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市長の館と闇の手帳

市民から、市長と呼ばれていた男は、窓の外を眺めながら、そわそわと落ち着きなく動いていた。彼の視線は、街を眺めているのではなく、空をただひたすら見つめ続けていた。

ふと、彼の目が一瞬ゆるむと、彼は、窓を開けて新しい空気を部屋の中に入れはじめた。

その空気に紛れるように1匹のカラスが部屋の中に入ってきた。すかさず、市長は声を発した。

「噂は、本当なのか? 赤ずきんは生きているのか?」

その声を聞きながら、カラスは煙を体中から吐き出すようにして、全体が煙に包まれると、次第に人の姿へと形を変えていった。

「まあ、まあ、落ち着きなさいって。」

声をあらげながら、人の姿へとなった者は、服の煙を落とすようにはたきながら、こう答えた。

「うわさは、本当よ。貴方への復讐に燃えているわ。」

この言葉を聞いた瞬間、市長はとても喜びに溢れて、ニヤリと人の姿へと変わった者に笑顔を向けた。

(10年前に殺したのに、生きていたっ!!!)

市長は、たまらない興奮感で、飛び上がるがのごとく体全体を使って喜び始めた。

「素晴らしいことだ!ここ数年でこんなに素晴らしい出来事なんてなかった。とっても喜ばしい事だ。」

そう言いながら、市長は、おもわず力を込めて獣のように唸り始めた。彼は、この幸福感とも呼べる愉快でどうしょうもない感情をコントロールできずにいた。あまりにも感情があふれ出てしまい、次第に手は毛深くなり、その毛深さは体全体へと広がっていた。おぞましい奇声を発しながら、市長は姿形を変えていき獣へとなっていく。人狼だっ!!

獣の姿で、ニヤリと笑えば、歯茎とよだれが垣間見え、恐怖感を生み出していく凄みがある。人狼は、本当に喜んでいた。

10年前、赤ずきんを殺してから、人狼はずっと物足りなさを感じていた。それゆえ、人間の欲を求めてみたのだ。富、権力、栄光・・・しかし、人間の欲なんてしょせんうわっぺらにしか過ぎなかった。あまりにも、手に入れるのが楽すぎた。市長になった人狼は、今の地位に全然満足していなかったのだ。退屈で、退屈でしかたがなかった。毎日が、退屈の連続であった。こんなどうしょうもない生活の中で、急に赤ずきんが生きていたと・・・こんな素敵な情報が手にはいるとは・・・・こんなに、満たされるとは、これ以上の事など他にないだろう。

人狼は、10年前に赤ずきんを切り裂いて、切り裂き、さらに切り裂いた、その上苦痛を与えていったのだ。あの少女を支配した征服感と、あの恍惚とした喜びは、2度と味わえないと思っていた。しかし、もう1度味わえるチャンスがあるだなんて。この最高の赤ずきん殺しの舞台の為に、最高の準備をしてやろう。

そう微笑みながら、人の姿になった物へと目を配る。

彼女はというと、人狼の喜ぶ姿に目もくれず、ろくに返事をすることもなく、椅子に腰かけて、お茶の準備をしている。

そんな環境の中で、人狼は、本棚の奥に隠されている箱を取り出して机の上に置き、蓋を開いた。中からは黒い手帳が現れる。それを、人狼は大切そうにかかえて、椅子に座りながら手帳を開いていく。目の端で、お茶を飲んでいる者を見つめながら、ある手帳のページを開いた。

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魔女・・・・常に悪だくみを考えている。俺が望む時、必ず俺を利用しようとするやつだ。しかし、これは持ちつ持たれつの関係で、やるべきことはやる女。そんな彼女の考えは、嫌いではい。

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このページを頭の中で読みながら、人狼は声をかける。

「魔女よ。お前も準備しておけよ。期待しているからな。」

そう言葉を発しながら、人狼は、手帳のページをどんどんめくっていく。

人狼にとって、この黒い手帳は、最高の財産でもあった。彼が、今まで積み上げてきた全てであり、人狼のもつ闇のつながりが記載されているのだ。これらの人材を活用するには、対価も大きいが、しかし、すごい有能な奴らばかりで、ただ保管しているだけでは全く意味を持たないのだ。人脈とは、使う事に意味がある。

ついに、このコレクション達を使いこなす日が来るとは・・・

そして、赤ずきんを再び殺せる日が来るとは・・・・

人狼は楽しくて、楽しくて、どうしょうもなくワクワクしながら、手帳の文章を真剣に読み始めた。

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アンデット・・・・どんなよごれ仕事もやってくれる。頭がバカなのをのぞけば有能なやつ。

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マッドサイエンティスト・・・・イカレテいるけど、どんな難題も解決できるやつ。

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道化師・・・・最高なシリアルキラーだ。厄介な奴らを根こそぎ消してくれる。ただし、報酬のお菓子をけして切らしてはいけない。

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ブギーマン・・・・できれば使わない方がよい。正直、手を組みたくはない。仕事は、超一流。しかし、こいつとの取引は、マジでヤバい。俺の足元を見て、大事な物を奪おうとする。気をつけろ。

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人狼は、何度もページを行ききしながら、頭をかき、悩んでいた。その中で、次第に冷静さを取り戻してきた人狼は、徐々に市長の姿へと戻っていった。人狼は、よくよく考えながら、各ページを繰り返し眺めて、手紙を数枚書き始めた。

そして、最後に気になっている人物へもう1通文章を作り始めた。

「村の事件を探っている女には1度会っておかないとなっ!」

口元を緩ませながら、人狼は楽しそうに手紙を書いていた。

魔女はというと、久しぶりに満足そうな人狼の姿を、横目でみて、微笑みながらお茶を味わっていた。


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