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不思議な森の奥の小さな小屋

~切り裂き事件と共に、市長の黒い噂は街の外の森にまで広がっていった。その噂は、不思議な森の奥の小さな小屋で、ひっそりと暮らしている少女にも届くのであった~

気味悪い音と共に一匹のネズミが血を垂れ流し、息を引き取った。斧からは、血が滴り落ちていき、その斧を持ってただずんでた少女は、お腹を空かせていた。少女は、斧と不釣り合いな赤ずきんをかぶっていた。肌は白く、ほほがピンク色に染まっており、大きな瞳と、整った顔は、だれもが思わず見惚れてしまう可愛さである。

しかし、その可愛さとは相反して、少女の手は血で染まり今に仕留めたばかりのネズミの骨を手でおり、口に運びはじめた。その少女の名はブランシェット。森の仲間からは赤ずきんと呼ばれている。赤ずきんがネズミを食べていると遠くの方から歌が聞こえてきた。その歌の内容は、ある街で起きた、事件の内容であり、一方で昔の人狼事件を皮肉っている内容であった。聞くやいやな、赤ずきんは歌の主を素早く見つける為に木に登り、遠くで歌っている1羽のカラスを見つけて、手にもっている斧をいきおいよくなげつけた。

ブーメランのように飛ぶ斧を、カラスは慌てて避けようとし、赤ずきんは、よけようとするカラスに近づいて手で握りしめた。

「いったっ。痛いっ。なんてことをするんだい。いきなり斧を投げてきたり・・・」

甲高い声をあげたカラスは、赤ずきんから逃れようともがいている。

赤ずきんの大きな瞳は、澄んだ暗闇色をしており、その闇の中にカラスがしっかりと、とらえられていた。少女のピンク色の唇が開く前に、カラスが先に口を開いた。

「なんだい。あんた。あたしを食っても美味しくはないよ。」

「うるさいっ!!黙りなさい!!」

赤ずきんは、少女独特の可愛い声を響かせながら、しかし可愛さの裏に凄みがたしかにあり、一方で威圧感をかもし出しながら、カラスに話し続けた。

「今、歌った歌は何の歌? どこの歌? どういう意味なの?」

「えー。教えようかな?どうしようかな?」

と、とぼけながら答えるカラスに赤ずきんは、うふふと余裕のある含み笑いをなげかけた。

「答えなさい。そうしなければ殺すわよ。」

赤ずきんは、カラスの首根っこを掴み、そのまま口の中に入れて肉をかじろうとする。ぎょっとしながらも、カラスはあえて冷静に赤ずきんに伝えていく。

「あたしを殺したら、聞き出せないよ。いいんかい?」

ニヤニヤとしながら、さらにカラスは話し続ける。

「今、歌っていた歌が何の歌か知りたいなら、あたしは、あんたに必要な存在だね。」

赤ずきんは、甲高い声のカラスの言うことなど、お見通しだと言わんばかりに答えていく。

「あなたじゃなくてもいいわ。別のカラスを探すから、さよーなら。」

すかさずカラスが答えていく。

「たしかに、この歌を知っているカラスは沢山いるけど、事件の現場をみたカラスは、あたし1人だけだと思うけどね。」

カラスの目が鋭く赤ずきんをとらえていく。赤ずきんは、殺すことをあきらめて、ため息をつきながらも丁寧に聞き直した。

「分かったわ。お願いカラスさん。教えて下さい。」

その言葉を聞くと、カラスは満足そうにうなずき答えていく。カラスの目は、楽しそうに光り輝いており、光の加減が原因なのか。もしくは秘密を話すのが楽しいのか、目だけでは感情は読み取れなかった。

「あたしは、影しか見ていないけど、あいつはキリサキジャックってもんじゃない。人狼なんだよ。10年前の人狼が街に現れたんだよ。」

カラスは、赤ずきんがとても驚くだろうと思い、その表情を見るのが楽しみでしかたがなかった。赤ずきんの反応をしっかりと確かめるように伝えていった。

「ふ~ん。人狼が帰ってきたのね。」

赤ずきんは、可愛らしい笑顔で答えていく。しかし、赤ずきんの瞳の奥には、怒りや殺意があり、その瞳の強さは、おもわずカラスがぞっとする程の表情でもあった。

「あんたは、人狼を知っているのかい。」

「知っているに決まっている。よく覚えているし、忘れたことなどないわ。」

10年前、赤ずきんは人狼に出会っていたのだ。彼女は、人狼にズタズタに切り裂かれてしまったが、魔女の魔法によってかろうじて生き延びる事ができた。しかし、その魔法は赤ずきんにとっては、呪いでもあった。

人狼にズタズタに切り裂かれた内臓はもう死んでおり、魔女が代わりにと獣の内臓を使用して赤ずきんを生かした為、彼女は、その獣と同じものしか食べられなくなってしまった。生肉、生血が、彼女の食事であり、さらに姿は10年前のままである。成長もせずに、少女のままでしか生きられないのであった。赤ずきんは、成長しない自身の能力の代わりに、体力、筋力をつけて、さらに森の奥で訓練をしてきて、人狼と対等に戦える強さを手に入れる努力をしてきた。この想いは10年前にさかのぼる。彼女とともに暮らしていた村人達は、人狼にやられてしまい。自身の想いと、亡くなった村人達の想いを背負って彼女は、復讐の為に生きていた。

「殺して、切り裂いて、私にした事と同じ事を人狼にも行い。いや、それ以上の苦痛を人狼に与え、この手で殺さないといけない。その為に私は生きている。」

赤ずきんは、長いまつ毛を動かすこともせず、見開いたまま、しかし力を込めて呟いた。その呟きはカラスに聞こえるか、聞こえないか位の音量であった。

カラスは、赤ずきんの握りこぶしから飛び立ち、赤ずきんの背の高さの枝にとまり話しかけた。

カラスと目が合った赤ずきんの、その目は、まんまるに燃えて力強い輝きを放っていた。

赤ずきんは口元をゆるませて、血がかすかに残る歯茎を出して、しかし可愛く微笑んだ。

「人狼の殺し方を私は、知っているから、分かるの。あなたに言われなくても犯人が誰かも分かる。」

そう言い残すと、赤ずきんは不思議の森の奥へと歩き出した。

「あんた、人狼に会いにいくんかい?」

「いいえ。殺しに行くの!」

街と逆の方向に行く、赤ずきんにカラスは、すかさず問いかける。

「あんたみたいな、可愛い子に人狼は殺せないよ。それに、あんたどこに行くんだい?街は逆だよ。」

「寄るところがあるの!!」

赤ずきんは、振り返りながらも歩き続けて答えた。

「どこに寄るんだい?」

「準備よ!! 人狼を殺すためのね。」

そう、たんたんと真顔で答えた赤ずきんは、カラスの方を見ずに真っすぐ森の奥を見つめながら微笑んでいた。その微笑みは、人々を恐怖へとおとしいれる位の威圧感があり、しかし愛らしくもあった。当然、後ろ姿を見送っているカラスはその事を知ることはできなかった。

しかし、また一方で、カラスも後ろ姿の赤ずきんを見ながら、ニヤリと笑っていたのだった。

カラスは、赤ずきんが森の奥へと入っていくのを確認すると、満足そうにして、街の方へと飛び立っていった。


この不思議の森には、カラスという鳥は存在していないし、生存できない環境であった。そのことを、知ってか、知らないのか。赤ずきんは、笑顔で鼻歌を歌いながら森の奥へと歩き続けていった。


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