霞ヶ関オフィサーズ
耳「さあ始まりました。霞ヶ関オフィサーズ対東京ファイヤーファイターズの第3戦。実況はわたくし耳野。解説には元霞ヶ関オフィサーズの投手、天降良男さんにお越しいただいております。」
天「よろしくお願いいたします。」
耳「天降さん。シーズンも大詰めになり一位の東京ファイヤーファイターズとしては今日も勝って優勝へと駒を進めたいところでしょうね。」
天「はい。今日も東京中の消防士たちが応援にかけつけていますね。非番・当番にかかわらず。」
耳「ということです。みなさん、火事には十分お気をつけください。消す人がいませんので。」
両者笑う。
耳「先攻はファイヤーファイターズ。守りのオフィサーズ、先発は昨日に続いて疲労野。3日連続の先発となります。これも霞ヶ関オフィサーズならではですね。」
天「ええ。年功序列ですので。先発は投手課長と決まっております。」
耳「毎日先発して疲れないものでしょうか?」
天「まあ投げるのは2,3球ですからね。」
耳「今年で56歳の疲労野。振りかぶって第1球を…投げました!おーっとこれは大きな当たり!打球はぐんぐん伸びて…入りました。ホームラン。東京ファイヤーファイターズ、これは幸先がいい。」
天「やはり打たれましたね。球速60キロもありませんから。」
耳「おっと疲労野、キャッチャーの二種選手を指さして怒っているようです。これは…打たれた責任をなすりつけているのでしょうか?」
天「捕手課はノンキャリ組の人員だけで構成されていますからね。責任なすりつけやすいんですよ。」
耳「これはよくありませんね。子供に見せたくはない光景です。」
天「見てる子供がいますかね?」
耳「わたしたちの時代はプロ野球といえば子供たちの憧れだったんですけどね。企業が撤退してからというものの人気がありません。」
両者笑う。
耳「さて先発の疲労野がベンチへと下がります。監督の知覧野球局長が笑顔で迎えます。打たれたことに対する叱責みたいなものはみえません。」
天「知覧監督は金融監督庁から飛ばされてきただけなので野球のこと全くわからないと思うんですよ。」
耳「そうなんですね。しかしなぜそのような素人をあえて起用したのでしょうか。」
天「監督庁ですからね。監督できると思ったのでしょう。そんなもんです。」
耳「なるほど、全くもってやる気がみえません。さて、ピッチャー変わりまして蕪田。変化球グループを管理する課長補佐ですね。」
天「ええ、年功序列ですから。課長、課長補佐、係長、主任、主査が投げてからようやく若手の係員が出ます。それまでに7,8点とられますがね。」
耳「ここもオフィサーズらしいところですよね。勝利への執着が一切ない。」
天「成果給じゃないですからね。勝っても負けても給料変わらんのです。それなら早目に負けて家に帰りたい。応援するサポーターもいませんし。」
耳「税金を払う我々としてはもう少し頑張ってほしいところですけどね。」
両者笑う。
耳「さあ、ピッチャー蕪田、投球練習を終えました。変化球グループの課長補佐が出てきたということは、今日は変化球グループが当番でしょうかね?」
天「そうでしょうね。変化球系のピッチャーを続けて出してくるでしょう。」
耳「変化球投手であれば年齢でスピードが出なくても、ある程度ファイターズ打線を抑えることもできそうですね。」
天「ええ。運がよければ。」
耳「ピッチャー蕪田。振りかぶって第1球投げました。おおっとこれは大きく曲がってバッター鳶口に直撃。これは危ない。判定は…想定外!想定外です。」
天「思ったより曲がりましたからね。」
耳「想定外ですと…特になにも起こらないんですね。普通ならデッドボールでバッターは一塁へ進めるんですが。そういったこともありません。誰かがペナルティを受けることもありません。」
天「想定外のことは謝りようがありませんよ。」
耳「バッター鳶口、かなり不満げな様子です。」
天「ここは四球でもあげて歩かせればいいんですよ。」
耳「蕪田、第2球を投げました!おーっと!これはまた大きく曲がって鳶口に直撃!鳶口バットを投げ捨ててマウンドへ走る!」
天「暴力はいけませんよぉ、暴力は。」
耳「蕪田、センター方向へ向かって走り出す!ファイヤーファイターズベンチからも選手が続々と出てきます!それにしても天降さん、オフィサーズナインは誰も動きませんね。みな我関せずの姿勢を貫いています。知覧監督も全くベンチから顔を出しません。」
天「縦割り行政ですからね。他の部署のことに首は突っ込まんのです。」
耳「蕪田がセンターで鳶口に捕まりました!ものすごい剣幕で鳶口が怒鳴っています!蕪田が何か言ってますねぇ。これは…」
天「記憶にない、ですね。ぶつけたばかりでこれは通りませんねぇ。」
耳「記憶になくても事実があるのなら誰かが責任をとるべきだと思うんですが。」
天「法律で決められたこと以外はしないのが基本ですから。責任をとるべきは法律であって職員ではない、というのが彼らのスタンスなんですよ。違法行為でもしない限り彼らは謝りません。デッドボールもルールにある限りは合法行為ですからね。」
耳「いやはや、しかしこれでは試合が進みませんね。観客の消防士たちもグラウンドへ流れ込んできて鳶口を囲んでいます。」
天「これはもう弁護士呼ぶしかないですよ。」
両者笑う
耳「おっとそろそろ放送時間の15分となりますので、本日の業界野球の放送はここまでとなります。」
天「放送時間もだいぶ削減されましたな。」
耳「ほとんど誰も見ていませんからね。」
耳「実況はわたくし耳野、解説は天降さん、放送は公益財団法人 日本野球放送協会でした。」
天「時間ぴったりですな。」
耳「これもお役所仕事ですから。」
両者笑う。
レビューいただきありがとうございました!