目が合うと微笑んだ。
「もっと仲間が欲しいの。」
赤ずきんがこう答えると、任せろといい。猫は森の中へと消えていった。
赤ずきんは、森のクマと、ピノキオを引き連れて人狼がいると思われる街を目指す事にした。赤ずきんは、街へ行く為の準備を行う為に、小屋へ戻っていった。
この時、赤ずきんは彼らの心の中を全く知らなかったのだ・・・・
森のクマは、10年前に助けた少女に恋をしてしまい、彼女のことが忘れられないでいた。その彼女に、赤ずきんはとても似ており、だからこそ見捨てられなかったのだ。むしろ、クマは、恋した相手に似ているという理由だけで赤ずきんについていく事を決断したのだ。
ピノキオは、嘘をつくたびに鼻を折り続け、もう嘘をついても鼻が伸びなくなっており、本当の気持ちは全くさらけ出していなかった。
長靴をはいた猫は、赤ずきんがあえて声をかけなかった者達を思い浮かべ、彼らに声をかけようとしていた。
そんな、彼らを仲間として信頼している赤ずきんは、復讐に向けて一歩を踏み出した。前に進んでいるたしかな手ごたえを感じ取り、これから待ち受けている物事へと期待を忍ばせていた。
様々な思惑が働くなか、赤ずきんは淡々と準備を始めていくのであった。